【やり直し軍師SS-473】切っ先(上)
更新再開いたします!
なんと、このお話でSSの文字数が100万文字を超えました!
これも全て、皆様がたくさん読んでくださっているおかげです!
ありがとうございます!
今回もお楽しみいただければ嬉しいです!
また、コミカライズ版滅亡国家のやり直しが、マンガUP!様にていよいよ6月2日より連載開始です!
いつも応援してくださる皆様に、感謝のちょっとしたプレゼントとして、明日、活動報告にて一部のページ先見せ致します! 多分世界最速公開!
ロアがロアしてます! 動いてます!
なお、連載開始後は毎週月曜日の更新となるそうです! 是非是非お楽しみくださいませ!
SQEXノベル書籍版1〜3巻も好評発売中!
こちらもどうぞよろしくお願いいたします!
かつてこの国が、リフレア神聖国と呼ばれていた時代の宗都に、ジュノスはいた。
ジュノスが折に触れてこの街を訪れるのは、父親の墓参りのためだ。
ジュノスの父ショルツは、誇り高きリフレア聖騎士団の一員としてルデクと戦い、そして戦場に散った。
父を討ったのはザックハート=ローデル。ルデク第三騎士団の騎士団長であり、北ルデクを統治する国家の重鎮である。
加えて、ジュノスの家族の後見人でもあった。
ザックハートは戦いの中で父を高く評価し、寄る辺を失ったジュノスの一家の面倒を申し出たのだ。
父を殺した相手の施しを受けるなど、到底受け入れられるものではなかったが、当時のジュノスは怒りを飲み込んで条件を出した。
自分が騎士団に加入する代わりに、給金という形で施しを受ける形にしたのである。
あれから早くも8年。
ザックハートの首を獲ると宣言して、そのザックハートから鍛えられ続けた結果、いつの間にか第三騎士団でも指折りの実力を身につけるに至っている。
だが、未だにザックハートには、一太刀さえ満足に当てられてはいない。
あの化け物め。
ついこの間も、欲を出して武器の振りが大きくなったところを突かれ、思い切り蹴り飛ばされたばかりだ。思い出したらいささか腹が立ってきた。
つい苛立ちが表情に出てしまっていたのか、通りに座っていた老人が小さく悲鳴をあげた。ジュノスはあえてそちらに視線を移すことなく、早足にその場を通り過ぎる。
老人が悲鳴をあげた理由はわかっていた。ジュノスが第三騎士団のマントを纏っていたからだ。老人はルデクの騎士団員が険しい顔をしていたために恐れたのである。
当時、ルデクの大軍に囲まれ、目の前で国家の象徴たる本山を燃やされたこの街では、騎士団の衣装は恐怖の対象でしかない。それを理解はしているが、同時にジュノスが気にすることではなかった。
この街に残っている人間には、良い薬だ。
ジュノスの父が死んだのは、ルデクに敗れたからではある。だが、その原因を辿れば、リフレアの上層部の暴走こそが元凶。
同盟を持ちかけておきながら、裏ではルデクを喰らおうと画策し、ものの見事に返り討ちにあった。愚かとしか言いようがない。
全てが明るみに出て、北ルデクの中心地が別の場所に移ってなおこの地に留まっているのは、現実を直視できない者たちである。
緩やかに滅ぶだけの街、それが、ここだ。
活気がないどころか、陰鬱さすら漂う通りを淡々と進む。父の墓は、街の片隅にある。
人気のないリフレア教会の横を抜けて、通い慣れた場所へ。
墓の前にはジュノスが前回置いていった花が、そのまま枯れた姿を晒していた。家族はすでに新しい都へ移っているし、この墓地自体、訪れる者は少ない。
前の花を片付けると、新しい花を供え、祈りを捧げる。
ジュノスがこの場所にやってくるのは、怒りを忘れないためだ。心の中に灯した火を消さぬように。
しかしその火が、年々弱く小さくなっているのを自分でも実感していた。
ザックハートへの恩はある。リフレアが悪いのは十分に理解している。騎士団の同僚はいい奴らだ。そして、ルデクの新しい統治は、この国の民に、確実に潤いをもたらしていた。
ふとした時に、もういいのではないか? という気持ちがよぎることが多くなった。
それでも、父のことを思い出せば、全てを終わりにするのは、どうしても抵抗があった。気持ちに、小さな棘が刺さったままなのだ。
祈りなのか自問なのかわからぬ心持ちになった頃、ジュノスは目を開けてそっと墓石に触れると、
「父さん、また来るよ」
と、言い残して、その場を後にした。
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早朝、いつものように一人で鍛錬をしていると、人気のない訓練場に人のやってくる気配が。
手を止めて振り向けば、がっしりとした体躯の将が入ってくるところだった。
「なんだ、今日は俺のほうが早いかと思ったが。よう、ジュノス」
「ああ。ウラルか。お前も十分早い」
ウラル=トラド、現ルデク王の次子。
本来であればこのような口の聞き方は許されない。しかしウラルは団員に対して『私はあくまで修行のために騎士団に入るのだ。身分など気にせずに付き合ってほしい』と、対等の付き合いを望んだのである。
と言ってももちろん、多くの兵たちは多少なりとも遠慮が出る。
だが、ジュノスは別である。元々ルデクの王族に対する敬意など微塵もない。本人が良いというなら問題なかろうという判断のもと、こうしてごく自然な付き合いをしていた。
ウラルもまた、現在の第三騎士団において五指に数えられる実力者だ。何が彼をそうさせているのかは知らないが、王族だというのに怠ることなく鍛え続けている。
このように朝の自主練で顔を会わせることも少なくない。血筋どうこうは関係なく、なかなか見所のある男だと認めていた。
そういえば、ゴルベルの王子は元気にしているだろうか。あれもまた、妙に気の合う相手だった。久しぶりに手紙でも書いてみるか。
「なんだ? ぼうっとして」
ウラルに問われて、あっちもこっちも王族だなと、やや苦笑する。
「なんでもない。それよりも、一戦、やるか?」
「いいな。だが少し待て、体を温める」
そんな風にして、いつもと変わらぬ朝が始まったのである。




