【やり直し軍師SS-466】香水花(1)
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シャーリーは途方に暮れていた。
発展著しい王都、ルデクトラドでお店を開くために遠くからわざわざやってきたのに、到着からわずか3日で、王都の洗礼を受けたのだ。
端的に言えば、シャーリーは騙されたのである。
貸店舗を探し回っていたシャーリーが、なかなか条件に合った物件が見つからずに困っていたところで、声をかけられた。
『君は運が良い。たった今退去したばかりの物件がある。よければ見てみないか?』と。
その店舗はシャーリーにとって理想的であったし、賃料も相場より安かった。目抜通りからは少し離れるけれど、一目見て、シャーリーはすっかり気に入ってしまったのだ。
『退去手続きに今日いっぱいかかるから、契約は明日でもいいかな? 今日中に手付金として半年分の賃料を払ってくれれば、他には話を回さんよ』
そのように提案され、シャーリーは一も二もなく飛びついたのである。
そして見事に騙された。
翌日契約のために店に来てみれば、待てど暮らせど昨日の男はやってこない。店舗には鍵がかかったまま。
困り果てて看板に書いてあった家主の元へと向かえば、そんな話は知らないという。しかも、あの店舗はもう他に人に貸す約束があると。シャーリーがお金を払ったと伝えても、気の毒そうにするばかり。
―――せっかく、ここまでやってきたのに―――
先に品物のために倉庫を確保してある。商品の特性から、どうしても先に倉庫を借りねばならなかったのだ。
倉庫の利用料も考えれば、残ったお金で今から新しい店舗を契約をするのは、費用的にかなり厳しい。いや、現在の王都の相場を考えれば、はっきりいって、無理だと思う。
騙されたことも悔しいし、何より、頑張ってここまで持ってきた商品を、全て無駄にするのが悲しい。父さんと母さんが手塩にかけて育てたのに……。
目抜通りは人で溢れているけれど、シャーリーは強い孤独を感じて立ち止まる。さまざまな思いがお腹の中でぐるぐると渦巻いて、涙がこぼれそうになった。
―――こんな大通りで泣いちゃだめだ―――
シャーリーは慌てて路地裏へと駆け込み、大きく息を吸うと、その場にしゃがみ込む。
―――ちょっとだけ、ちょっとだけ、ここで、泣こう―――
声を殺して涙をこぼし始めたシャーリーに、
「どうしたの、泣いているの? 大丈夫?」
という優しい声と、そっと背中に触れる暖かな手。
涙でぼやけた目で振り向けば、
そこには少し癖っ毛の黒髪の女性と、透き通るような青い髪に、宝石みたいな赤い目をした女の人がいた。
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「それは酷い目にあったね!」
ルファと名乗った女の人は、私の話を聞くなりそのように憤る。
「ねえ、城門にいる警備兵には伝えた?」
「は、はい。でも……『見つけるのは難しいだろう』って……」
最近増えている詐欺であるらしい。私のような田舎者を騙すために、貸店舗を扱う店の前でカモを探しているのだそうだ。
「それは良くないよ! ね、スールちゃんもそう思うでしょ!」
「そうだね。確かに、店舗詐欺の噂は宿で聞いたことがあるわ。でも、見つけるのは無理だから諦めろっていうのは、王都の民としても少し恥ずかしい」
「ね! ちょっと抗議しよう! じゃあ、城門へ行こうか」
「え? え?」
早々に歩き出そうとするルファさん。
同情してくれたことも、憤ってくれたものありがたい。けれど正直、私と同い年くらいの娘さんが抗議をしたところで、衛兵は相手にしないのではないだろうか?
下手をすれば、目をつけられたり、投獄されたりするかもしれない。
不安が顔に出てしまったのだろう。そんな私を見て、
「大丈夫よ。ルファちゃんがいるから」
と私の手をとるスールさん。
「早く早く! 行くよ!」
元気に目抜通りを進んでゆくルファさんを追って、涙を拭う暇も与えられないままに、私は城門にいる衛兵の元へと向かったのである。
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受付にいたのは、先ほど私の対応をした若い衛兵だ。
こちらをチラリと見て、私の姿を見咎めると、『またきたのか』という少し面倒そうな顔をした。いや、もしかすると私の被害妄想かもしれないけれど。その視線でつい、足が止まってしまう。
でも。
私からルファさんとスールさんへ視線を移した衛兵は、驚愕の顔で立ち上がると、敬礼をして慌てて奥へと引っ込んでゆく。
そんな衛兵さんの様子を見て、こちらに顔を向けた他の衛兵さんたちからもざわめきが起こった。
状況が全くわからずに、私が動揺していると、先ほどの若い衛兵さんが、別の人を連れて戻ってきた。服装からして上官の人なのだろう。
「あ、ロズウェルだ! ちょうど良かった!」
ルファさんに呼び捨てにされた上官の人は、特に気にするでもなく、むしろ少し困った顔をする。
「報告を受けてまさかとは思いましたが、急にどうしたんですか?」
「うん、実はねー」
ルファさんの話を聞いたその人は、
「……分かりました。すぐに対応します」
と即決。
「衛兵さんだけだと大変だったら、ネルちゃんに相談してもいいかも」
「そうですね。“あちら”とも共有しましょう。で、結果はどこに知らせれば良いですか?」
ロズウェルというお人に、そう問われたルファさんは、
「うーん。じゃあ、スールちゃんのとこで待ってようか? スールちゃん、いい?」
「うん。大丈夫だよ」
短く言葉を交わすと、
「じゃあ、シャーリーちゃん、行こうか!」
と、再び私を連れて街へと繰り出すのだった。