【やり直し軍師SS-465】知者の戦い(20)
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「モリネラ王国ではなく、スラン王国の企みだぁ? おい、説明しろ」
「はい。スランのブラノアは、策謀が得意な将です。特に、国家間の仲違いをさせるような策を好んで使います」
「ほお、そいつがウチとフェザリスの関係を壊そうと画策した、そう言いたいのか?」
陛下の言葉に僕は首を振った。
「帝国とフェザリスではなく、おそらく狙いは、ルデクと帝国の関係の方だと思います」
「どうしてそう思う?」
僕が考えたのは、ブラノアがかつての未来で講じた策謀を、南の大陸の国家ではなく、こちらへ仕掛けてきたのではないかという可能性だ。
現状のフェザリスと反フェザリスの勢力状況は、国力の面からすれば反フェザリスの方がやや優勢。
しかし、勢いだけで言えばフェザリス側、新興勢力の方にある。そして新興勢力の追い風となっている要因の一つが、ルデクと帝国の北の2強の存在。
僕ら北の大陸の2強に対して、反フェザリスの陣営は直接的な敵対行動がとり難い。交易面での影響が大きいからだ。
現在の北の大陸の経済は、完全にルデクと帝国が握っている。そんな相手と国交断絶となった場合、大きな国ならともかく中小国家は死活問題となる恐れがある。
仮に国交断絶となればどうなるか。僕が南の中小国家の指導者であれば、躊躇なくフェザリス側へ鞍替えするだろう。僕と同じように考える国は少なくないと思う。
そうなると、反フェザリス派閥は自壊の一途だ。なので、反フェザリス陣営からすれば、僕らの存在は非常に厄介であり、できれば軋轢なく南の大陸の問題から手を引いてもらいたいのだ。
では、ルデクと帝国が南の大陸から退く方法として、一番手っ取り早く、自国が目をつけられない方法はなんだろうか。
北の大陸の方で問題が起きれば良い。南の大陸に構っていられないような。
ならば狙いはルデクと帝国の関係の悪化だろう。
2大強国がギスギスし始めれば、南の大陸の紛争に興味を示さなくなるどころか、うまくすればどちらかを反フェザリス陣営に引き込むチャンスもある。どちらに転んでも、フェザリスにとっては大打撃。
「……とまあ、そんな計略の第一歩であったのではないかと」
「妙な事を考えたな。しかし、ウチが救援依頼を無視すれば、それで終わりじゃねえか?」
陛下が疑念を口にすると、僕より先にフォルク様が口をひらく。
「……いえ、そうとも限りません。断った時は、改めてルデクに打診すれば良いのです。それこそ、フェザリス陣営に入りたい小国が、帝国に見捨てられたとでもいえば、ルデクも検討せざるを得ないでしょう。うまく立ち回れば、出兵を見送った帝国と、援助したルデクの間に、小さな蟠りができる。ロア殿、もちろんこの策、このままで終わりというわけではあるまい?」
「フォルク様の言う通りですね。これは策の第一手。それこそ、盤上遊戯ならば序盤の序盤です。とにかくきっかけさえ掴めば、こちらの対応した“一手”に合わせて、次の手を講じてゆくでしょう」
僕が応じると、フォルク様は鋭い視線でリヴォーテを見る。
「リヴォーテ、どう思う?」
「可能性として、選択肢に入れるべき内容かと」
「ああ。私もそのように思う。なるほど、一介の外交官へ話を持ちかけたのも、なんらかの策の一環かもしれんな。気づけなかった己にいささか腹が立つ」
そんな風に言うフォルク様だったけれど、そもそも僕の話はかなり妄想が先に立つ話だ。なんの根拠もない。僕が知っているのは別の未来でブラノアがそういう策を実行した、という事実だけなのだ。
「いえ。正直、自分でも突拍子のない事を言っていると思っています」
言いながら、真剣に受け止めるような考えではない気がしてきた。
「だが知っちまったら、放置できねえのも事実だな」
陛下もそのように言い、ビッテガルド様も頷く。そして今度はビッテガルド様が口を開いた。
「可能性があるなら排除しておくべきであろう。ロアよ、もしも貴殿の考えたような策謀が巡らされているのであれば、それに対抗するにはどうすべきだと思うか?」
「……そう、ですね……両国間に付け入る隙がないと思わせるか……」
「か? 何やら含みのある言い方だな」
「先ほどの延長線上、と言うわけでもないのですが、これが盤上遊戯の序盤戦なら、向こうはこちらの動きを確認するための、いわば探りの一手を打ってきているわけですよね」
「まあそういうことになるな」
「相手がこちらの動きを観察しようという腹づもりなら、いっそ、こちらは相手が対処できぬような速攻戦を仕掛けるのも手かな、と」
なおも首を傾げるビッテガルド様の隣で、陛下が唐突に笑い出す。
「くくく、面白え。お前のやりたいこと、わかったぞ」
「できれば僕としては、もう少し穏便な方法の方がいい気もするのですけどね」
場合によっては、餌にされたモリネラ王国は大変な目に遭うかもしれない。それにそもそも、僕の考えが本当にただの見当違いな妄想であった場合、彼の国からすればとんだとばっちりだ。
「いや、他国に頼るってのは、そう言うリスクも背負うもんだろ? で、旗艦船を出すのか?」
「……見た目に分かりやすいですからね。自分で言っておいてなんですが、本当にやる気ですか?」
「ああ。それなら俺も乗ってもいい。おい、ビッテガルド新皇帝よ」
「なんでしょう、ドラク上皇」
「軍は起こす。ただしルデクと足並みを揃えるぞ。ビッテガルド、すぐにルデク王へ親書を用意しろ。忙しくなる!」
なんだか妙にやる気になってしまった陛下。
こうして、催しを楽しめるかなと気軽にやってきた僕は、とんだ土産話を持たされて、急ぎ王都へ戻ることになったのであった。
今回のお話、元々はただ盤上遊戯で楽しく遊ぶだけのつもりであったのに、とんでもない場所に着地して困惑しております。
作者も予期しない続き物となりましので、続きは少し後になると思います!
次回は別のお話です!




