【やり直し軍師SS-459】知者の戦い(14)
大陸一を決める盤上遊戯の戦いは、ついに最終日を迎える。
最終的に最も勝ち数が多かったのは、グリードル帝国代表と、シューレット代表。最終日は両代表の決勝戦が行われた。
この時ばかりは僕も観客として、純粋に対戦を楽しむことにした。会場は満員、人の熱気がすごい。
ちなみに一般市民の対戦は昨日までで終了しており、一般対戦用の場所も臨時の観客席に代わっていたので、対決を見守る人々の数は相当なものだ。
会場の熱量に押されるように、戦いは加熱してゆく。まさに激闘、と呼べる一戦で、最初に勝利を収めたのはシューレット代表のフィリングさん。陛下を下しての勝利である。
会場の雰囲気に呑まれたのか、普段冷静なフィリングさんが拳を握って喜びを表していた。
次に勝利を収めたのはルベットだ。結局ルベットはフォリザ以外には全勝、個人成績としては第二位で戦いを終える。
そうして最後に残ったのはオリヴィア様のところ。対戦相手は個人成績でフォリザ、ルベットに次ぐ第三位の勝率を誇る、シューレット代表最強の人物。
シューレットがあえてこの人をルベットにぶつけなかった事から、ここまできたら勝ちたいという意志の強さが垣間見られた。
戦いは長時間の及ぶ。かなり複雑な戦局に、観客も固唾を飲んで見守る。
そしてついに決着の時はきた。
オリヴィア様の対戦相手が、大きく息を吐いて天井を仰ぐ。
一拍おいて、静かに一礼。
進行役が盤面を確認すると、観客に聞こえるように声を張った。
「帝国代表、オリヴィア殿の勝利!! これにより、第一回盤上遊戯の大陸第一位は、グリードル帝国と決まった!!」
次の瞬間、どわあ! っと盛り上がる会場。今回の催し、招待客以外は帝国民に限られていたので、その喜び様たるや、である。
各所で乾杯の掛け声が聞こえ、それを満足げに見る陛下。騒ぎがある程度落ち着くまで、四半刻ほどかかったほど。
そうして機を見計らって登場したのは、新皇帝、ビッテガルドだ。
「本日まで数々の名勝負を見せてくれた、各国の代表に感謝する! これより、表彰式を行う!」
ビッテガルドの宣言で、該当の人物が呼び出される。ルデク代表は、総合4位で終了しているけれど、個人ではフォリザが無敗の記録を叩き出して表彰された。事実上、盤上遊戯の大陸最強はフォリザである。
フォリザには賞金などに加えて、金で作った盤上遊戯の盤と駒が送られた。流石帝国、豪華なものだ。
こうして盤上遊戯の戦いは、大成功の上に幕を下ろした。この後、夜に慰労を兼ねた祝宴が行われ、翌日、ちょっとした政治面での会談を終えたら、全ての予定が終了。
僕以外は、という意味ではあるけれど。
催しが終わった、翌々日の夜。
中央の舞台以外の片付けも終わって、閑散とする会場に、僕らは再び集められた。
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「えーっと、随分と多いですね」
僕が口にしたのは、立会いの人数である。
元々今回の件は内々に行われると聞いていた。なので、王宮の一室で行われるばかりと思っていたのだけど……。
「まあ気にするな。見てえってやつが多くてな」
ぬははと笑う陛下。
僕ら当事者以外でこの場にいるのは、陛下やビッテガルド様、ツェツィーにルルリア、ロカビルにサリーシャ様まで帝国皇家勢揃い。
それだけではない、今回の件に無関係ではないリヴォーテとルベットの実父であるネッツ様はともかく、フォルク様やジベリアーノ様、アイン様などなど、帝国を繁栄に導いた重鎮中の重鎮が勢揃いしている。
これほどの面々一堂に見るのは、謁見の間くらい。という錚々(そうそう)たる人々が、興味深そうに古典的の盤上を眺めていた。
「そうなのですか……」
僕としても、そう言うしかない。別に断る理由もないし。
「もしかしたら戦場で相まみえたかもしれん相手だ。どいつもこいつも見てみたいのよ」
「……あーそう言う事ですか」
つまりこの人たちはルベットではなく、僕を見に来たと。
「大陸にその名を轟かす、天才軍師ロア=シュタイン。その才の一端。そりゃ、俺でも見てえ」
言いたいことは理解できるけれど、ちょっと迷惑かな。そもそもが、だ。
「けど、僕は古典的の達人でもなんでもないですよ?」
「そんな事は分かってる。だが、俺も少し触った感じ、こっちはかなり実戦的な遊びだ。お前の才覚が全く発揮されんと言うことは無かろう?」
陛下が中途半端に古典的に対して理解があるので厄介である。
こうして僕は、何やら見せ物のような気持ちになりながら、ルベットと対峙することになったのだ。