表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/537

【やり直し軍師SS-46】第三皇子は翻弄される④



 神算鬼謀、機謀権略、奇策縦横、機知奇策。


 ラ・ベルノ・アレの役者が演じるロア=シュタインは大軍師の名に恥じぬ縦横無尽の活躍で、ルデクを勝利に導いてゆく。


 演劇である以上、主人公のロア=シュタインの活躍は大幅に誇張されているのだろうが、それにしても劇中のロアは凄まじい。


 しかし、それらを事実のように感じさせるあたり、ラ・ベルノ・アレの技量を感じる。


 一言で言えば、面白かった。


「ーーそしてロアは、大陸に恒久の平和をもたらしたのでございますーー」


 語り部が物語を締めると、ロカビル達だけではなく警備の兵士からも拍手が湧き起こった。


 リヴォーテだけは少し複雑な表情をしているのはなぜだろうか。ロアと不仲なのか? いや、帝都で見た感じではそうでもなかったが。


 拍手が終わると、団員が恭しく頭を下げて舞台を降りてゆく。


 最後に残った男に、サリーシャ様が声をかけた。


「……確か、貴方、グーベックだったかしら? 一座の取りまとめ役よね」


 グーベックと呼ばれた男は、再度頭を下げ、そのままの姿勢で返答する。


「私などの名前を覚えておいていただけたこと、恐悦です。サリーシャ様」


「ラ・ベルノ・アレは有名ですもの。今度、帝都(デンタロス)にいらしたら、皆様を宴にでもお誘きしたいのだけど……」


 グーベックは顔を上げぬまま、


「我々などには勿体ない申し出ですが……劇の披露であれば、またお声がけくださいませ」


 と、やんわりと断ってきた。


「あら、振られちゃったわね。自由を愛する貴方達のこと、仕方がないわ」


 サリーシャも強要するようなことはしない。しかし、(ロカビル)は妙に気になって、余計な一言と分かっていながらもグーベックに問いかける。


「ロア=シュタインの招きであったらどうなのだ?」


 私の言葉に、グーベックの肩がぴくりと動いた。


「いや、誤解のある言い方をしてしまってすまん。別に嫌味を言うつもりではない。ただ今の劇、随分とロア=シュタインに入れ込んでいるように感じた」


 私は演劇の素人ではあるが、ラ・ベルノ・アレや、他の旅一座が帝都にやってきた時に幾つかの劇を見たことがある。


 だが、今回の劇は、なんと言うか熱量が違った気がした。それが、物語を書いた者の熱なのか、演じる者の熱なのかは分からないが。


 ロカビルの素直な感想に、グーベックはようやく顔を上げる。


「ロカビル=デラッサ様は良い目をお持ちですな。おっしゃる通り、この劇は我々にとって特別なものです。ゆえに、最初はこの場所で、この地に散っていった方々の前で演じようと決めておりました。そして、ロア=シュタイン様もまた、多くの旅一座にとって特別な存在。先ほどの問いでございますが、ロア様が呼ばれるなら、伺いましょう」


「……随分と、ロア=シュタインを買っているのだな。理由を聞いても良いか?」


「特に隠すような話ではございません。こちらは構いませんが、時間がかかります。お急ぎでは?」


 グーベックに言われてはたと気付いた。もう良い時間である。予定の宿泊地まではどのくらいかかるのだろう。


「ねえ、リュゼル様、なんとかならないかしら?」


 ルルリアが目を爛々とさせながらリュゼルを見る。興味津々と言った様子だ。


「しかし……」


 リュゼルも困った様子。そんな間に入ったのはリヴォーテ。


「リュゼル。今日はオークルの砦に泊まったらどうだ? あそこならここから近い」


「オークルですか、まあ、これから準備をさせれば対応は可能だとは思いますが」


「やった!」


 喜ぶルルリアと、苦笑するリュゼル。ルルリアでなくとも、こんな中途半端なところで聞かずに終わるのは私も座りが悪い。


 話がまとまり、リュゼルが部下を数名オークルの砦に走らせるのを待って「では、話しても宜しいか」と、グーベックが口を開く。



 グーベックが語った話は、先ほどの劇にも負けぬほどに、ロアの凄さと怖さを感じさせるような物語であった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 劇と共に、予期せぬロア=シュタインの物語を聞いた後の馬車の中。すっかり暗くなってしまった道を、オークルの砦に急ぐ。


 馬車の中で鼻歌を歌うルルリアに、私は「随分とご機嫌だな」と声をかける。


「ええ。ツェツィーにとても良い土産話ができましたもの!」


 嬉しそうなルルリアに、サリーシャ様も微笑んでいる。


「話には聞いていたけれど、貴方もツェツェドラも随分とロア殿にご執心なのね」


「はい。サリーシャ様。ツェツィーもロアが大好きなんです。最近はよくお手紙のやり取りをしているそうですよ」


「あらあら。ちなみにルルリアも?」


「いえ、私は祖国の商売関係のやり取りだけですね。夫のある身ですから! 代わりと言ってはなんですけれど、ラピリアやルファとはよくお手紙をやりとりしています!」



「ルファ、とはザックハートの義娘だったな。確かリヴォーテとも親しいと聞いている」


 私は一度しか会ったことないが、なかなかに人懐こい娘だった記憶はある。


「ええ。ルファのお手紙にもリヴォーテと楽しく遊んでいる話がたくさん書かれていますよ。よく一緒に第10騎士団の食糧庫の掃除をしているそうです」


「ルデクの騎士団の食糧庫の掃除を? リヴォーテが? なぜだ?」


「さあ?」


私は思わず馬車から顔を出して、馬車の隣を警備しているリヴォーテを見た。


「どうされましたか?」


 こちらに気付いたリヴォーテ。松明に照らされ、凛々しい顔で私に視線を向けている。


「いや、なんでもない」



 私は首を傾げつつ、窓から顔を引っ込めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 気になっていた所の話がでてやはり面白い。 [気になる点] 余白が多い。 [一言] 番外編と言わず、別の話でも書いてください。
[良い点] 怖さを感じる方の四文字熟語は、主に各国のトップらへんが非公式に語るくらいなんだろうなぁw そのうち「とっとこリヴォ太郎」も劇にしていこうw
[気になる点] リヴォ太郎の真の姿を知ったらどう思うだろうか・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ