【やり直し軍師SS-448】知者の戦い(3)
ジャスターから紹介されたフォリザは、状況が分からず、困惑しながら祖父を見る。そうしてジャスターから内容を聞かされると、切長の目を大きく見開いた。
「ええ!? 私がルデクの代表として? 宰相様と帝国へ!?」
そりゃあ、驚くだろう。なんと答えて良いのか迷うフォリザに、声をかけたのはウィックハルトだ。
「フォリザさんは随分お若く見えます。失礼ながら、本当に盤上遊戯の名手なのですか?」
「えっと……名手なんて大層なものではないと思いますが……おじいちゃんにも勝てたことはありませんし」
「もし宜しければ、この場で私と一戦交えていただけませんでしょうか? ロア殿、私はそこまで盤上遊戯が巧みではありませんが、客観的にご覧になられて見える部分もあるかと」
ウィックハルトの提案に、僕は少し考える。これは多分、ウィックハルトなりの気遣いか。
実力を見定めるのならば、僕が対戦するのが一番手っ取り早い。けれどもしもフォリザの実力が期待したものでなかった場合、一方的な展開になるかもしれない。
そうなれば、フォリザはもちろん、ジャスターにも恥をかかせる事になるわけだ。
もしもフォリザがダメでも、ジャスターのつては頼りにしたい。そうなれば、ここで僕が出るよりは、ウィックハルトの提案を受け入れた方が丸く収まる。
「……うん。フォリザさえ良ければ、僕は構わないよ」
僕の言葉にフォリザも了承し、急遽、ウィックハルトとフォリザの一戦が始まったのである。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
僕らが見つめる中で、両者の手は澱みなく動く。
巧みではないと言ったウィックハルトも、それなりには打てる口だ。序盤は互いに探り合いのような時間が続き、中盤に差し掛かっていよいよ戦局が動き始める。
仕掛けたのはウィックハルト。フォリザは徹底して守りに徹する。
一見すればウィックハルトが優位に感じるけれど、これは……。
「強いですね」
僕の隣で見ていたネルフィアが呟く。
「分かるの?」
「ええ。以前は王とレイズ様の戦いを、よく観戦しておりましたので」
なるほど、それはこの国でも一番目の肥えた観客かもしれない。
「なら、ネルフィアもそれなりに打てるんじゃないの?」
「さあ、どうでしょうか? 自分で触ったことはありません」
あっさりとした返事。
まあ、仮にネルフィアが盤上遊戯の実力者であったとしても、諜報部のトップを代表として表舞台に出せはしないので、そこまで追求はしない。ただ、個人的にはいずれどこかで一度くらい対戦してみたいと思う。
ネルフィアの事はともかく。多分、ウィックハルトとの戦いはこれ以上見るまでもない。ジャスターが推す通り、フォリザの実力は相当なものだ。
「ジャスターさん。フォリザはいつから盤上遊戯を?」
「物心ついた時から、ほぼ毎日私と打っております」
……なるほどね。ルデク最強と謳われるの御仁と毎日か。
盤面は終盤に差し掛かり、すでに圧倒的な差がつき始めたところでウィックハルトが降参。これでルデク代表の一人はフォリザと決まった。
まずは一人確保だ。あと一人なんとかしないとなぁ……。
「時に宰相様、もし宜しければ、もう一人推薦したい弟子がいるのですが……」
そんなジャスターの言葉に、僕は一も二もなく飛びつくのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「王都に来るのは少々久しぶりだな! 宰相、息災そうで何より! 双子も相変わらずだな!」
「おうよ」
「ロアとの話が終わったら勝負するぞ」
「もちろんだ。そのためにここまで来たのだからな」
そのためにここまで来たのか、と呆れながら僕らが出迎えたのはトール将軍。
盤上遊戯の祭典にあたり、トール将軍の協力を取り付けるために手紙を書いたところ、こうして本人がやってきたのである。
と言っても、僕が用があるのはトール将軍本人ではない。トール将軍はあくまでおまけであり、多分、この場にやってきたのは本当に双子と遊ぶのが主目的なのだろう。
僕はトール将軍の横で大人しくしている女性に視線を移す。
「カペラさん。わざわざありがとうございます」
「いえ。トール様もこの様子ですので、なんの問題もありません。が、本当に私でよろしいのですか?」
「もちろんです」
そう、ジャスターが推薦した最後の一人は、トール将軍の三女神の一人、カペラさんだったのである。




