【やり直し軍師SS-446】知者の戦い(1)
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グリードル帝国初代皇帝、ドラク=デラッサが正式に退位を発表した。
それに伴い、第一皇子ビッテガルド=デラッサが帝国二代皇帝に即位。つい先日、僕らは即位式に招かれて帝国に立ち寄ったばかりだ。
相変わらず色々と騒がしい訪問となったけれど、それはともかく。王都へ帰還して少し経った頃、唐突に帝国の第三皇子であるロカビルが僕を訪ねてきた。
「あれ? 急な問題でもありましたか?」
先日帝都で会ったばかりだ。まして、ロカビルがルデクにやってくるのは珍しい。よほどの要件かとやや身構える。
「いや、特に問題が起こったわけではないのだが……」
歯切れの悪い返事のロカビルに、僕は急用でないならと密かに胸を撫で下ろし、ひとまず世間話に転じる。
「そういえば、先日は慌ただしくて簡単な祝辞になってしまいましたが、宰相就任おめでとうございます」
ビッテガルドが戴冠するにあたり、他の兄弟にも新しい立場が与えられたのだ。ロカビルには新たな爵位と帝国宰相の座が、そしてツェツィーはシティバーク大公の名が贈られた。
「祝いの言葉、感謝する。と言っても私はまだなんの実績もない宰相だ。同じ立場でありながら、英雄宰相として確固たる結果を積み上げた貴殿には遠く及ばない。願わくば、宰相の先達として、相談に乗ってもらえるとありがたい」
ロカビルは謙遜しているけれど、実績がないなどとんでもない。
あの奔放な皇帝陛下、今は上皇陛下か。とにかく陛下は内政関係の面倒ごとを、ほぼロカビルに丸投げしていた。
ビッテガルドが軍部を、ツェツィーとルルリアが海洋貿易の中心で名を馳せる中、最も地味でありながら、帝国の政を粛々と進めたロカビルの存在は大きい。
ロカビルの宰相就任は、激動の帝国史を駆け抜けた、古参の将達の推薦もあっての事だと聞いた。戴冠式の場で、オリヴィア様が話していたので事実だろう。
ともかくちょっとした雑談を終えて、いよいよ本題である。
「それで、わざわざルデクまでどうしたんですか?」
僕の再度の質問に、ロカビルは一度紅茶で喉を湿らせてから、ため息と共に言葉をこぼす。
「暇になったのを良いことに、父上が面倒な事を言い始めた」
「面倒な事?」
うちの双子と同じように、大きな問題児たる存在が陛下である。非常に厄介な予感しかしない。
「ああ。端的に背景を話せば、『ロアばかり楽しげな催し物を行なってずるい』と仰い始めた」
「あー」
いい歳をした陛下が、口を尖らせる姿が想像できる。
「いや、別に僕は、祭りが好きというわけではないですが……」
「それはそうかもしれんが、ロアは多くの催しを手掛け、そして成功させている。それが父上としては面白くないらしい。これまでは忙しく手が回らなかったが、引退した今なら、と」
なんという子供っぽい理由。
「でも、中には持ち回りにした催しもあるじゃないですか? 競い馬とか」
「ああ。しかしそれらがすべてロアの発案である事も気に入らないと。何か、ルデクでは開催した事のない祭りをやりたいとの仰せなのだ」
「……まさかとは思いますが、僕に何か考えろと言うのではないですよね?」
さすがにそれは遠慮願いたい。僕だって暇ではないのである。けれど、ロカビルはそれを否定。
「いや、そうではない。それでは結局、ロアが考えた催しになってしまう」
「あ、それもそうですね。では……」
「すでに開催させる題目は父上が決められた。そして今回訪れたのは、貴殿にも参加を頼みたい事と、貴殿を見込んで協力してもらいたいためなのだ」
「協力は分かりますが、参加?」
なんだろう? 合同演習でも行うつもりだろうか?
ロカビルは、帝国印の入った正式な書類を恭しく僕に手渡す。
「この度、我がグリードル帝国では、盤上遊戯の大陸一を決めるための大会を催したいと思う。ひいては、ルデクでも指折りの腕を持つ宰相、ロア=シュタイン殿を是非とも大会に招待したい。また、併せてルデクにいる盤上遊戯の名手を、貴殿に推薦してもらいたく、お願い申し上げる」
そうきたか。
面倒ではあるけれど、それは確かに面白そうだ。陛下の勝ち誇った顔が目に浮かぶ。
悔しいけれど、ロカビルの話を聞いて、僕は少しだけワクワクしたのであった。




