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【やり直し軍師SS-445】秘密の生徒(10)

皆様の温かいご支援のおかげで、SQEXノベル 滅亡国家のやり直し第三巻、無事に本日発売でございます!

お近くの本屋さん、各Webサイト様にて是非是非お求めくださいませ!!


今回のSSはここまで、やや珍しいお話でしたがいががでしたでしょうか?

この2人に関してはもうちょっと何か書きたいなとも思います。


次回更新は3/20を予定しております!

またどうぞよろしくお願い申し上げます!


 後日、ゼクシアは学院長室へメバッドを呼び出した。


 待ち構えていたゼクシアの表情を見て、全てを悟ったように力無く頭を下げるメバット。


「メバット先輩、いや、この場では王子の立場で話させてもらおう。メバット、呼び出された理由は分かるか」


「……殿下。全ての企みはこのメバット1人で計画したものです。他の生徒も、そしてもちろん父も存じ上げません。罰は全て私にお与えくださいませ」


 露見した場合を、ある程度覚悟していたのだろう。メバットの言葉には迷いなく、動揺も見られない。


「君を罰するか決めるのは、まず、全ての事情を聞いてからだ。まさか、この後に及んで、話せないという事はないな?」


「……このような願いを述べる立場ではないことは、重々承知の上で、一つだけ約束していただけませんか、殿下? 私の話を、口外しないと」


「それは随分と都合の良い話だ」


「おっしゃる通りです。しかし、約束が叶わねば、私は語る事ができません」


「仮に今後、申し開きの機会を一切得る事ができずに、極刑に処されるとしてもか?」


「はい。我が命よりも」


 しばしの睨み合い。絶対にそれだけは譲れないというメバットの強い意志。ゼクシアは小さくため息をつくと、同席していたボルドラス学園長、レゼットとラゼットに目配せする。


「……約束できない。が、伝える相手は限定する。我が父、ルデク王及び、宰相に仔細を伝え、私からそれ以上の第三者に話す事はない。ここが譲歩できる限界だ。それでも承服しないのならば、直ちに君を然るべき機関へ引き渡す」


「……分かりました。ゼクシア王子の条件で構いません。ご配慮を感謝いたします」


「では、話してもらおうか。いや、先に一つ確認しておこう。君の目的は、“特例休学”なのか?」


 メバットは少し目を見開き、今日初めてわずかな驚きを見せる。


「まさか、そこまで見当をつけておられるとは……。殿下のおっしゃる通り、私は昨年の一件と同じように、とある生徒に特別休学を与えたかったのです」


「とある生徒?」


「はい。名前はエルグラ。今年の入学試験を上位で突破し、入学の権利を与えられた娘です」


「ボルドラス学院長、今、名簿か何かで確認できますか?」


「少しお待ちいただきたい」


 ボルドラスが席を外し、すぐに一冊の書類を持って戻ってきた。


「ああ、確かにエルグラの名はありますな。入学式には参加しておりません」


 ゼクシア達の確認が完了したと判断し、メバットは続ける。


「ええ。彼女は王都に来ておりません、来られなかったのです。そのため入学式にも」


「君の家は、ルデク東部の出だったな。故郷の知り合いか?」


 今日の会談にあたり、ゼクシアも最低限のことは調べてきている。メバットは首肯。


「彼女の実家は商家で、私の幼馴染みでした」


「では、病気か何かで来れないのか? それならば正式に休学を申請すれば……」


「いいえ、殿下。彼女は元気です。問題なのは家業の方」


「つまり、商売がうまくいっていない?」


「はい。信用していた取引先に裏切られ、密かに大きな損害が出ました。娘が王都で暮らせる余裕もないほどの。ですが、エルグラの父は優秀な商人です。この苦難を乗り越えれば、必ず再び持ち直すと私は信じています」


 ここでボルドラスが口を挟む。


「なるほど、では、家業が持ち直し、余裕ができるまで、その娘を休学にしたかったと」


「はい。ですが、彼女は何も知りません。彼女の苦境を知った私が全て勝手に画策した事」


「いやしかし、そう言った事情であれば、それこそ“正当な理由”として受理できると思うが?」


 ボルドラスの言葉に、メバットはゆるゆると首を振った。


「家業が傾いているのを知っているのはごく一部の人間に限られます。そしてこの学院には各地の商人やその子女、地方貴族の関係者も通っている」


 それこそあらぬ噂が広がれば、乗り越えられるものも、乗り越える事ができなくなる、か。


 これで分かった。家の事情を明かせない中で、メバットはなんとかエルグラが学院に通えるようにしたかった。だから去年の一件を利用しようとした。


「だが、去年のあれはかなり特殊な事情があった、同じ噂を流したからといって、休学が得られるわけではない」


 ゼクシアの指摘に、メバットは悲しそうに微笑む。


「……それでも私には、他にできる事がなかった。去年と同じように噂を鎮静化させるために、同様の処置をとってくれはしないか、そう、一縷の望みを賭けて、噂を流したのです」



 窓から差し込む光が、メバットの影を色濃くした。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 数日後、城壁の上でゼクシアはロピアを待っていた。


 今回は直接呼びつけるのではなく、事前に取り決めた呼び出し方法である。しばし夜風を楽しんでいると、ロピアはひょっこり顔を出す。


「待った?」


「まあな」


「そういう時は『今来たところだ』って言いなさいよ」


「恋人が相手なら、そのように言おう」


「ふーんだ」


「まあそう怒るな、シュークリームを持ってきた」


 ゼクシアがシュークリームの入った籠を差し出すと、途端に機嫌を直すロピア。しばし2人でシュークリームを堪能し、話は本題へ。


「で、どうなったの?」


「エルグラという娘に関しては、休学が認められた。もともと理由自体は考慮すべき正当なものであったからな。もちろん、内密に処理している」


「それは良かった。で、犯人は?」


「メバットには罰が与えられた。具体的には、卒業後に希望していた、騎士団への道が閉ざされたのだ。今後、彼は他の生き方を探さなくてはならない」


「……そう。仕方ないわね」


「ああ。ただ、まあ、思ったよりも早く、行き先は決まるかもしれん」


「なんで?」


「今回のやりよう、色々拙いとはいえ、流言を駆使したのが治安情報部の顧問殿の目に留まった。治安情報部での雇用を検討しているらしい」


「……確かにネルフィアさんなら採りそう」


「というわけで、無事に解決だ」


「そ、なら良かった」



 その後はしばらく、2人でのんびり星空を眺め過ごすのだった。






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― 新着の感想 ―
きっとシティバーク大公のところに、母親譲りの気性と才能を持った娘がいて、ロピアと組んで大陸を席巻する疫病を鎮静化させて、真の『グリードル・ルデク時代』というべき旋風を巻き起こす未来が垣間見えた気がしま…
ロピアという暴力系ヒロインに振り回されるゼクシア王子の今後が容易に想像出来る話でしたねぇ。 頭脳は聡明なのに、何かと暴力を奮ってくるのは何でなのか……やはりラピリア様の血が原因か。権力もあるから今回み…
王子と双子(ラレゼット)の動きで動機(心情)以外はすでに当たりをつけていて どう動くか王子、先輩共に観察されていたんだろうなぁ
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