【やり直し軍師SS-444】秘密の生徒(9)
SQEXノベル書籍版
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城壁の下から、大きな笑い声が聞こえた。酒場から出てきた酔客だろうか。
「私の説明で犯人が分かったのか?」
念を押すゼクシアに対して、「さあ」と答えるロピア。
「だが、たった今1人しかいないと言ったばかりだぞ」
「ええ。ゼクシアの説明が正しければという前提での話よ」
「それでは私の説明が足りぬみたいではないか」
「それはそうよ。本来、情報とは様々な人々の色んな視点で集めて初めて、多少は信用できるものになるの。王子様だろうが、酔客だろうが、1人の口から出た情報を全面的に信用するべきではないわ」
「いや、まあ。それはそうだが……まあいい。それで、誰が怪しい?」
「ゼクシアは誰だと思う?」
「それが分からんから、こうして聞いているのだろう」
不満を露わにしたゼクシアを無視して、ロピアは続ける。
「ヒントをあげましょう。まず、今回の噂は、去年の一件を模倣している。これは間違いないわね?」
「無論だ」
「では、なぜ、去年の失踪を持ち出したかったか? “それ”を持ち出す事で、何を成し遂げたかったか? ねえゼクシア。貴方が同じ噂をばら撒くのなら、何を狙うかしら?」
「私が噂をばら撒くとしたら? ……寮の奥の部屋に何か隠していて、その部屋に入れさせたくない、とかか」
「うーん。それはどうかしら? 仮にその部屋に何か隠してたとしても、よほど大きなものでない限り、別の場所に移動させて仕舞えば解決だと思うけど?」
「動かせないほど大きなものならどうだ? 例えばそうだな……死体とか」
「面白いけど、多分違うわね。死体なんか放置していたら腐って寮中大騒ぎよ。それに、噂を流せば、逆に問題の部屋は注目される。度胸試し感覚で忍び込む生徒が出てくると思う」
「確かに。ならば、最初に噂を聞かせた者を寮から追い出したくて、迂遠な脅しをかけたとかならどうだ?」
「本当に迂遠にすぎるわね。効果もなさそうだし、その生徒に対する嫌がらせなら、他にもそれらしい事が起きていると思うけど、そんな事実があったの?」
「いや、少なくとも私は聞いていない。分からんな」
ゼクシアが首を振ると、ロピアは立ち上がって、月を背にこちらを向く。
「じゃあ、視点を変えましょうか? 去年、私はルファンレード学園に入学するために、いろいろと画策した。結果、不本意にも私が獲得したものは、何?」
「獲得したもの? ルファンレード学園への入学の権利では、いや、今、“不本意”と言ったな。不本意に得たもの?」
ロピアが不要なのに手に入れたものとはなんだ? 2年後のトラド学院への入学か?
だか別に、学院への入学は、試験を受けて自ら手に入れたものだ、ロピアの言い方からすれば何か、違う。待てよ、2年後……?
「……もしかして、2年間の無条件休学、か?」
「正解。多分、トラド学院の生徒の中でも、私だけが持っている、特別な権利。理由なき休学の許可」
「確かにそれを持っているのはロピアだけであろうが、それと噂になんの関係がある?」
「さあ? でも、同じ噂を流す事で、“同じ効果”を得ようとした人物がいた。去年の話は王宮内や貴族間ではそれなりに噂になっている。今年も同じ現象が起きたら、昨年の一件を蒸し返されるのを嫌がった権力者が、同じ処置をするのを期待した」
「ぐ」
ゼクシアは閉口せざるを得ない。現に、ゼクシア達が動いたのは、まさにロピアが指摘した動機が大きいのだ。
「誰が、誰に、なんのために“無条件休学”を手に入れようとしているかは分からないわ。でも、ゼクシアの話の中で、去年の揉め事の顛末をある程度正確に把握出来る背景を持ち、尚且つわざわざゼクシアに噂が伝わっているか、確認した生徒が1人、いる」
確かにいた。
第10騎士団の現役部隊長を、父に持つ生徒が。
「3回生のメバッド」
「さっきも言ったように、私には情報が足りていないから、間違っているかもしれない。でも、私が考えた通りの狙いなら、犯人はあまりのんびりしていられないのではないかしら? 時間が経てば経つほど、“理由なき無断欠席”の日数は伸びてしまう。内心、あせっていたでしょうね。いっときでも早く、上層部へ話を伝えられる人物に噂を耳にして欲しかったはず」
「つまり、私か」
「そう。その人は多分、ゼクシアの事もちゃんと調べて行動に出たのだと思う。だから噂の起点に寮に入る新入生を狙った。寮内にはゼクシアと親しい友人がいる。遠回しにゼクシアへ噂を伝えるには、なかなか良い手だと思うわ。念を入れて本人に確認するような真似さえしなければ」
いいように転がされたという不快感が湧く。そんなゼクシアの鼻の頭に、ロピアが人差し指を押し付けた。
「不快かもしれないけれど、まずは事情を聞くのが先。どう処分するかの判断はその後ですよ、殿下」
いずれ王になる人間に対する助言として、ロピアの言葉は正しい。
だが。
「お前にだけは言われたくないのだが……」
「なんでよ!」
ロピアは頬を膨らませ、ゼクシアの鼻を指で弾くのだった。