【やり直し軍師SS-443】秘密の生徒(8)
ロピアが王立トラド学院に通う必要がないと証明したことで、この件は終了に向かうものだと思っていた。
念には念を入れ、ロピアは変装の上身分を偽って、私立ルファンレード学園に通うという事で準備も進められる。
トラド学院の方は、一定期間無断欠席が続けば、自動的に退学処分となる。仮に再度入学を希望する場合は数年待たねばならないが、元々入学する気のないロピアには関係なかった。
ところが甚だ迷惑な事に、仕掛けてきた貴族連中は諦めていなかったのだ。
『それだけの優秀さを、国のために使わぬのは不敬』
などと入学直前になって難癖をつけ始めた。トラド学院に妙なうさわが立ち始めたのもその頃だ。
当初は『とある優秀な貴族が遊びで入学試験をうけ、通う価値がないと吹聴しているらしい』と言った類の内容であった。
噂を流した貴族側は、単なる牽制のつもりであったのだろうが、ここに至り、ついにロピアが本気で怒った。
悪い予感はしていたのだ。
ロピアが、治安情報部の部屋から出てきたのを見かけた時は。送り出していたのが、情報部顧問のネルフィアであった時は。
それからさして時をおかず、父上の元へ3人の貴族がやってくる。
内2人は当主引退の申し出、加えて爵位の返上と一部所領の返還。いずれも当主になってからまもなく、まだ若い。引退する理由などどこにもないように見えた。
残りの1人、それなりに名のある老貴族は自ら北ルデクの僻地への転封の申し出。
貴族側からの転封も、ましてゆかりもない辺境の地への移動など前代未聞。けれどその貴族は恥も外聞もかなぐり捨てて、床に頭をこすりつけ、父上に対して必死の懇願を行ったと聞く。
引退した当主が、今回ロピアにちょっかいをかけた貴族であり、転封を申し出た当貴族は、裏で2人を煽った人物である。
やると決めたら手段を選ばない大胆さ。
大軍師の娘、ロピア=シュタイン。
しかし話はこれで終わらなかった。今度はロピアの母、ラピリア殿より解決に待ったがかかる。
ラピリア殿が『やりすぎないように』と注意していたにもかかわらず、ロピアは3つの貴族に大きな罰を与えた。
『問題はその貴族達ではないの。彼らに被害を与えたことで、様々な人々に迷惑がかかっている事が問題なのよ。転封先の領主の対応は? 返納した領地の取り扱いは? ロピアが何も考えずに行ったことで、多くの人に不要な負担がかかっているのよ』
ラピリア殿は問題の貴族への処分ではなく、ロピアの手段と方法に怒っているようであった。そしてその矛先は、父上と宰相殿にも向く。
『ロアも、ゼランド王も同罪です。あなた達、ロピアがどう動くか楽しんで、眺めていたでしょう?』
『はい』
『すまぬ……』
宰相殿と父上が揃って小さくなって謝罪する相手など、ラピリア殿を置いて他にいないように思う。
そうしてラピリア殿は、ロピアにも罰を与えた。
『ルファンレード学園に通う事を禁止にはしません。けれど、期限を決め、卒業後は最低でも1年、トラド学院にも通いなさい。トラド学院では規律や礼儀も学べます、あなたはもう少しちゃんとなさい、ロピア』
『でも……』
ロピアも何か言おうとしたが、ラピリア殿には敵わない。ひと睨みで大人しくなるロピア。
『期限は2年とします。2年経ったらトラド学院に通うこと、良いわね』
それでもなんとか反論を試みる、
『確か、学院には理由のない欠席が続くと、退学になるはずじゃ……』
ロピアの言葉を受けて、父上と宰相殿を見たラピリア殿。
『そこは当然、2人がなんとかしてくれるわよね? それと、諸々の後始末も』
『『はい』』
こうして結局、父上と宰相殿が裏であれこれ動くことで、ようやくこの話は解決を迎える事になるのである。
宰相殿の提案によって、学院に流れた噂は、様々な肉付けをされて上書きされた。寮の一番奥の部屋の失踪という、寮生の流した怪談へと変化したのである。
ちなみにロピアの刺客として送られた生徒も、問題の貴族の失墜により早々に学院より姿を消したため、この辺りの情報も噂に混在している。
また、2年間の休学についても、何やら上手いこと辻褄を合わせたらしい。
これが、昨年あった失踪事件の真相である。
今回、ゼクシアが噂の原因究明に奔走しているのは、実のところ去年の噂を蒸し返されないためというのが大きい。
ことが大きくなれば、ロピアがどう動くかわからない。気まぐれに使われる巨大な才能ほど厄介なものはないのだ。
正直、この話をロピアに持ってくるのも、できればしたくなかった。これでダメなら、あとはボルドラス学院長を経由して、問題は大人達の手に委ねられるだろう。
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城壁の上で、お茶を飲みながら今回の噂について説明を終えたゼクシア。
「ふーん。なるほどね」
ロピアは、ちゃんと聞いていたのか分からないような生返事だ。
「結局、現在も噂を流した張本人の影すら踏めぬ状況が続いている。今の話を聞いて、何か気づいたことはないか?」
ゼクシアの質問に、ロピアは、
「え?」
と不思議そうな声を出す。
「え? ではない。話を聞いていたのか?」
「もちろん」
「では……」
「え、でも、今の話を聞く限りだと、犯人は1人しかいないと思うのだけど?」
さも当然と言い放ったロピアは、可愛らしく首を傾げるのだった。