【やり直し軍師SS-42】語り手、大陸を巡る⑥
ロアの言葉通り、凶作は起こり、大陸に大きな影を落とした。
リーゼの砦に滞在しているゾディア達の元には、日々、噂を聞きつけた旅一座がやってきている。今のところ、ロアの提案は概ね好意的に受け入れられている。
それは、旅一座の顧客の一つでもある悪党の情報についても。
尤も、ロアの裏の狙いに気づいているのはゾディア達とグーベックだけだ。
そうこうしているうちに、ついにルデクがリフレアに向けて兵を起こしたとの情報が耳に入ってきた。話を持ち込んだ旅一座は不安そうに口にしていたけれど、ゾディアは全く動じることはない。
ルデクが、ロアが勝つ。ゾディアはそのように信じていたし、しばらくして再び届いた知らせは、ゾディアの予想通りのものであった。
これでリフレアとの因縁には決着がついたのであろう。星を読むと、リフレアにあった禍々しくも大きな星が、2つ消えていた。他にも沢山の変化はあったが、おそらく、ロアと因縁が大きかったのはこの星の人間だったのではないだろうか。
そして年が明け、本格的に凶作の影響が出てくる中でも、ゾディア達はまだリーゼの砦に滞在し、遠方からやってきた旅一座への対応を請け負っていた。
ル・プ・ゼアがこれほどまでにひと所から動かないのは非常に珍しいことだ。
時折砦内で歌を歌い、第五騎士団の耳を楽しませたりしていたので、砦の兵士たちとは随分と仲良くなった。普段あまり他人との交流を積極的に行おうとしない仲間達も、砦に気軽に出入りして、兵士たちと気安い言葉を交わしている。
一番年若いデンバーなどは、特に砦の中でも可愛がられており、なかなかに微笑ましいシーンを散見することができた。
ル・プ・ゼアが久しぶりにリーゼの砦を離れたのは、もう雪が溶けた頃。といっても、遠出はしない。旅一座と砦の間で何か揉め事が起きぬようにと考え、当面はリーゼの砦の近くにいることを一座として決めたのだ。
故に、ホグベックやソレックといった近隣の領主に請われた時だけ、数日でそれらを巡った程度。
ホグベック領はウィックハルトの父親が治める領地であったため、厳しい状況の中でも手厚い歓迎を受ける。そこで見た街の様子は中々に意外なものだった。
全体的に雰囲気が明るい。
聞けば、ホグベック家は家格が上がり、尚且つ食糧供給も安定しているため、人々からはほとんど不満が挙がっていないらしい。
ホグベック領は少々特殊な事情があったにせよ。食料の受け取りにやってくる旅一座の話を聞く限り、どの町村でも大きな問題は起こっていないように思える。
ちなみに夏を迎える頃までに、有名な悪党が率いる賊が3つほど潰された。生き残りを許さぬ徹底した殲滅戦だったようだ。ロアに協力した悪党達も、選択を誤った時の代償に震え上がったことだろう。
そして新しい秋が来た。今年の収穫は概ね例年通り。これでロアとの契約は終了だ。
その秋の初め、ロアがわざわざリーゼの砦までやってきて、ル・プ・ゼアの労を労ってくれる。
「ゾディア、それに皆さん、本当に助かりました」
もはや押しも押されぬルデクの重鎮と言って過言ではないにも関わらず、相変わらずの態度で礼を述べるロア。
「ロア様、頭をあげてください。感謝しなければならないのは我々、旅一座の方です。おかげさまで誰も餓えることもなく、再び旅に出ることができそうです」
ベルーマン以下、一座全員が深々と頭を下げる中、「それなら良かった」と、ロアはのんびりと言葉を返す。
「それで、ゾディア、もう次の目的地は決まっているのかい?」
「ええ。西へ向かおうと。皆で決めております。ルブラル、シューレット、専制16国を巡ろうかと」
「ああ、それは良いね。早くても2、3年はかかるかな? 全部回ったらまた、僕のところにも遊びに来てよ。それらの国の状況も知りたいし」
「もちろんです。ね、ベルーマン」
「ああ。必ずお伺いすると約束しましょう」
「ありがとうございます。それじゃあ、ル・プ・ゼアの皆さんの旅路に風の神ローレフのご加護を」
出会いからたった3年ほどだというのに、これほどまでに濃い縁を紡いだ相手は今後2度と現れないだろうなと思いながら、ゾディアは去り行くロアの姿を見送るのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ル・プ・ゼアに風の神、ローレフの加護があります様」
「ラス・ド・ネイトの方々にも、風の神、ローレフの加護を」
旅一座ラス・ド・ネイトの者達は、ゾディア達に何度も手を振りながら去ってゆく、これから旧リフレア領、現在は北ルデクと呼ばれる地域を目指すと言っていた。
第五騎士団の熱烈な見送りを受けながらリーゼの砦を出立したル・プ・ゼアの面々であったが、中々先へと進まない。
というのもル・プ・ゼア出立の話を聞きつけた他の旅一座達が、わざわざ予定を変更してまで、ル・プ・ゼアに感謝を伝えにやってきてくれているから。
多くの旅一座がルデクやゴルベルを巡っていたこともあり、少し進んでは感謝を受け。少し進んではまた感謝を受けといった状況であった。
実際のところ、ル・プ・ゼアは全ての旅一座にとって救世主である。この状況も仕方のない事と言える。
そして、感謝の対象はル・プ・ゼアだけではない。
ロア=シュタインへの感謝は、旅一座の流儀で返す。いずれの一座も口を揃えてそのように述べて去ってゆく。
旅一座の流儀。
それはすなわち、芸事に他ならない。
演劇を生業とするなら、ロアを主役にした劇を。
歌い手はロアを称賛する歌を。
それぞれの方法で、ロアの物語を広める語り部として大陸へと散らばって行く。
こうして大軍師ロアの存在は、大陸に生ける伝説として急速に広まってゆくのであった。
いつも読んでいただき有難うございます。
実は今回のお話、本来はルブラル以西の各国を、ゾディア視点から見るというテーマで書き始めたのですが、出発までにとんでもない話数が…。
これ以上は長くなりすぎる気もしたので、ここで一旦切りました。
続きを書くかはまだ確約できませんが、できれば書きたいなぁとは思っております。