【やり直し軍師SS-413】グリードル87 平野の覇者12
「退路を狭めるな! 押し返せ! あのあたりが手薄だ! すぐに兵を回せ!」
ジベリアーノは部隊の中央から冷静に状況を見極め、的確に指示を出しながら、アインの部隊の動きにも注意を払う。
幸いにも、孤立したアイン隊に大きな混乱は見られない。救出は思ったよりも容易そうだ。しかし、敵からすれば絶好の殲滅機会であったはずなのに、それにしては攻撃が手ぬるい。
いや、考察は後にしよう。まずは任務を遂げる事が寛容。
ジベリアーノの部隊とて、安全なわけではないのだ。むしろ、こちらの退路を断とうとするランビューレ兵が押し寄せており、アインの部隊よりも戦いは激しくなっている。
「傷ついたものはすぐに交代せよ! とにかく壁を崩すな! 味方の退路を確保するのだ!」
ジベリアーノは大声で叱咤する。その声に呼応するように、味方がわずかに押し返す。
ランビューレ兵も必死だ。ここで敗れれば、仮に生き延びたとしても苦しい道筋しか残っていない。まさしく運命を賭けた戦いであろう。
敵の頭には“滅亡”のふた文字が浮かんでいるはずだ。気持ちは手に取るように分かる。何せ、数年前まではジベリアーノもまた、同じ立場にいたのだから。
不思議なものだ。亡国の親衛隊であった自分が、祖国を滅ぼした者を主人と仰ぎ、こうして戦場を駆けている。
しかもだ、新しい国は平野を飲み込まんとしているのだから。もしもこんな話をかつての自分に話したら、夢想だと鼻で笑っていた事であろう。
そうだ。今、我々は平野の覇者とならんとしているのだ。
アインでなくとも心沸き立つ。こればかりは武人の性。ならば、珍しくアインが突出したところで誰か責められようか。
そんなことを考えながら敵を弾き返していると、アイン隊が徐々に撤退を始めた。ジベリアーノ隊が確保した退路を次々に駆け抜けてゆく。
アインは一番後方からやってきた。つまり、一番先頭にいたのか。ジベリアーノに気づくと、馬の速度を緩めぬままに声をかけてくる。
「すまん! 感謝する!」
「礼はいい! それよりもすぐに部隊を立て直せ!」
「無論だ! もう少しだけ頼む!」
アインの声には覇気がある。言葉通り、すぐにでも部隊を反転させてくるだろう。元々、アインはウルテアの将。他の者よりもジベリアーノとの付き合いは長い。アインの言葉は信用できる。
アインが部隊を立て直したら本格的に攻勢に出る。さて、どのように動くか。ジベリアーノは視野を広く持ちつつ、敵部隊の綻びを探すのであった。
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リヴォーテとガフォルの部隊は、丘からやや離れた場所で戦っていた。
陛下からは『自由にやれ』と許可をいただいている。ゆえにリヴォーテは最初の一手としてランビューレ王都への直接攻撃を試みたのである。
しかし流石にうまくはいかなかった。王都にもしっかりと守備兵は残っており、それらが迎撃に出てきて戦闘になったのだ。
「この手はダメだな。一旦退くぞ!」
事もなげにいうリヴォーテに、ガフォルが悪態を返してきた。
「おいおい! まだ敵は続々ときてるぞ! 簡単に言うな!」
「それをなんとかするのが“大剣”のガフォルの役目だろう? 任せた」
「おまっ!」
「こんなところで呑気に会話をしている暇はない。くるぞ! 押し返せ!」
「……後で覚えとけよ!」
捨て台詞を吐いて敵陣へ突っ込んでゆくガフォル。巨躯が規格外の剣を振り回せば、それだけで敵は脅威だろう。またおそらく、王都に残っていたと言うことは、実力は主力部隊から一枚は落ちるはず。
リヴォーテの予想通り、ガフォルが暴れ始めると敵は怯み始めた。ガフォルの怒声がリヴォーテの耳まで届く。
「追ってくるやつぁ、全員真っ二つにするぞ!!」
ガフォルに気おされる敵を見て、こちらは問題ないと判断したリヴォーテは、戦場をキョロキョロと見渡す。どこか、面白い事ができる場所はないか?
いっそ、ここで少し目立って、丘の部隊を引き寄せてから逃げるか? 適当に敵を連れ回してやるのもいいかもしれない。
もしくは、ここから一番合流しやすいネッツ隊の支援に回る?
他には何かできることはないか?
さて、どうするか。
頭を巡らせていると、鎧を鳴らしながらガフォルが猛然と近づいてきた。
「おい! 何をぼんやりしているんだ!? 逃げるぞ!」
気がつけば、ガフォルの後ろには無数の追撃兵が。
「なんだ。“大剣のガフォル”の肩書きもまだまだだな」
「うるせえ! なんとかしろ! “鋭見”のリヴォーテよ!」
リヴォーテは近づく敵を眺めながら、ほんの少しだけ、笑った。




