【やり直し軍師SS-405】グリードル84 平野の覇者⑨
やや短めですみません!
年内の帝国編はここまでです!
年越し更新は旅一座のお祭りと共に!
ランビューレ王都に到着し、陣を整えていたドラクの元に、立て続けに着陣の知らせが届く。
一方はネッツ、そしてもう一方はジベリアーノ。いずれも別働隊を率いていた指揮官である。
伝令から時をおかずにやってきたネッツは、やや拍子抜けした顔をしながら、ドラクの陣幕に顔を出した。
「ランビューレからの抵抗は驚くほどありませんでした。陛下もご無事でなにより」
すっかり板に付いてきたネッツの言葉遣い。オリヴィアの薫陶の賜物である。
「お前もな。こっちは大抵ルアープが射殺しちまうから、俺はむしろ、やる事がねえ」
「そうですか。ルアープ、よくやった」
ネッツに労いの言葉をかけられたルアープは、片眉をあげてやや不満そうに、「いや、何度か撃ち漏らした。まだまだだ」と答える。
そんな二人のやりとりを見ながら、フォルクがこほんと咳払いをし、皆の視線を自身に集めた。
「ランビューレの抵抗が少なかったのは、王都での決戦を見込んだものでしょう。ネッツ殿、ジベリアーノ殿、ここに来るまでに敵陣はご覧になられましたか?」
フォルクの問いに答えたのはジベリアーノ。
「ああ。相当数の兵が陣を張っていた。王都を遮るように、あのような丘と柵。守りに特化した地形というわけか。フォルクの言う通り、この場で勝負を決めるつもりだな」
ジベリアーノの指摘する通り、ランビューレの王都のすぐそばには、ちょっとした小高い丘があった。
丘の前には柵が点在し、明らかに王都の守りを前提としているのは明白。敵は地理的に優位な丘を中心に陣を張って、グリードル軍を待ち構えていた。
「しかし、守備の要が砦ではなく丘というのは意外だ。まあ、あの王都なら理解できなくもないが」
アインが感想を口にする。ランビューレの王都の近くには守備の要たる砦がない。代わりに、王都自体の要塞化がかなり進められており、さながら巨大な砦のようにも見える。
「いずれにせよ、あの丘を放置して王都を攻めることはできん。丘の攻防が、最初の要点となるだろう」
エンダランドが場をまとめると、誰からも異論は出ない。一度全員を見渡したエンダランドは、最後にドラクへと視線を定めた。
「陛下、ここで選択肢は3つございます」
「聞こう」
「まずは丘に陣する敵兵を一気呵成に正面突破で打ち破る。当然被害は出ますが、打ち破れれば王都に籠る者共への影響は甚大」
「2つ目は?」
「時間をかけ、丘の包囲を行います。じわじわと包囲網を狭め、敵が焦れて丘を下ってきたところを各個撃破。第一案よりも被害は少なく、同時に敵に時を与える事となりましょう。すなわち、援軍の危険を高めます」
「最後はなんだ?」
「丘の攻略には拘泥せず、半分の兵で囲み、残りが王都を攻めます。難点は丘には3万を超える兵がおり、こちらが寡兵に陥ること。かといって丘を囲む兵を増やせば、王都を攻めるにはいささか心許ない」
そのように説明しがら、エンダランドは自らの指を三つ折り曲げた。
「さて、陛下。いかがか」
決断を迫るエンダランド。
だが、ドラクが迷うような選択肢ではなかった。
「……多分だが、この戦いが平野の命運を決めるものになると思う」
皆、ドラクの言葉の続きを待つ。
「だからと言って、残った国を簡単に併呑できるかといやぁ、そんな事はねえ。ツァナデフォルやリフレア、ルデクが絡んで来るかも知れねえ。すでにツァナデフォルは動き始めているとも聞く。だから、俺たちはここではっきりと見せつける必要がある。リヴォーテ、何をか、分かるか?」
問われたリヴォーテは笑顔で言い放つ。
「我がグリードルがいかに精強であるかをですね!」
「ああ。そうだ。小国から始まった俺たちは、他国からずっとどこかで侮られていた。『新興勢力』だの『成り上がり』だの。だからここではっきりさせる。この平野の“覇者”はいったい誰なのかを。……ガフォル、その大剣を振るう準備はできているか?」
「無論にございます!」
ガフォルが背負った大剣の柄に手をかける。
「アイン、その槍捌き、ランビューレ兵に見せつけろ」
「はっ! お任せください!」
「よし! 正面突破だ!! 蹴散らすぞ! 野郎ども!!」
「「「「「ははあっ!!!!!」」」」
こうして平原の覇者を決める戦いが始まったのである。