【やり直し軍師SS-398】共演③
「わざわざお越しいただかなくとも、こちらから出向きましたのに」
そんなゾディアの言葉で出迎えられた僕ら。
僕らはル・プ・ゼアが滞在しているステラウという町にやってきていた。手紙のやり取りでこの町に立ち寄ると聞いたので、待ち伏せである。
「いやぁ。こちらがお願いした事だからね。ちゃんと僕から足を運ばないと」
「ロア殿の変わらぬ義理堅さは好ましくは思いますが……。本当に宜しいのですか? お暇ではないのでしょう?」
「うん。今回はゼウラシア王自らの依頼だし。今回の提案は、王にもちゃんと説明して許可ももらっているから。あとは、ル・プ・ゼア次第」
そんな僕の言葉に、ル・プ・ゼアの中心人物であるベルーマンが懸念を口にする。
「王の許可を? それでは我々に拒否権などないように思われますが……」
僕らとは関係の深いル・プ・ゼアといえど、強要されるのは旅一座の本意ではない。団員の中には権力者から強制されれば、急に拒絶感を感じる者だっているのだ。
「ああ、すみません。説明が足りませんでした。もちろん、断ってもらっても構いません。その辺りも踏まえて、王から許可をもらっていますから。どちらの返答であっても、貴方がたの不利益にはならないと約束します」
「……ご配慮ありがとうございます。ロア様の心遣いにはいつも感謝しております」
「いえ。特に今回はこちらからも一方的なお願いですし、前例もない話です。僕としても、ル・プ・ゼアの、そしてゾディアの負担にならないようなら、という気持ちですね」
「私は面白いと思いました」
そのように乗り気な言葉を伝えてくれるのはゾディアだ。
「私は少し呆れたなぁ! こんな馬鹿馬鹿しい話、普通は思いつかないもの! ロア様は本当に奇特なお人だよね!」
忌憚のない意見を口にしてくれるのは、ル・プ・ゼアの団員、パリャだ。ベルーマンが「こら」と注意すると、ベエと舌を出す。
そんなやり取りを微笑ましく見ていると、再びゾディアが口を開いた。
「パリャの言う通り、確かに通常は不可能な催しですが、或いは、ロア様なら。いえ、この大陸でおそらくロア様だけが、企画可能ではないかとも思います」
「そんなことはないよ」
「ご謙遜を。たとえ、帝国皇帝陛下であっても不可能でしょう。“旅一座の祭典”などという無茶は」
そう。僕が考えたのは、競い馬会場を中心とした、旅一座のお祭りである。もちろん全ての旅一座を集めるなんてことは、不可能なのは分かっている。時間的な制約もあるし、そもそも自由を愛する人たちを統制するのは傲慢な話。
ただ、その頃にルデク周辺にいる旅一座が王都に集まってくれたら、レナーデ様もその娘さん達も満足してくれるのではないかなと思ったのだ。
そして、メインイベントとしたいのがル・プ・ゼアの芸である。これは思いつきの最初から頭にあった。僕の頭の中では、やるなら絶対欠かせないのがル・プ・ゼアの存在であった。
またル・プ・ゼアは他の旅一座へ顔も広い。ル・プ・ゼアが協力してくれれば、より多くの旅一座を集める事ができるんじゃないかなという打算も込みだ。
「ゾディアの言う通りかもしれないわね。多分、こんな催し、ロアにしかできない」
納得顔のラピリア。ゾディアも我が意を得たりとばかりに続ける。
「はい。例の大飢饉において、ロア様はある意味、旅一座の中で神格化されています。それこそ風の女神のように」
「ええ!? それは流石に大袈裟な!?」
驚く僕に、イタズラっぽい笑みを見せるのはパリャだ。
「ねえロア様、最近旅一座の隠語に、新しい言葉が加わったことは知ってる?」
「いや? 知らないなぁ。なんて言葉?」
「ロア様の加護」
「ん? 今なんて?」
「ロア様の加護、よ。意味としては、そうねえ。単純にロア様に感謝する挨拶だったり、これからルデクに向かうっていう意味で『これからロア様の加護を貰いに』なんて使ったりするわ」
「……ええ〜。それ、今からでも使えなくできない?」
「あら? いや?」
「いやというか……普通に恥ずかしいでしょ?」
「そう? 私は良いと思うけど? っていうか、もういろんな一座が当たり前のように使っているからどうしようもないと思うけど。ま、定着せずに消えていく隠語も多いから! 気にしないで!」
「……願わくば早急に廃れてほしいよね……」
困惑する僕とは対照的に楽しげなみんな。ウィックハルトなどは深く頷きながら満足そうにしている。
こうして早々に出鼻を挫かれた僕だけど、一度咳払いをしてから今回の計画を改めて説明し始めるのだった。




