【やり直し軍師SS-396】共演①
その日、ゼウラシア王に呼び出された僕。指定された場所が王の私室であった事から、何か深刻な話かと警戒しながら向かう。
顔見知りの衛兵さんに挨拶をすると、衛兵さんが室内の王へと声をかけてくれた。
「ロア殿、お越しになられました」
「うむ。通せ」
許可を得て室内に入れば、その場にはゼウラシア王以外に、ゼランド王子とネルフィアがいた。
「忙しいところすまんな」
「いえ。それよりもどうされたのですか?」
「まあ、まずは座れ」
促されるままに席に着けば、ゼウラシア王にしては珍しく、なんと切り出して良いか迷う姿を見せた。それでも僕は王の言葉を黙って待つ。
「……実はな。久しぶりにレナーデ達が戻ってくる」
「レナーデ様が?」
ゼウラシア王の実妹、レナーデ様。現在は一家総出で北ルデクに滞在しており、王家の代表として北ルデクの貴族を取りまとめている。
「そうだ。北ルデクもだいぶ落ち着いてきた。そこで、王都を出立して以来初めて、まとまった休暇をとり王都へ帰省するのだ」
「確か、レナーデ様達が北ルデクに移住して、かれこれ3年以上ですか……」
リフレアの滅亡からもう4年近い時間が経った事になる。それほどまでに王都に戻ってくる余裕がなかったのか。
王族の義務とはいえ、見ず知らずの土地での生活。それも最初から改めて貴族社会を牛耳るには、やはりそれなりの苦労があった事だろう。
「そこで、だ。レナーデとその娘より一つの要望が届いた」
「はあ」
「約束が反故になった分、別の楽しい出来事を用意してほしいと」
「約束?」
僕はレナーデ様とも、その娘デール様、ナデリア様ともそれほど交流がない。北ルデクでたまに挨拶を交わす機会がある程度なので、特別何か約束をした覚えはなかった。
訝しげな僕に対して、
「いえ、約束したのは先生ではなく私なのです」
そのように言ったのはゼランド王子である。聞けば、北ルデクへ足を運んだ際に、ひとつの約束を交わしたのだという。
「あ、もしかして!」
「はい。フレインの件です」
姉妹は独身であったフレインを紹介してほしいと希望していたのだ。
「え? でもそれは……」
「はい。不可能となりました」
フレインはようやく良い人が見つかったのだ。交際は順調に続いていると聞くし、今はトゥリアナとの時間を大切にしたいはず。僕としても、ここでフレインを連れ出す気にはとてもなれない。
「いえ、先生。デールもナデリアも、今更フレインに会いたいわけではありません。さすがにその辺りの分別は弁えています」
「それなら良かった……。ああ、それじゃあ、代わりに何か準備をしろと?」
頷くゼランド王子の横で、ゼウラシア王が言葉を引き取る。
「王族の我儘ではあるのだが、レナーデ達には重責を押し付ける形となっているからな、たまの帰郷の時くらい、多少の無理は聞いてやりたいのだ」
王の気持ちも分かる。実際、北ルデクにレナーデ様達が移り住んでくれたことで、北ルデクの運営がかなりやりやすくなったのは事実だ。
ザックハート様やホックさんのような、軍閥には言いにくい不満を一手に引き受けてくれていたのである。
王の実妹という立場の人間が耳を傾けてくれることで、北ルデクの人たちは自分達が無碍に扱われていないと安心できた。
そういう話なら、僕も協力するのにやぶさかではない。
とはいえ、だ。
「僕も色々考えてみますが、すぐに何かを出せと言われても、正直難しいです。レナーデ様やご息女様が何を好むかもよく知りませんし」
「それもそうだな……レナーデは、ともかく楽しいことであればなんでもかまわぬ、という気質だな。ローメートとは比べるべくもなく、どこにでも首を突っ込むし、社交性も高い。だからこそ北ルデクを任せることにしたのだ」
なるほど。同じく王の妹君であるローメート様は、お菓子大好きで奥ゆかしい性格であったけれど、レナーデ様は真逆って感じなのか。
「ちなみに、いつまでに準備をする必要があるのですか?」
「それほど急いではおらん。レナーデ達がやってくるのは6ヶ月後だ」
「そうですか」
それなら少し余裕がある。
「レナーデはロアが企画した、といえば喜ぶであろう。期待している」
こうして僕は、レナーデ様達が喜ぶ催しを考えなくてはいけなくなったのである。