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【やり直し軍師SS-394】グリードル78 平野の覇者③


 エニオスを代表する名将として知られる、キエトロ=バンディク。


 帝国の領土侵攻の報告を受け、急ぎ兵をまとめたキエトロは、兵一万とともにオラージュの砦に入った。


 帝国兵の侵攻ルートからすれば、この砦は避けては通れない。ひとまずはここで戦況を精査し、対応を検討する。


 キエトロに動揺はない。いずれはやってくると思っていた。問題は、どのように落とし所をつけるか、それだけだ。


 ここまで、エニオスは帝国に対してたびたび同盟を持ちかける使者を送っている。帝国とて平野の列国全てを、敵にしようとは思っていないはずだ。


 にも関わらず拗れているのは、エニオス王の悪癖に起因しているとキエトロは考えている。問題の根幹は、帝国皇帝ドラクに娘を嫁がせ、領地を捨てて出奔したシティバーグ家にある。


 シティバーグ家がこの地を去るまで、王との関係は最悪に近い状況であった。王が目をつけた娘を逃したことで、王はシティバーグ家を滅ぼせとまで怒っていたのだ。


 キエトロをはじめ、諸将が宥めなければ、我が軍の槍の矛先はシティーバーグ家に向かうところであった。


 シティバーグ家はエニオスでも歴史のある名家であり、当主は地域の顔役だ。そのような人物相手に、娘の輿入れを断られたからといって、軍を差し向けるのは流石に外聞が悪すぎる。


 当然、シティバーグ家はエニオス王の横暴を帝国皇帝に訴えたであろう。皇帝がシティバーグ家を庇護下においた以上、今のままでの国交は難しい。


 故に、今回の侵攻ではないだろうか?


 帝国の狙いはシティバーグ家の旧領。問題の旧領地はエニオスでも東部にある。ならばここを奪い取って、シティバーグ家の溜飲を下げることが叶えば、帝国は交渉のテーブルにつくのでは。


 帝国の状況を見れば、強国ランビューレとの緊張状態は続いている。このままエニオスとの戦いを継続すれば、当然、ランビューレは動くだろう。


 帝国はシティバーグ家の顔を立ててやりさえすれば、ひとまず良いはず。


 本音を言えば、ランビューレを背に、このような戦いは起こしたくない。少なくとも、キエトロが皇帝の立場ならそう考える。


 そうでなければ、突然のこの侵攻の意図がわからないのだ。エニオスは連合国に参加しておらず、平野で唯一、帝国に味方しそうな勢力。


 わざわざ自ら敵を増やす行為に、一体なんの意味があるというのか。


 正直なところ、キエトロはエニオス東部は諦めても良いと思っている。


 現在の帝国は、間違いなく脅威だ。エニオス一国で対抗しうるとは思えない。シティバーグ家の旧領とその周辺を差し出すことで、帝国との関係改善がなされるならば安いものである。


 ガトゥーゾ王がどのように思うかは別だが、どうせあの王は自分が享楽にふけることができれば文句はなかろう。その辺りの権利だけ保持すれば、領地を失っても帝国との同盟は不可能ではない。


 キエトロの想像を裏付けるように、帝国軍の歩みは遅く、大きな衝突も起こっていない。おそらくは、向こうも無理をするつもりがないのだ。


 キエトロがそんな事を考えていると、ガトゥーゾ王へと送った使者が帰ってきた。


 返事の内容はおおよそ予測がついているが、キエトロはあえて聞く。


「王はなんと?」


「我がエニオスの強さを思いしらせよ、とのご指示でございました」


 そんなもの、指示でもなんでもない。責任放棄に近い言葉だ。


 尤も、そのような王であるからこそ、キエトロも好き勝手にできている。今の権力を保持するには、非常に都合の良い王である。


「……承った。それで、帝国軍はどうなっている」


 キエトロが別の部下に報告を促せば、


「現在、オラージュの砦より東に馬で半日ほどのところ、ホウジャ付近に滞在しているようです」


「ホウジャ? あの辺りは小さな集落しかなかったと記憶しているが、そのような場所になんの用で留まっているのだ?」


「分かりません。が、6000を超える兵士がその場にいることは確認できております」


「6000……」


 決して多くはない兵数だが、徐々に増えているのが気になる。そしてそれらは多くが、エニオスから帝国に降った貴族達の私兵である。


 小さな貴族が生き残るために主人を変えるのは仕方ない事だが、その数と速度には引っかかるものがある。


 同時に、一気に兵数が加増していないと言うことは、大貴族が靡いていないか、それとも各貴族ともに消極的な協力であるか。


 差し出した私兵が少数であれば、帝国に脅されて仕方なく協力したという言い訳もたつ。


「……ひとまず、周辺貴族に通達せよ。我が軍がこの場にいる限り、安全は保証する。帝国の脅しに屈する必要はないと」


「かしこまりました。直ちに」


「キエトロ様。敵は寡兵。こちらから攻め込みますか?」


 配下の将の問いに、キエトロは一度悩み、そして決める。


「いや、敵の中には我が国の同胞も多い。同士討ちは好ましいものではない。もう少し様子をみよう」


 その頭には、東部の一部を捨ててでも同盟に繋げたい算段がある。


 放っておけば、適度なところで退くのではないか?



 そんなキエトロの希望は、『ホウジャに突然、巨大な砦が!』という信じがたい報告によって打ち砕かれる事になる。


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― 新着の感想 ―
世界の情勢を読む力か、敵の詳細を知る情報を得る力か、どちらか片方でもあれば、キエトロは違う行動を起こしていたかもしれませんね。ドラクは、あんな王様はこの世にいらない、と思っていたんだと感じます。 キエ…
手打ちにしても良いぞ。領土と財産と命を全部差し出せばな!とまでは行かなくてもまあ王族は処理されてしまいますかね?将軍はどうかな?
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