【やり直し軍師SS-383】グリードル69 六ヶ月戦線 34
スキット率いるランビューレ軍の退却においても、砦内で沈黙を貫いていたドラク。
今、必要なのは情報だ。とにかく情報が圧倒的に足りていない。ヘインズに異変があったか? ならば、こちらも対策を考えなくてはならない。
しかし前回届いた戦況から鑑みれば、こちらに何の一報も寄越せないほど、ヘインズの砦が切迫したとも考えにくい。
とはいえ、指をくわえて見ているわけにもいかないため、砦内から諜報を放った数日後、エンダランドから使者がやってきた。近日中にエンダランド自身も帰還するという。詳しくはエンダランド本人が話すと。
ひとまずヘインズが陥落したわけではないらしい。まずはその事に安堵する。では一体何が起きているのか。エンダランドが戻って来れるなら、ヘインズの戦況も一旦落ち着いたと考えられる。
だがなぜ。
いよいよ理解できぬ。
そうしてようやく到着したエンダランドを半ばひきずるように謁見の間へ連行し、「で、一体どうなってんだ」と話を促した。
「私もまだ、完全に把握したとはい言い難いが……」
そのように前置きしながら、エンダランドが口にした内容は、正直、エンダランドの妄想が混ざっているのではないかという代物であった。
尤も、このような状況でエンダランドはつまらない冗談など口にはしない。そもそも、エンダランドが無事にボーンウェルの大砦まで戻ってきたという事実が、ボーンウェル同様、ヘインズからも敵が撤退した証明といえた。
「で、ヘインズの方はどうした?」
「規模からしても、今後の重要防衛拠点はサルトゥネの砦になる。ヘインズには一部の兵を残し、大半はサルトゥネの砦に移した」
「そうか」
「こちらに寝返ったモンスー=メルドーはどうする? メルドー家の人間ではあるが……」
「確かにメルドー家の人間だが、オリヴィアの調略対象だったんだよな。オリヴィアにも話を聞くべきか……」
「ああ、いや。オリヴィアの方は問題ない。本人から『寛大な処置を。できればそのまま立場を確保してやってほしい』と言われている」
「ん? オリヴィアにもう話を聞いたような言い草だな?」
「ああ。いずれ発覚するだろうからここで伝えておくが、オリヴィアとサリーシャ様は、ヘインズの砦に籠っていた。俺より先にな」
「はあ!? どう言うことだそりゃ!? さっきの報告じゃあ、そんなこと一言も言ってなかっただろ?」
「ああ。意図的に省いたからな。途中でこの話をしたら、そこで話が止まっていただろう?」
「ぐ」
多分その通りだ。絶句するドラクを前に、エンダランドはサリーシャ達が一緒に籠城した顛末を語り始めた。聞けば聞くほど呆れた話だ。全くあいつら、無茶をしやがって!
「で、サリーシャ達はどうしてんだ? まさかサルトゥネの砦に入ったわけじゃねえよな?」
「いや、オリヴィアの目的が達せられたので南へ戻った。そうだ、一つサリーシャ様より頼まれている件があった」
「なんだ?」
「『オリヴィアが砦にいたことは、ネッツには内緒にしてほしい』とのことだ」
「は?」
「ネッツがオリヴィアの無茶を知れば、心配でこの後の戦いに身が入らないだろう。だからオリヴィアの事は秘密に、と」
「だが、さっきの話だと、サリーシャは目撃されまくっているじゃねえか。無理だろ?」
「サリーシャ様は大いに目立っていたが、オリヴィアはずっと部屋に籠っていたからな。隠蔽は容易い」
「……らしいっちゃあ、らしいが……。はぁ、いやサリーシャ達の話はあとで本人に聞く。今はそれどころじゃねえ。まずはモンスー=メルドーとその一族だが、オリヴィアが良ければ俺は構わん。そのまま砦を任せてもいい。だが、いずれ領地は移すべきかもな」
「減封でなければ応じるだろう。むしろ、少し増やしてやればいい」
「分かった。じゃあ決まりだ……。いや、待て。もう一つ、メルドーの名前も改名した方がいいかも知れねえな。どう思う?」
「なるほど、悪くない考えだ。今後帝国の臣下となるなら、モンスーもその方がやりやすいだろう。機会を見て、加増転封と合わせて打診すればいい」
「よし。じゃあこれで決まりだ。ひとまずモンスーには俺から、立場の確保を保証する感状を出す」
「では私の部下に持っていかせよう。それにしても良く、この場で我慢したな。流石でございます。陛下」
「急に敬語やめろ。馬鹿にしてんのか」
「本気で感心しているのだ。お前の身軽さは武器だが、“重さ”もまた、王には必要なものだ。この戦、お前の見えない功績は意外に大きい」
「何もしてない事を褒められてもな……まあいい、ここからの話だ。諸将を集めるか?」
「まずは方針だけでも決めてしまった方がいいだろう。両砦から撤退した敵は、ヘインズの被害を差し引いても7万以上が健在だ。対してこちらは2万5千ほど。いずれにせよ、このままでは戦えぬ」
「まあそうだな」
「そして今、状況は大きく変わった。この戦いの最後の鍵を握るのは、“ここ”だ」
エンダランドはつかつかと壁に貼ってあった地図へと進み、その一点を指差した。