表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

371/537

【やり直し軍師SS-370】西方討伐17


「敵軍、当国へ向け迫っております!」


 つい先日、建国したばかりのシュレイア帝国。皇帝イルフェリオの元に届いた一報に、イルフェリオはフンと鼻を鳴らす。


「どうせ威嚇行動に過ぎん。それよりも、賛同者はまだ現れぬのか?」


「……そちらは、まだ……」


 独立宣言から7日、未だにシューレット各地から、シュレイアへの編入を求める声はない。イルフェリオとしては、大軍よりもそちらの方が気に入らない。


「各地へきちんと伝えているのであろうな?」


「は、それはもちろん……、それで、何人かの貴族が『説得のために所領へ戻りたい』と申し出ておりますが……」


「許可せぬ。それでは敵前で逃げ出すようではないか。所領に戻るのはあの不心得者どもが、己の国へと逃げ帰ってからで良い。それまでは、貴族も兵も、この帝都から出ることは罷りならん。夜の見張りも徹底せよ。逃げるものはこの余が自らその首を刎ねてくれる!」


「……かしこまりました。ではそのように手配いたします」


 配下が部屋から出てゆくと、イルフェリオは「使えぬやつだ」と悪態をつく。そんな様子を見ながら、弟のサウザンドが不安そうな声を上げた。


「兄上……」


「サウザンド、俺のことは陛下と呼べ。こういったことは最初が肝心だ」


「すみません、陛下。しかし、本当にあやつらは攻めてこぬのでしょうか? それならばなぜ、兵をこちらへ進ませているのでしょう」


「心配するな。数は多くても烏合の衆よ。むしろこちらとしては好都合。各国の元首がわざわざ我が戴冠を祝いに来るのだからな。足並みを揃えているが、水面下の思惑などバラバラよ。考えても見るが良い。あやつらはほんの数年前まで互いに戦争をしてきたのだぞ。余が餌をちらつかせてやれば、こちらにつく国も出てこよう。そうなれば見ものである」


「そのようにうまく行きますか?」


「いく。すでに、密かに各国への打診を行なっているのだ。どことは言えぬが、色良い返事も届いておる」


「おお、さすがあにう……いえ、陛下です」


「で、あろう。くくく」


「しかしそれならそれで、下々の者にそう伝えればよろしいのでは? 陛下の言葉に、心安らぐ者は多いかと思いますが」


「阿呆め。こういった謀略は、秘匿しておくものだ。どこから誰が聞いているかわわからぬ。お前もくれぐれも、口を閉じておけ」


「かしこまりました。でも、兄弟達には伝えても?」


「そうだな。そのくらいは構わん」


 この会話の数日後には、噂話が城中を駆け巡ってゆくのだが、イルフェリオは全く気づいてはいなかった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ほお、これがリュアージュ城か。古めかしいが、美しい城だ」


 僕の横でシューレット文化の粋を極めた古城を眺める、皇帝、ドラク。


「そうですね。これが見納めになるとは、少々残念な気がします」


 僕がこの城を見るのは3度目だ。過去の2回は、昔の未来で旅した時の事。最初は一緒に旅していた軽業師の一座と。2度目は一人で放浪している時。


 明日にも攻城戦が始まる。この城も無事で済むとは思えない。灰塵に帰さなければ幸運だろう。


「まあ、仕方ねえ話だ。しかしあいつら、随分と強気だな」


 10万を超える兵士が取り囲む中、イルフェリオから降伏や弁明の使者はなかった。大した胆力というか、なんというか……。


 当初は海からでも逃げたのかと思った。けれど、近隣の海岸線は全てゴルベルの船団が押さえている。密かに脱出できるような状況ではない。


「何か企みがあるのかもしれません」


「お前なら、この状況でどんな手を打つ? ロア」


「そうですねぇ」


 どう転んでも勝ち目はない。なら、やれる事は数えるほどだ。


「可能かどうかは別として……僕なら、一連の派手な演出の裏で、城の地下から長い洞窟を掘るでしょうね。それこそ、とんでもない距離の」


「脱出路ってことか?」


「ええ。こうして僕らが城を囲むのを待って、城に火を放ってから逃げます」


「ああ、死んだ事にして生き延びようってか」


「正解です。名を捨てて生きるなら、どうにか逃げ切れるんじゃないかと思います」


「……まあ、確かになくはねえな。で、その自称皇帝はその策を取ると思うか?」


「顔を見てもいない相手ですからね。どうでしょうか。ですが、まあ、それならそれでいいんじゃないかと」


 立場を捨て、名を変えて逃げ落ちた敗者。最早それは、世界になんの影響も与えない存在だ。自称皇帝の名前だけでも炎の中に消えるなら、落とし所として問題はない。


「嘘をつけ。お前は確信してんだろ? イルフェリオは逃げねえ、というか、そんな考えに至れる相手じゃねえとな」


「それは陛下もじゃないですか?」


「まあな」


 ガハハと笑う陛下。まあ、多分、逃げない。というか、そういう発想ができる人物なら、もう少し上手く立ち回りそうなものだ。


 すでに準備は整っている。あとは明日、決着をつけるばかりである。



 そして、その夜。


 密かに僕の元に、ネルフィアがやってきた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ロアとドラクの共闘とか、うわぁってなったわ
芸術を極めた建物が戦争のために壊れてしまうのは何とも言えないものがありますね。ロアもドラクも、本来はそういうものは大切にする人たちだと思いますので。 しかしながら、灰燼に帰したほうが良いのかもしれませ…
(自称)皇帝はずいぶん強気ですが、数年前まで争っていた4カ国を同盟関係にもってきた軍師がいる事に、思いがいかないのはどうなんでしょう。 普通の感覚ならこの状況では、逃げたいでしょう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ