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【やり直し軍師SS-367】西方討伐14

 シューレット王、ラスターデ様との細かなすり合わせはつつがなく進む。主な内容は、十二ヶ条に及ぶ要求に対する対応だ。


 ラスターデ王から条件の全てを飲むとの返答を貰ってはいるけれど、内容によっては多少の譲歩などが必要な事情があったりもする。


 とはいえ、王本人に加え、王の側近の立場を確固たるものにしているフィリングが前向きなので、今のところ大きな齟齬は起きていない。


 合意が容易な案件の話し合いがひと段落つくと、いよいよ懸案事項へ。そう思っていたところで、サピア様が待ったをかけた。


「すでに一刻半は話しておろう。切りも良い。一度休憩とせぬか」


「あ、それもそうですね。では、お茶を運ばせましょう」


「うむ。折角ぞ。各国のお茶の供を楽しもうではないか」


「それは面白いですね。皆様、構いませんか?」


 どこからも異論は出ず、僕らは思い思いに自慢の品々を準備する。ラスターデ王もザードに命じて、王都から菓子を取り寄せるようだ。


 目と鼻の先に王都があるシューレットを除く各国は、全て瓶詰めを持ち出してくる。


 瓶詰めは同盟国に技術供与を開始していた。ルブラルと専制16国からもライセンス供給の希望があったので、未だに技術提携の話をしていないのはシューレットだけだ。


 この瓶詰め、高い有用性から各国で爆発的な広まりを見せている。これは過去の未来でもそうであったので予想通り。


 で、結果的に、非常に実験的な内容物を封じた瓶詰めが、多数誕生するという結果を生んでいる。


 正直、「それ、瓶詰めにする必要ある?」という代物まで作られていた。まあ、新しい文化の過渡期とは、えてしてこういうものなのだろう。これから成熟するに向かって、民衆に人気のものや、有効なものだけが生き残ってゆく。


 今回も各国の個性あふれる瓶詰めが、お茶と共に登場した。


 まずは帝国、帝国は無難に果物の砂糖漬けだ。豊かな実りを誇る帝国では、多くの果実が育てられている。


 今回供されたのはナムットの砂糖漬け。ナムットはそのまま食べても結構甘味の強い果物で、砂糖漬けとなるとさらに甘さが際立つ。


「紅茶の方には、砂糖は入れずに楽しんだ方が良い」


 ビッテガルド皇子に勧められるまでもなく、ナムットを齧れば糖分は事足りる。ナムットが口の中にあるうちに紅茶を啜れば、フルーティな香りが口いっぱいに広がった。


 僕がナムットを楽しんでいると、隣にいたゼランド王子が、


「これは面白いですね」


 と声をあげる。見ればツァナデフォルの瓶詰めを摘んでいた。


 ツァナデフォルが持ち込んできたのは肉。鹿肉を蜂蜜と何かの香辛料で煮詰めたものだ。口に含むと、甘辛い味わいと少しクセのある肉の風味が鼻を抜ける。紅茶にも合うけれど、これはどちらかと言えば酒のつまみかな?


 最後にゴルベルの瓶詰め。これがまた興味深い代物だった。火を通した小魚がルオ油と一緒に詰め込まれている。


「紅茶のお供ということで、甘いものは他の方々がご用意されると思い、我が国は口直しを用意しました」


 ゴルベルのシーベルト王の言葉を聞きながら、一つ口にしてみる。なるほど、これは美味しい。特に内陸部で大きな評判を呼ぶんじゃないかな。


「む。やるな」


 大人しく紅茶を飲んでいたリヴォーテが、ゴルベルの瓶詰めに反応する。リヴォーテが反応するなら、味に間違いなさそうだ。


 現に皇帝陛下が興味を持って、早速シーベルト王に大量買い付けは可能かと問うていた。


 そんな各国の個性溢れる瓶詰めを前に、ラスターデ王が目を白黒させている。


「どうですか? シューレットも技術提携をご検討されては?」


 僕が水を向けると、ラスターデ王は「ううむ」となやましげな顔をする。ただ、全く興味がないわけではないようだから、これが一つのきっかけになればいい。


 さて、一息ついて、場が改まる。


 ここからの話し合いの焦点は、ラスターデ王の子供達の扱いについてだ。王族からの廃嫡と除籍処分。王が良しとしても、本人達は到底受け入れられないだろう。


 では、拒否した場合はどうするか。そこが話し合いの焦点となる。


 僕らとしてもできる限りは穏便に済ませたいところだけど、それはあくまで向こうが大人しく従ってくれる前提だ。


「現在、王子達……便宜上、好戦派と呼びましょう。好戦派なのは8名のうち、ここにおられるお2人を除いた全員と考えてよろしいですか?」


 僕の問いにラスターデ王は頷く。


「兵士の方はいかがでしょう? どのくらいが好戦派に?」


 再びの問いに対して、ラスターデ王はフィリングに視線を移す。それを受けたフィリングが僕らに向かって答えた。


「正確な人数ではありませんが、一万二千程度かと」


 多いとも少ないとも言える人数だな。まあ、今のまま戦いになればひとたまりもない。向こうもそれは流石に分かっているだろうから、あとはどうやって切り崩すか。


 けれどそんな僕の考えは、そのわずか後に打ち砕かれる。



―――シューレット第一王子、イルフェリオ。シューレットからの独立を宣言―――



 ラスターデ王にとって悪夢のような報告が、陣幕内に響いた。




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― 新着の感想 ―
逆に、心置きなく処断出来ると思えば悪くないかも。
教育の失敗は親の責任だからなあ。王ともなれば、その責任の大きさもね
ラスターデ王が心配
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