【やり直し軍師SS-359】西方討伐⑥
シューレットへの挙兵。その時期は半年後と定められた。
その間にシューレットの王子達が暴発する懸念もあったけれど、ここまで上手く場を掌握していたフィリングとザードの主従である。準備期間程度は織り込み済みのはずだ。
こうして手筈を整えた僕らは、各国大軍を率いて、ゴルベル西部のオルルカという広い丘に結集した。
「これは流石に、壮観だなぁ」
司令部の置かれた丘の上からは、見渡す限りの人、人、人。それら全てが兵士である。
各国が引き連れてきたのは、ゴルベルが2万5千、ツァナデフォルは2万8千。ルデクは第10騎士団、第二騎士団、第七騎士団を中心とした編成で、合計3万3千。そして帝国に至っては、実に5万もの大軍を引き連れてきた。皇帝、やりすぎである。
さらに同盟国以外にも、別途6000の兵士がこの場にいた。ルブラル、専制16国が、それぞれ兵士3000と軍資金の供出を申し出てきたのだ。
余計な軋轢を避けるため、ルブラルと専制16国には事前に通達をしておいた、その返答がこれ。両国とも『逆らうつもりはない』という意思表示。
この両国の動きにより、シューレットの若き王子達の一縷の望みといえた、他国の支援の目も完全に潰えた。開戦前から既に勝負は決している。
なお、両国から提供された軍資金は、気持ちだけ受け取り、そのまま持ち帰ってもらう。ただでさえルデクと帝国に富が集中している状況で、両国からむしり取ってもあまり意味がない。
部隊の方はありがたく受け入れる。それぞれ、ルブラルの部隊はゴルベルに、専制16国の部隊はツァナデフォルに組み込んだ。
比較的両国と繋がりの強い国につけたので、大きな軋轢はないはず。
というわけで、最終的にこの地に集まったのは、14万2千の超大軍。間違いなくこの瞬間、オルルカの地名は歴史に刻まれた。
様々な歴史の一幕に立ち会った僕だけど、これはまた今までとは違った興奮を覚える。まさに『ぼくのかんがえたさいきょうのぶたい』だ。
改めて見てもとんでもない人数だ。対するシューレットはといえば、ネルフィアの予測によると、国として限界までかき集めても4万は無理。まして、反乱軍となれば、1万を超えるかどうかといった感じらしい。
もはや少し可哀想ではある。が、別に早々に降ってくれれば、命まで取る事はない。なるべく早い決断を願うばかりである。
と、まずはそれ以前の懸念が残っていた。ザードが返事を持ってこないのだ。このまま連合軍がシューレットに足を踏み入れる事になれば、最悪の結末すらありうる。すなわち、武力による蹂躙。その先にあるのは滅亡の二文字だ
確かに僕らが出した提案は、彼らにとって簡単に承服しかねる内容だろう。しかし、各国を利用するというのは、そういう事だ。己の身を刻み、血を流さなければならない。
このままザードが戻ってこなければ、皇帝やサピア様は躊躇なく殲滅戦に移行する。あの人達は軍を起こすという意味を、僕よりもずっと正確に、厳しく捉えている。そして、そうなった場合は、僕にも止める術はなかった。
こればかりはシューレットという国の覚悟の問題だ。まして、この期に及んで別の使者が来て『誤解なので兵を引いてほしい』などと言った日には、元首達の逆鱗に触れる。要求を飲むという返事か、滅ぶか。選択肢はこの二つだけ。
「何をほうけている」
聞きなれた声に振り向けば、鎧姿のリヴォーテがいた。普段がちょっとアレなだけに、ちゃんとした格好をすると、なんというか、立派に見える。
「いやぁ、凄いなって思ってね」
僕の隣に立って、腕を組んで同じように兵士を見下ろすリヴォーテ。
「ああ。流石に俺もこれほどの軍勢は初めて見るな。腕がなる」
今回、帝国の大将は第一皇子、ビッテガルド=デラッサ。皇帝はあくまで見学での同行である。そして、そのビッテガルドから総指揮を任されたのがこの男、リヴォーテ=リアン。
『手を出す前に降伏させんなら、リヴォーテが適任だ』
と、指名したのは皇帝ドラク。さらに帝国陣営には、知将フォルク、剛弓のルアープ、大剣のガフォルなど、錚々たる人物が並ぶ。僕としてはこれらの将の出陣姿を見るだけで満足である。
気合が入っているのは帝国だけではない。ツァナデフォル、ゴルベルの両国も、柱石たる将が勢揃い。口には出さないけれど、いずれの国も、諸将も、これが当代最後の大きな戦場と定めているような雰囲気があった。
僕らルデクも負けてはいない。ウィックハルト、双子、フレイン、リュゼル、ディックはもちろん、ホックさん、トール将軍、それから本人たっての希望で第五騎士団団長のベクシュタット様も参戦しているのだ。
さらに、ルデクの大将はゼランド王子。総指揮を任されるのはこの僕、ロア=シュタイン。
最大勢力の両指揮官となった僕とリヴォーテは、しばしそのまま、呆れるほどの兵士の群れを見つめていた。
そんな時である。
ザード、帰還。
ギリギリのタイミングで、ようやくその一報が届いた。