【やり直し軍師SS-358】西方討伐⑤
いつもお付き合いいただきありがとうございます。
お蔭様をもちましてSQEXノベル書籍版、第二巻本日発売でございます!
お手に取っていただけると嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたします!
それと、実は今回の更新で話数本編越えでもあったりします!
ザードが転がるようにして帰って行った後、僕と各国元首は貴賓室に集まり、再び話し合いの場を設けていた。
「で、ロア、シューレットは“呑む”と思うか?」
お茶請けに出された小ぶりなシュークリームを口に放り込みながら、皇帝ドラクが僕に問う。
「そうですね。多分」
僕の出した、正確には僕らがシューレットに突きつけた提案は、実に十二ヶ条にも上る要望書だ。
僕からはシューレット王家の一夫多妻制の禁止。貴族間の婚姻の制約をつける事。ピリアノとアイバッハの2名を除く、全ての子息の廃嫡及び、王族からの降格。四カ国の同意なく、現王の退位は認めないなど。
いずれも王家の尊厳を踏み躙るような要求。特に一夫多妻制の禁止は、シューレットの文化を否定するような行為。ただでさえ自国の伝統や文化を誇るお国柄の彼の国には、これ以上ないような侮辱だろう。
僕が出したのは5案だったけれど、加えて各国の王からもいくつかの意見が出た。それらを全て合わせたらこれほどの数になったのだ。
ザードの主筋、フィリングやピリアノ、アイバッハは当てが外れたかも知れない。
継承権こそ確保されるが、当面は玉座を掴むことはできず、なおかつ代替わりをした時は、『他国を引き込んで文化を破壊した愚者』という立ち位置から統治を始めるハメになる。その道のりには荊が敷き詰められている。
けれど、僕らの提案を蹴れば、王族の命は確実にない。待っているのは全員仲良く首を晒す未来だけ。運よく逃げることができたとしても、北の大陸には居場所は存在しない。
また仮に南の大陸に逃げおおせたとしても、ルデクや帝国の圧力を前に、シューレットの王族を匿う義理をどこまで感じるか疑問だ。心安らかに生きることは不可能である。
どれだけ屈辱的であろうと、要求を受け入れれば死ぬことはないのだ。と言っても、反抗し、兵を起こす者は必ずいる。その子息達は、残念だけど救うことはできない。できれば少しでも生きるという選択をしてほしいものだ。
「仮に要求を受け入れたとしても、野に降った者共がいずれまた乱を起こすのではないか?」
サピア様が口にした懸念。僕は頷きながら答える。
「いずれはそうなるでしょうね。ですが、一度失った権力を取り戻すのは容易ではありません。今回ほど大規模な計画は無理でしょう。なら、あとはシューレット国内で処理する問題かなと」
「ふむ。確かにその通りであるのぅ。……しかし、少々手ぬるすぎぬか? いっそ領土の半分ほど奪い取って仕舞えば、勝手に枯れてゆくであろうに」
「どうあれ四カ国が侵攻するのに、手ぬるいって事はないと思いますよ?」
戦闘民族の発想に、僕は苦笑してしまう。
「その侵攻だが、どのようにする? 腹案はあるのか?」
ゼウラシア王の質問。その横ではゼランド王子も真剣な顔で僕らの話に耳を傾けている。
「そうですね。なるべく血が流れない方法が理想です」
シューレットの民に大きな被害が出なければ、王族の揉め事に介入しただけという印象は強くなる。後々を考えればその方が良い。
「血が流れぬ方法。どうされるのです?」
椅子に深く座り、話を黙って聞いていたシーベルト王が口を開いた。
「そうですね。実は四カ国それぞれに工夫してもらえればと思ってまして。一言で言えば“競争”にしようかと」
「また、妙なこと言い出したな」
皇帝が楽しそうに食いついてきた。
「四カ国それぞれ、別の場所からシューレットに侵攻し、無血で落とした町村、そして砦の数を競うというのはどうですか?」
「相手が抵抗したら?」
「そうさせないのが各国の腕の見せ所です」
「面白くはあるが、勝ったところで何があるのだ?」
「ひとつ、僕から賞品を出そうと思っています」
今度はサピア様が身を乗り出す。
「ほお? 聞こう。お主のことぞ、つまらぬものではなかろう」
僕は一度口を閉じて、皇帝陛下が掴んでいるシュークリームを指差す。
「誰も知らない、新しいお菓子のレシピ。なんてどうでしょう?」
僕が言い放った瞬間、今日一番、場がざわつく。
この件に関しては、すでにゼウラシア王には相談してあった。新しいレシピ、それは単に個人で楽しむだけの話ではない。
少し大袈裟な表現にはなるけれど、シュークリームのように大陸中から評判を呼べば、副次的な部分も含めて莫大な利益を生み出す可能性もある。
当然、各国の王からすれば見逃せない話だ。
「……面白い。乗った。帝国のためのレシピ、しっかり考えておけ」
「無論、妾も乗ろう。レシピを得るのは我が国ぞ」
「これは少々、ゴルベルも兵数を増やす必要がありますね」
目の色を変えた王達。こうして僕らはシューレット国内で、陣取り競争を開催する事になったのである。