【やり直し軍師SS-354】西方討伐①
SQEXノベル書籍版第二巻、10月7日発売!
いよいよ発売カウントダウンです!
予約もまだまだ受付中でございます!
また、活動報告でもお知らせしましたがコミカライズも決まりました!
書籍版ともどもよろしくお願いいたします!
発売特別企画として、今回の帝国編はお休み。
満を持して、あの事件の続きを始めたいと思います!
全20話の大ボリューム、一挙連日更新でお送りいたします!
お楽しみただければ嬉しいです!
それは、奇妙な来訪者から始まった。
「名前を言わない客? 僕に?」
「はい。そのように書いてあります」
すっかり秘書官が板についたレニーは、淡々と僕に報告書を手渡してくる。提出者は第10騎士団所属の兵士となっていた。
ルエルエの街の近くの、伝馬箱に任務で詰めていた人物からだ。
宰相の立場になってから、直接僕に会って話がしたいという人はとても多い。大抵が何らかの陳情で、自分の利益確保のためのものである。
ただ、それらの人物と僕が会うことはほとんどない。大抵の場合は、ラピリアとウィックハルトとレニーによって、必要な部署へと回されるからだ。
また、しつこかったり悪質と判じられたものは、双子案件として処理される。僕は後から報告を聞くだけ。
そのため内容も分からない案件が、僕のところまでやってきたのは、最近では少し珍しい。
書類を見ても、レニーが口頭で説明する以上のことは何も書かれていない。不信極まりないにも関わらず、その場で追い返されなかったのは、とある紙切れが同封されていたから。
それは僕とラピリアの婚儀の招待状の一部。偽装不可能な物でもないけれど、紙のよれ具合からは本物のように見える。
僕らの婚儀はもう6年も前の話。未だにそのような代物を後生大事に持っている相手とは、いったいどのような人物なのだろう。或いは、誰かから買い取ったのか。
王都までやってくるのではなく、ルエルエで待っている意図も分からない。王都に出入りできぬような人物? どんな理由で?
「相手は一人かな?」
一応、報告書にはそうある。
「……仲間が潜んでいる可能性は、否定できませんが」
レニーが懸念を口にするけれど、仮に僕を誘い出して襲うならば、潜める程度の人数では少々不用意だ。
当然こちらは護衛の兵士を準備する。それに中途半端な人数では、ウィックハルトや双子の相手ではない。
「ロア殿、どうされますか?」
質問の体をとっているけれど、ウィックハルトは既に答えが分かっているような顔をしている。長い付き合いだからね。
「そうだね、会ってみようか。念のためルエルエのあたりに、少し兵士を回しておいてくれる?」
「無論です。手配します」
「うん。頼むよ。それと、相手が本当に僕の顔見知りなら、多分お忍びだろうから、こちらも人は絞ろうか。ウィックハルトと双子、それにサザビーがいいかな。レニー、また留守は任せたよ。何かあったらフレインに相談して」
「承りました」
諸々段取りを整えると、僕らは一路、ルエルエの町を目指す。
その道中での事。ネルフィアが馬上から僕に話しかけてきた。
「ロア様は、今回の相手に予想がついているのですか?」
「うーん。確信はないけれど、もしかしたら、っていう人物はいる」
「今、お名前を伺っても?」
「いや、やめておこう。言った通り、確信もないし。全然違ったら恥ずかしいから」
まあ正直なところを言えば、恥ずかしいというより、僕の予想が外れてくれると良いなと思ったのだ。
だから口にして現実にならないようにと、願ったのだけれど。
結局、僕の願いは叶わなかった。ルエルエの街には、予想通りの招かざる客が待っていたのである。
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「お久しぶりでございますなぁ」
若いような老齢のような。何とも掴みどころのない風貌で、妙にへこへこと僕の前に立っておきながら、全くへりくだっている感じがない。
シューレットの元諜報員、ザードは、6年前と変わらぬ様子で僕の前に現れた。
ここはルエルエの領主館の一角。僕らのために領主さんが提供してくれたのである。
「ザードも元気そうだね。けど、随分ともったいぶった呼び出し方だ」
「申し訳ありません。まずはどうしても、大軍師ロア=シュタイン様とだけお話をさせていただきたかったもので」
そんなザードの言葉に、待ったをかけたのはサザビー。
「すみませんが、私たちはロア様との会談に立ち合います。2人だけでお話しすることはできません」
サザビーの言葉に、ザードはタンっと自分の額を叩く。
「いえ、もちろんもちろん! 今のは、私を知らぬ相手に話を聞かれたくないという意味でさぁ」
何でもない言葉だけど、ザードが言う場合は色々な意味が込められていそうだ。すぐに王に伝わっては困る、とか。
相変わらずの喰えない態度に苦笑しながら、僕は話を聞く姿勢をとる。
「それで、一体なんの用かな? 改めて就職先の斡旋希望?」
かつてのザードの目論見を持ち出してみれば、ザードは困ったように頬をかいて、それから真面目な顔を作る。
普段、冗談しか言わないような顔をしているザードは、ぐっと口元を引き締めると、
「単刀直入に申し上げます。シューレットに向けて、兵を起こしていただきたい」
と言い放った。