【やり直し軍師SS-352】シャンダルの帝都見聞録③
「こいつは留守番隊隊長のロカビル、俺の息子だ」
「陛下。いえ、父上。ちょっとそれっぽく言っても誤魔化されませんが?」
宮廷で私達を待っていたのは、陛下の第三皇子、ロカビル殿であった。
「しかし残しておいた仕事、お前がやっておいてくれたのだろう?」
「やっておきましたが、サリーシャ様にも報告致しました」
「なっ!? それは卑怯だろう!」
「職務放棄に卑怯も何もありませんよ。ちなみに今頃は、オリヴィア様と今回の件をお話しされているはずです」
「何? あやつめ……いつの間に……」
ロカビル殿の言葉で初めて気がついた。いつの間にかオリヴィア殿が消えている。
「さて、改めましてシャンダル王子、お久しぶりですね。ロカビル=デラッサです。覚えておいでですか」
スッと手を差し出してくるロカビル。私はその手を掴み、笑顔を返す。
「もちろんです。こちらこそご無沙汰しております」
「随分と精悍な顔つきになられた。もはや、少年とは言えませんな」
「そんな。私などまだまだです」
「なんだ、お前ら知り合いか? どこかで会う機会なんてあったか?」
陛下が首を捻り、ロカビル殿が手を額に当てる。
「以前に陛下の代理で、遺跡の街の視察に行ったではないですか。その際に、王都で。と言っても、本当に簡単な挨拶程度ではありますが」
そう。ロカビル殿は、ロア殿と遺跡の街を視察したのち、王都でルデク王に謁見した。その時私も、立ち会わせてもらったのである。
ロカビル殿と最初に会った時は緊張した。何せ、ロカビル殿の兄上は帝国で反乱を起こし、我がゴルベルへと逃げて来たのだ。
この一件は今でこそ、リフレアの陰謀という認識にある。
それでも兄弟を唆し、命を奪うきっかけに、我が国は関与している。その王子が私だ。嫌味の一つでも言われても文句は言えない。
けれどロカビル殿は、その事件には一切触れる事なく対応してくれ、私は密かに胸を撫で下ろしたものであった。
「ああ、あの時か。なるほどな、では、次はビッテガルドを紹介しよう」
つまらなそうにする陛下に、ロカビル殿が再び答える。
「兄上はドラーゲンに行ってますよ」
「何かあったか?」
「いえ。いつもの東方諸島の商団との打ち合わせです」
「そうか。ならシャンダル王子がいる間に、戻ってくるか微妙だな」
私の滞在は8日間と定められていた。同行してくれたラピリア殿やサザビー殿の都合もある。
「まあいい。なら約束通り、明日から俺が帝都を案内してやろう」
陛下がそのように言った直後、サリーシャ殿がやって来る。
「シャンダル王子、お久しぶりです。あら、すっかり精悍なお顔になられましたね」
ロカビル王子と同じような言葉で、私を出迎えるサリーシャ殿。
サリーシャ殿とも、ロカビル殿と同じ時に顔を合わせている。
特にサリーシャ殿は少し長く王都に滞在していたので、それなりに親交があった。ルファ殿も交えて王都を散策したりもしている。
「恐れ入ります。お会いできて嬉しいです。サリーシャ様」
「またウチのが迷惑かけて、ごめんなさいね」
「いえ! そんな……」
「そうだぞ。俺は王子の成長の手助けをだな……」
「陛下。後で少しお話があります」
「あ、ハイ」
帝国の国母。そのように言われるのも納得の存在感を放つサリーシャ殿。その後ろでくすくすと可愛らしく笑うオリヴィア殿。
「ともかく、折角ここまでいらしたのですから。帝都を楽しんでください」
「ありがとうございます。学ばせていただきます」
「シャンダル王子のその勤勉さは素晴らしいと思います。あなたのその心持ちは、きっと王になった時に役に立つはずです」
サリーシャ殿にそのように言われると、なんだか照れ臭い。母に褒められているような気分になる。
「いえ。そんな……」
優しい眼差しを私に向けたサリーシャ殿は、一転、陛下に顔を向けると。
「国を治むる者の心構え、このような若き王子も心得ているというのに……」
と言いながら嘆息する。
「待て待て、シャンダルよ。サリーシャやロカビルは生真面目すぎるのだ! 真面目なだけでは民の息も詰まるぞ! お主とてそのような国に住みたくはなかろう?」
そこから始まる身内の言い争いを見ながら、なるほど、バランスというのは大事なものなのだなと、私は思った。