【やり直し軍師SS-351】シャンダルの帝都見聞録②
皇帝陛下が『褒美に帝都を案内してやる』と言った翌日には、私達はツェツェドラ様の館を出立。本当に何が何だか分からないうちに、帝都に来てしまった。
話には聞いていたが、実際に目の当たりにすると行動力の塊のようなお方だ。もう相応のご年齢のはずなのに、活力に溢れている。やや溢れすぎている。
やっぱりこれほどのお方であるから、一代でグリードル帝国を打ち立てることができたのだと妙に納得してしまった。
陛下の行動に巻き込まれたのは私だけではない。私の護衛であるフランクルトはもちろん、ラピリア殿、サザビー殿も同行してくれたのだ。
『王子の安全を預かった手前、本当は僕が一緒に同行するべきなのだけど……』
出発前、そう言いながら困った顔をしたロア殿。あのロア殿といえど、流石に陛下が私を連れ帰る事は想定以外だったようだ。
ロア殿にはルデクの国家運営を担う大切な仕事がある。今回は、帝都まで行くほどの日程的な余裕はない。
ならば私が断れば良いのかもしれないが、相手は帝国の頂点に立つお方。後々のゴルベルと帝国の関係を考えると、安易な真似はできない。
このあたりはロア殿も良く理解してくれていた。だからこそ、ラピリア殿とサザビー殿をつけてくれたのだ。
『ま、いい機会だよ。行くなら行くで見聞を広めてくるといい』
そう言って快く送り出してくれたロア殿に見送られ、帝都にやってきたのである。なお、ユイメイの双子も一緒だけど、こちらは別に私の護衛ではない。単純に面白そうだからついて来ただけ。
その証拠に、帝都に着いたらあっという間にどこかへ行ってしまう双子。自由だ。この双子を配下に持つロア殿を、しみじみと尊敬する。
双子はともかく。
「これが、帝都……なんて巨大な……」
初めてルデクに連れてこられた時も驚いた。祖国の王都、ヴァジェッタとは比べ物にならないほどに大きくて発展していたからだ。
世界にはこのような大都市があるのかと思った事を、昨日のように覚えている。
しかし帝都はそれ以上に大きい。そして人が圧倒的に多い。人の流れで酔いそうだ。
「だろう?」
陛下が満足そうに頷かれる。隣では一緒に帰還したオリヴィア殿が、ラピリア殿に話しかけているのが聞こえる。
「そういえば、ルデクトラドも拡張工事が行われると聞いたの」
「ええ。ルデクトラドも人が増え、少々手狭になって来ましたので。東西に広げる作業が始まっています」
「ほお、大層なものぞ。ルデクもますます安泰であるの」
「ありがとうございます。ですが、やはりこの帝都の賑わいには何度来ても驚かされますね」
「最近は東方諸島からやってくる者も多いでな。加えて、平和になった事で、帝都で一儲けしたい者たちが引も切らぬ」
そんな穏やかな会話に、陛下が割って入った。
「ルデクトラドがデカくなったら、俺は帝都をさらに広げるぞ。大陸最大の都市は常にここ、デンタロスだ!」
陛下が豪快に笑いながら、馬で目抜通りを闊歩する。行き交う人々が陛下に気づくと、慌てて道を開け、歓声を上げる。中には涙を流すものもいて、陛下のカリスマ性が垣間見える。
私は陛下の後ろでキョロキョロと街並みを楽しみながら進む。ゴルベルともルデクとも違った様式の建物が多い。
帝国のある大きな平野は、年間通して安定した気候であると学んだ。穏やかな気候が建物にも影響しているのだろうか? あとで、誰かに聞いてみよう。
「王子、大丈夫ですか? 馬から落ちぬようお気をつけを」
私があまりにも周辺に目を奪われすぎていたからか、フランクルトが心配そうに声をかけてくれる。
思えば、フランクルトもすっかり私の従者が馴染んでいる。本人が望んでこの立場にいてくれると聞いたが、この先どうするのだろうか。
私はいずれゴルベルに戻る。そして、両国のやり取りから、その時期は徐々に近づいて来ているのを実感していた。
フランクルトは戦時中に祖国を捨て、ルデクへ亡命した人間だ。通常であれば帰国は許されるものではない。
しかしフランクルトは少々事情が複雑だ。結果論にはなるが、フランクルトの知らせによってゴルベルはルデクとの同盟を決断し、今はこうして私の面倒を何くれとなく見てくれている。
本人はどう思っているのだろうな。
そんな事を考えながら、私は「大丈夫だ」と言葉を返すのだった。