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【やり直し軍師SS-349】グリードル65 六ヶ月戦線30


 奇しくも、サランがその凶報を受けたのは、砦内のエンダランドやオリヴィアとほぼ同時だった。


 報告書に目を通し終え、1度目をつむる。そして書面が意味する内容を正確に理解するために、もう一度同じ文面を読み返した。


 連合軍にとって、少々理解し難い報告だ。誰もがまず最初に虚報を疑うだろう。


 背後を守る味方の、唐突な裏切り。


 近隣で最大の砦である、サルトゥネの砦が降伏。敵の手に落ちたという。しかもどうやら戦いもせずに降ったのだと。


 砦を守っていたのは、あのライリーンの親族であったはず。そもそもサルトゥネの砦に攻め入った敵兵とは、一体どこから湧いてきたのか。


 単純に考えれば、ボーンウェルの大砦に籠っていたグリードルの主力部隊だ。皇帝が博打に打って出て、強行を仕掛けた可能性が一番に思い当たる。


 が、同時に、ではボーンウェルの大砦はどうしたのだという話になる。


 いくらドラクが奇策を好むといえ、流石にグリードル最大の砦を破棄してまでして行う行軍ではない。それでは馬鹿のやる事だ。


 加えていえば、ボーンウェルの砦を囲んでいるのは、スキット=デグローザである。


 他国の将だが、スキットの優秀さは疑うべくもない。まして、グリードル帝国とその皇帝を最も危険視していた男だ。敵を侮って突破されるような真似はすまい。


 そうなると、他の場所でどこかの戦線が突破されたか。


「こればかりは考えても分からんな」


 一人呟いて立ち上がるサランに、副官が声をかける。


「どうされますか?」


「ミトワに会う。このような時のために、ランビューレは各軍に部隊を送り込んでいたのだろう。せめて原因くらいは突き止めてもらわねばな」


 いざ陣幕を出ようとしたサラン。サランが立ち上がるのを待っていたかのように、ランビューレからも召集の使者がやってきた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「なんだと? リヴォーテ? なぜリヴォーテの名前が出てくるのだ?」


 聞けば聞くほど理解のできぬ報告だ。


 同席しているオリヴィアやジベリアーノ、サリーシャ達も要領を得ない顔をみせる。


 朗報を持ち込んだのは、エンダランドの連れてきた諜報部隊の一人だった。オリヴィアの手紙を、サルトゥネの砦に届ける役割を担っていた部下だ。


 当初はモンスーが降ったという報告に盛り上がったものの、その内容は不可解極まりないものであった。


「詳しくは、こちらの兵士から」


 紹介されたのは、リヴォーテに付き従っていたという若い兵士。状況を鑑みて、一緒に連れてきたらしい。


 そうして若い兵士から語られた一連の流れに、エンダランドは唸りながらも若干呆れた。


「つまり、ズイスト国内で住民蜂起を促し戦どころではなくして、さらに一部の部隊を引き連れて陛下の元に向かっていたところ、何もしていないのにサルトゥネの砦から降伏の使者が来た。それで間違いないか?」


 リヴォーテが現れた理由は理解した。しかし一通り説明を受けても、最後が唐突すぎる。


 と、不意にオリヴィアが笑い出した。最初は小さく。徐々に大きく。オリヴィアにしては珍しい笑い方だ。


「理由が分かったのか?」


 エンダランドの問いに、オリヴィアはようやく笑いを抑え、答える。


「うむ。ほぼ想像となるが、モンスーは勘違いしたのじゃ。ズイストが負けて、帝国軍が攻め寄せてくると」


「そういう事でしたか。だが、それにしても即、降伏とは……」


 なおも理解しかねているジベリアーノが口を挟むも、オリヴィアはもはや確信したように言葉を続ける。


「よいか。モンスーはどちらにつくか迷っておった。ここに異論はないな?」


 全員が頷いた。エンダランドの放った使者を受け入れ、オリヴィアの手紙を再三に渡り受け取っているのだ。揺らいでいたのは間違いない。


「そこに西から帝国兵がやってきた。西では連合軍が負けたのか。そのように考えたとしよう。さてエンダランド、この状況で、お主であれば最上の身の売り時はいつかの?」


 それは、悩むまでもない。


「本隊が来る前に降れば、扱いも変わる、か。だがそれは、モンスーが降る事を決めていた前提でないと成り立たんぞ」


「エンダランドともあろう者が、間抜けなことを言うでない。すぐに降ったという結果があるのじゃ。ならば、そういう意味であろう」


「……確かに。間抜けな発言だった」


「それにしても、リヴォーテは良いところに現れたの。偶然、いやこれは、偶然なのか……」


 オリヴィアはやや神妙な顔で、“偶然”という言葉を繰り返す。


 エンダランドの脳裏に、天を指差すドラクの姿が浮かぶ。


 あやつは本当に、天にでも愛されているのか。


 しかしエンダランドはすぐに想像を振り払う。まだ目の前には5万の敵兵。幸運や偶然に頼っている場合ではない。


「さて、背後が寒くなったあやつらは、ここからどう動くかの」


 モンスーという大物を釣り上げ、一仕事終えたオリヴィアは、ニヤリとしながら窓から敵軍を見下ろすのだった。



今回の前半パートはここまでです!

引き続き後半パートをお楽しみくださいませ!

SQEXノベル書籍版、2巻発売もそろそろ迫って参りました!

絶賛予約受付中でございます!! よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幸運とは言え、それもオリヴィアの様々な根回しや、リヴォーテの予測を出し抜く動きあってこそ。 ドラク(帝国)には、本当にいい人材が集まったのですねw
[良い点] なるほど、と思える展開が表現されていたこと。 [気になる点] オリヴィアが素晴らしいです。だけに、悲惨なことが起こらないように祈ります。本編に出てこなかったのは天寿を全うしたからだと思いた…
[一言] オリヴィア、リヴォーテ、ドラク、エンダランド、その他大勢の人事を尽くした果ての天命、といったところでしょうか。 いやはやドラマを見せてくれますね。 続きに期待です。
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