【やり直し軍師SS-343】フレインの恋④
いつもお楽しみいただきありがとうございます!
2巻の表紙、情報解禁となりました! 今回はあの2人が目印!
活動報告に載せておきますので、ご覧いただければ嬉しいです!
娘はフレインの視線に気づく事なく、懸命に馬の世話を続けている。その姿に釘付けになっていると、フレインの名を呼ぶ声がした。ウィックハルトの妹、セシリアだ。
「フレイン様、こちらにいらっしゃったのですね! リュゼル様もご機嫌麗しゅうございます」
セシリアの声に反応したのはフレイン達だけではない、馬の世話をしていた娘もこちらを振り向き、慌てて膝をつく。
そんな様子を見てセシリアが声を掛けた。
「もう、トゥリアナ。そんな畏まったのはやめてって言っているのに」
そう言われて、少し照れながら立ち上がるトゥリアナ。
「すみません。牧場長から、貴族様への対応だけはちゃんとするように言われていたので、つい」
「全く、ヴィゼルも気負いすぎなのです。特に、今回の市を取り仕切る第10騎士団の皆様に、権力を振りかざすような方はおられないわ。自然体でいれば良いのよ」
「そうですかね……あ、でもこちらの皆様は……」
「その第10騎士団の要人の皆様です。皆様、その娘はトゥリアナといい、こう見えて、今回の市の責任者になります」
「責任者だなんてそんな! 私はただ、馬の手入だけは得意なので、こうしてみんなの体調管理を任されているだけで……」
「謙遜していますが、トゥリアナの馬の見立ては牧場でも指折りです。それに、ほら」
話している間も、トゥリアナの髪には先ほどまで手入れをしていた馬が頬擦りをしている。愛されていることが実によく分かる光景だ。
と、ふいにフレインと視線が合ったトゥリアナは、慌てて髪を整えようとした。
「高貴な皆様の前で、このような格好ですみません!」
手入れをしようとしても、作業用の手袋をしたままなので、むしろ若干髪は乱れる。そんな様子を見て、フレインはついつい笑ってしまった。
「す、すみません!」
謝ってくるトゥリアナに、フレインも謝罪する。
「いや、こちらこそ申し訳ない。決して馬鹿にしたわけではないのだ。むしろその若さで、馬の管理に熟知しているのは感嘆に値する。見た目など気にしなくていい。邪魔をしているのはこちらだからな」
「そうは申されましても……」
埒が開かないなと思ったフレインは、話題を変える。
「ところでその馬、なかなか良い馬体をしている。軍用か?」
フレインの言葉に、トゥリアナの表情がパッと明るくなる。
「分かりますか!? この子はとても俊敏で、柵も簡単に飛び越えるくらいなのに、頭も良くて、怒られると自分で柵の内側に戻ったりするんです!」
「柵を飛び越える。それは大したものだ。少々、見せていただいても?」
「もちろんです! この美しい金色の毛並み、それにこのトモ! 流星も整っていますし、貴族様が背に乗ったらすごく映えると思います! 今回連れてきた子達の中でも特におすすめです」
「ああ。確かにこれは良い。……試しに乗ってみたいのだが、良いか?」
「もちろ……あ、いえ、セシリア様、宜しいのでしょうか?」
「かまいませんわ。何せ第10騎士団副団長のフレイン様が試乗されたとなれば、随分と評判を呼ぶでしょうから」
「えっ!? フレイン様は、あのフレイン様なのですか!?」
「どのことを言っているかは分からんが、多分、“その”フレインだとは思う」
「この競い馬競技場を造ったという!」
それは中々に斬新な“あの”だな。確かに競技場の造成の指揮を執りはしたが、そこを最初に指摘する相手は今まであまりいなかった。
「お会いできて光栄です! あの握手を! あ、いえ、今、手を洗ってきますので!」
「いや、別にそのままでも構わん。馬の手入れをしていた手を汚れているとは思わんからな」
「で、では」
手袋を外し、おずおずと差し出されたその手。その手は傷もあり、爪にも汚れがついている。俯きがちに頬を赤らめるその姿を見て、フレインの口からほとんど無意識のうちに、
「美しい手だ」
という言葉がこぼれ落ちた。




