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【やり直し軍師SS-332】グリードル56 六ヶ月戦線21


 サランとミトワが、陣幕内で杯を交わしていたその頃。


 グリードル最大の城砦、ボーンウェル大砦と対峙していたスキットは、腕を組み天井を睨んでいた。


 スキットの元には、各地の序盤の戦況が集まっている。


 東部はひとまず順調だ。ルガー軍は工作部隊を使って、塁壁を破壊する方向で動いているという。


 もとよりルガーに関しては、そこまで期待はしていない。我々がグリードルと戦っている間に背中を突かれなければ、こちらに引き込んだ目的の大半は達せられたと言って良い。


 ルガー側とて、当然意図を理解している。真面目に戦うつもりなどまず、ない。ゆえにこそ、ザモスをお目付役としたのだ。


 ザモスは生真面目な男だ。スキットの命令を額面通りに受け取って、ルガーの情報を集め、進軍を促すはず。それで多少なりとも、ルガーを動かすことができれば儲けものである。


 ザモスの性格的に、ルガー側は多少気分を害するかもしれないが、大きな問題はない。どの道ルガーとの同盟は一時的なものだ。


 次に西端の戦い。こちらは少々遅れが生じている。ズイスト側の軍の招集が思ったよりも手間取り、砦に取り付くのは、当初の予定より半月ほどずれ込むとの報告があった。


 とはいえ、これもそこまで大きな問題ではない。ズイストに従軍させたルービスからの情報によれば、ズイスト軍の士気は高いという。


 ルービスは若いが、状況判断には優れている。ルービスがそのように報告してきたのならば、まずは様子見だ。


 最後にレグナとランビューレの主力が攻め立てている、ヘインズの砦。スキットのいるボーンウェルと最も距離が近く、より詳細な情報が届くこの戦地では、予想通りライリーンが暴走した。


 今回、スキット達が最も重要視し、攻略の要と目していたのがこのヘインズの砦だ。何故なら、ボーンウェルの大砦相手では、突破に時間がかかりすぎると踏んだためだ。


 今回の戦いで、ドラクがボーンウェルに入るのは容易に想像できた。グリードルからすれば、ボーンウェルの陥落は敗北に等しい。なればこそ、この地を最も手厚くする必要がある。


 同時に、ボーンウェルの守備に兵力を割けば割くほど、他は手薄になる。


 ルガーに任せた東部は元々期待しておらず、ズイストが攻める西側は、帝都まで距離がある。なれば自然とヘインズの砦攻略は、グリードルの防衛線突破の最重要拠点に浮かび上がるのだ。


 それゆえにスキットは、今回の進軍における最大兵力をヘインズ砦の攻略に投入した。


 ボーンウェルでグリードルの軍の多くを縛り付け、ヘインズを突破したらそのまま帝都へ雪崩れ込む。


 無論、このボーンウェルにも相応の兵士を配置している。いくらドラクが焦ったところで、もはや手の打ちようがない。


 本来であれば、スキットもヘインズ砦攻略に参加したいところだ。だが、ライリーンの存在がそれを阻んだ。


 ヘインズ砦はライリーンの実家、メルドー家の旧領と接する場所にあった。当然メルドー家の協力は必要だし、配慮もいる。


 さらに、メルドー家は、いや、ライリーンは今、非常に微妙な立場にある。ここで自身の立ち位置を固めるためにも、自分も参戦すると言い出すことはもはや決定事項であった。


 そのライリーンをランビューレに引き込んだのは、他ならぬスキットら三宰相だ。同じ戦場にスキットがいれば、ライリーンはスキットの威光を笠に着て、必要以上に権力を振り翳そうとするだろう。


 あれはそういう人間で、ランビューレ国内でも度々似たような問題を起こしている。


 国内で暴れる分にはまだいい。だが、戦場においては許されない。と言っても、ライリーンは聞く耳を持たないだろうから、勝手に動いて痛い目を見てもらうのが一番だと判断した。


 その上でスキットもその場にいないとなれば、延々と我儘を言い続ける事はできないだろう。


『あれは、毒虫ぞ』


 かつて、オリヴィアがランビューレ王に向かって放った言葉を思い出し、一人苦笑する。


 言い得て妙だ。


 しかし、予定通りライリーンは失敗した。しばらくは大人しくているであろうし、指揮権を任せたミトワならば、うまくやってくれるだろう。


 それに彼の地にはレグナ軍のサランもいる。ライリーンごとき、サランにかかれば赤子のようなもの。


 実際、サランは初日の軍議でライリーンの進言を真っ向から否定し、椅子を蹴って軍議を出たらしい。


 おそらくは演技だろうとミトワから報告があった。スキットもまず間違いなくそうだと思う。


 サランが本気で怒って軍を引く事はあり得ない。レグナとは、他の2国と違う同盟を結んでいるのだから。


 グリードルとの一戦に片が付いたら、共同でルガーに攻め込むという密約が。


 レグナはグリードル領と領地を接していない。ゆえに、今回の戦いには旨みがない。だが、ランビューレが助力してルガーを滅ぼし、それを丸ごとレグナに譲ればどうか。


 ランビューレとしては長年敵対していたルガーが消え、レグナは領土が倍増する。どちらにも利があるこの話に、レグナは乗った。


 レグナは領土以上に強国だ。その背後にはリフレア神聖国がいる。たとえランビューレといえど、レグナと事を構えたくないのは、レグナ側も理解していた。その自信があるから、密約に応じたのである。


 そのため他の二国とレグナでは、攻略に対する本気度が違う。


 予定通り、ひとまずはあの二人に任せ、こちらはボーンウェルにドラクを縫い付けることに専念で問題なかろう。


 スキットは己の考えをまとめると、ようやく天井から目を離した。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ライリーンという毒虫の作用はいかに? 味方に被害を及ぼすのは有能な敵よりも 無能な味方という感じになっていくのでしょうか。 [気になる点] ふと思うとルガーで太郎に殴られた上官は元気かなあ…
[良い点] >東部はひとまず順調 >西端の戦い。~そこまで大きな問題ではない。 時間差による読者との情報ギャップが愉悦です。読む側は一拠点ごとに腰を据えて読んでいますが、実際には並行して動いてますも…
[一言] スキットが優秀であればあるほど、平原統一の価値が上がるというもの それにしても毒虫呼ばわりされて、使いどころでもあればましなものの、無能ですからねぇ こうはなりたくないものです…
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