【やり直し軍師SS-33】双子、北へ(遊びに)ゆく。⑨
本編が終わろうと、相変わらず双子は作者の予想を超えて動きますねぇ。
女王の命によって、バタバタと一斉に動き出すツァナデフォルの家臣達。
それらを尻目に、双子以下、サザビー、ニーズホック、ランゲット、キリーズは再び地図を睨んだ。
「それで、何処へ向かえば良いのだ?」ランゲットの言葉には反応せず、双子はヒソヒソと2人だけで話しながら、地図を見ている。
困ったランゲットがサザビーを見る。「なんとかしてくれ」と言う幻聴も聞こえた。
しかしサザビーには、ゆっくりと首を振る以外の選択肢はない。良くも悪くも、双子の厄介さを身に染みて分かっているのはロアではない。ボルドラスとサザビー。この2人だ。
今は放置。これが最善。
話し合いの場から人々がいなくなった頃、ようやく双子が口を開いた。
「最近雪狼が目撃された場所より東側の山沿いの集落」
「その中で狩猟の収穫量が増えた所はあるか?」
双子の質問にランゲットがすぐに胸を張って答える。
「分かるぞ。我が国では各町村の収穫量を報告させているからな」
その言葉を聞いたサザビーは、なるほどと思った。元より食料に弱みのある国だ。獲り過ぎたり、逆に足りぬ集落への調整のために情報を集めているのだろうなと理解する。
「ならすぐに知りたい」
「それからもう一つ」
「なんだ?」
当初は喧嘩をふっかけてきたランゲットだが、いつの間にか双子の言葉に耳を傾けることに抵抗を感じていない。それがサザビーには恐ろしく思った。
思えば、ロアの周りに集まってくるのはこんなのばかりだ。良くも悪くも”異質”。
最近はロアの八槍などという言葉が、サザビーの耳にも届くようになった。ロア殿の最側近と目される人物が名を連ねているらしい。
ラピリア=ゾディアック、ウィックハルト=ホグベック、フレイン=デルタ、リュゼル、ディック、そして双子と俺。
そう、俺も。そしてネルフィアの名前はない。ここに、自分とネルフィアの諜報員としての実力差を感じて、少しだけ悔しい気もする。
ちなみにルファを入れて九槍とする話もあるらしいが、当事者達にとっては割とどうでもいい話だ。自分はともかく、俺から見れば他の7人……或いは8人。いずれも押し並べて化け物の類と言える。
ラピリアとウィックハルト、この二人は言うに及ばずだ。
そしてフレインとリュゼル、この2人も将として凡庸ではない。
レイズ様の時代は、若いこともあり第10騎士団の中で比較的目立たぬ存在であったが、とんでもない。どちらも、いずれは騎士団長を担ってもおかしくない実力を持つのではないかと思っている。
そもそも歳若くしてレイズ=シュタインが部隊長に抜擢した人材だ。只者であるはずがないのである。
サザビーの思考が逸れる中、双子とランゲットの会話は続く。
「収穫量が多かった町村が分かったら」
「その近くで洞窟がありそうな場所を教えろ」
「……そこに、密猟者が潜んでいるのか?」
「どうかな? だが、逃げたのは雪狼だけじゃないはずだ」
「守神が逃げた。だから他の動物も逃げた。なのに、雪狼は戻って行った」
「同胞が捕まっているのかもしれない」
「そして、密猟者は雪狼が帰ってくるのを待っている」
「……なぜ、そう思う? 俺なら毛皮を手にいれれば早々に山を降りるが?」ランギースの言葉に双子は笑う。
「雪狼が一度逃げなくてはいけなかった」
「ならそいつらは、雪狼が苦手なものを持って、長期滞在している」
「そしてそいつらの目論見はうまく行った。なら、そいつらは欲を出す。」
「だから雪狼が戻るのを待つ。狼にとって縄張りは大切だ」
「でも山にはまだ雪があった」
「目立たず、暖をとる場所がいる」
「……分かった。すぐに調べさせる」
畳み掛ける双子に、ランゲットが唸った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「しかし、戻ってこねえなぁ。もう逃げちまったんじゃねえか?」
雪狼の生息地にある洞窟に居を構えた密猟者達は、漫然とした時間にうんざりしたように愚痴をこぼす。
「そう言うな。時間が経てばあいつらは戻ってくる。仲間意識の強い雪狼だ。同胞を捨ておけんはずだ」
答えたリーダー格の男は、檻に閉じ込めた3頭の雪狼を檻ごと蹴った。
「ギャン」
雪狼の悲鳴に、男はニヤリと笑う。
「どうせ鳴くなら、もっと大声で鳴けよ。仲間に届くようにな」
そんな様子に、別の密猟者が不安を漏らす。
「なあ、本当にこの香を焚いていれば、雪狼は近づけないのか?」
洞窟内に充満する独特な香り。それは獣が嫌がる香りであった。問われた男は、見下すような視線を向けながら答えた。
「ああ。間違いなくあいつらは近づけねえよ。無理に近づけば目も開けんはずだ。だから怯んだ奴らを一方的に狩れたんだろ」
「……そ、そうか。そうだよな……」
「俺たちは強者、あいつらは弱者。一方的に狩られる存在なのさ」
「そうか」
「なら、お前らも弱者だな」
洞窟に響く聴き慣れぬ声。
それは彼らにとって、人生の終わりを告げるものであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……と、言うことがありましてね」
ここはルデクトラドのロアの部屋。ロアの前には小さな木箱がある。サザビーは木箱を挟んで、事の次第を説明していた。
「へえ。随分と面白いことになっていたんだね。でも、サピア様との友好が深められたのなら良かったよ」
のんびりとそのように言うロアに、サザビーは渋い顔で「こっちは生きた心地がしなかったですけどね!」と抗議する。けれど、ロアは楽しそうに笑ったまま、目の前に置かれた木箱を見た。
「で、これがサピア様から双子への贈り物だ、と」
サザビーと双子は、雪狼の一件の結末を見ずにルデクへと帰ってきた。背後関係の調査に時間が必要だったからだ。
しかしながら双子は帰還時も奔放さを十分に発揮し、あちこちフラフラしながらルデクトラドまで戻ってきたので、帰還の報告とサピア女王からの知らせはほとんど同時にロアの元へとやってきていた。
木箱に入っていたのは、木の実といくつかのウサギの干し肉。それと女王からの手紙。ロアの読み上げた手紙にはこうある。
ーーー過日の件、協力に感謝する。あの後、首謀者と、共謀した商人を捕らえた。首謀者は我が家臣の一人であった。奴らは凶作で失った金を回収しようと企んだようである。いっそまとめて雪狼の餌にしようとも思ったが、雪狼が人の味を覚えるのも宜しくないため、こちらで処分した。ところで、騒動が落ち着いたある日、バーミングの城門あたりで数頭の雪狼が目撃された。兵が急ぎその場に向かうと、木の実と野うさぎが置かれていた。これらは雪狼の礼と判断する。故に妾達が受け取るよりも、ユイゼスト、メイゼストが受け取るべきと考え、干して、送るーーーー
「……だってさ。双子は?」
「さあ? さっきリヴォーテを揶揄いに行くと言ってましたけど」
「……呼んできてもらっても良い? リヴォーテのためにも」
「了解」
今日も、いつもと変わらぬ日常が始まる。




