【やり直し軍師SS-32】双子、北へ(遊びに)ゆく。⑧
SSなのに、着々と長く!?
なんとか次話でまとめます!
「……つまり、お主らは人が雪狼に手を出したから、雪狼が報復に来た。そのように言いたいのかの?」
双子の自由すぎる物言いに、ピリついた空気が包む中、なおも双子は馬上でクルクルと踊る。
「それ以外は考えられない」
「食料が奪われなかったのがその証拠だろ」
サザビーが聞いても少し乱暴な論理ではある。女王が言った通り、単に村の者達に撃退されただけで、食料目当ての可能性だって十分にあるはずだ。
サザビーが素直にそのように口にすると、双子はケラケラと笑う。
「サザビーはお上品だな」
「食料は食糧庫にあるだけじゃないぞ」
「畑のこ……」そこまで言いかけたサザビーは、ある事実に気づく”お上品”? そうか!
「人もまた、肉……」
「そうだ」
「いくつか肉を咥えていってもいいし、この場で貪ることだってできた」
そうか、狼にしてみれば住民も食料か。ならば本当に食べ物を狙ったわけではない?
双子の言葉に気を取られていたサザビーは、女王以下、ツァナデフォルの面々が妙に静かなことに漸く気付く。
全員厳しい表情で双子を見ているが、黙り込んだままだ。
「どうされましたか?」流石に双子の勝手さに怒りすぎて、言葉を失っているのならどうするべきか。
しかし、サザビーから問いかけられた女王はなおも沈黙。
「のんびりしている場合ではないぞ」
「原因を探らないとまた繰り返すぞ」
「……心当たりは、ある」
女王がやっと口を開いた。
「サピア女王、お伺いしても宜しいですか?」
状況を見守っていたニーズホックも、ここに至り流石に口を挟んできた。
「雪狼の白く美しい毛並みは、密かに高値で取引される。だが、雪狼を狩るのは特別な許可が必要だ。当代の王の、な。そして妾は許可しておらぬ」
「つまり、密猟?」
「……かつて、妾より何代か前の話じゃが、欲に目が眩んだ者達が雪狼の毛皮を狩るために山に入った。その者どもは八つ裂きの状態で見つかったが、確かその時、雪狼の群れが人里を襲ったという話があったはずだな、のう、ジュベルノ」
「はい。随分と古い話です。不覚にも私も忘れていた、というよりも、この食糧不足からてっきり雪狼も飢えに耐えかねたのだと思い込んでしまいました」
「恥じるな。妾とて同じよ……しかしまさか……いや……」
女王は2度頭を振ると、眉をきりりと上げる。
「者ども! 一度帰還する! 状況をきちんと精査する必要があるようじゃ! 一部の者はしばし村に滞在し、再襲撃に備えよ!」
「「「「「ははっ!」」」」
素早く段取りを始める部下に目を細めてから、女王は双子やサザビーの方へと視線を戻した。
「……手間をかけてすまぬが、お主らにも付き合ってもらう。特に双子」
「何?」
「なーに?」
「どれだけ無礼を働いてもかまわぬ。思ったことは全て口にせよ」
そのように言い渡す女王の鋭い視線は、まるで獣のようであった。
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王宮の一室に広げられたツァナデフォルの地図。
そこには次々と、雪狼の目撃情報と日付が書き記されてゆく。
「こうして見ると……雪狼は何かから逃げていたようにも見えますね……」
ジュベルノの言葉に、その場にいる者達は次々と「確かに」と同意を示す。サザビーから見ても、確かに徐々に南へと目撃情報が移動していた。
「そして昨日の早い時間に、目撃されたのがルデクとの国境付近……」
ジュベルノが地図に新たに丸をつける。
「国境付近から、再び北へ戻ったのか?」
女王の言う通り、目撃された雪狼が同じ集団であるのなら、南西に逃げ、反転北へ向かい、その途中で村を襲ったと言うことになる。
「ならばこのままさらに北へ行ったのか、それとも東か?」
「北だな」
「ああ、北だ」
双子が断言する。
「なぜ、そのように思う?」
「多分、逃げたのは準備を整えるためだ」
「子狼を安全な場所に移したんじゃないか?」
「つまり、子供を安全な場所に移したから、反転した、と?」
「そうだ。準備ができたから村も襲った」
「ついでだな。報復と警告だ」
「と言うことは……雪狼の向かう先に、密猟者がいるのか」
「だろうな」
「動きに迷いがない」
そこでサザビーがふと気になったことを質問。
「ツァナデフォルは山が多いとはいえ、小さな国土ではないですよ。どうやって迷いなく……」
「そんなことは知らん」
「だが、多分あいつらは分かっているぞ」
双子の言葉を受けて、女王は決断。
「よし、ユイゼスト、メイゼスト、お主らに兵を預ける。お主らの思うままに雪狼を追って見せよ。できるか?」
「できるぞ」
「誰に聞いている」
「うむ。頼む。ランゲット、キリーズ、双子の補助をせよ。それからジュベルノ。密猟者から毛皮を買い取る可能性がある商人や、或いは密猟者と繋がるような者がいないか、急ぎ、洗え。多少強引でもかまわぬ」
「かしこまりました。直ちに」
「他のものは情報収集をしつつ、各街村の警戒を怠らぬように手配せよ。良いな!」
女王の言葉によって、皆が一斉に動き出したのであった。




