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【やり直し軍師SS-316】グリードル46 六ヶ月戦線10


 リヴォーテの司令書は、想像以上の効果を見せた。


 わずかな期間にも関わらず、周辺貴族から提供された私兵は実に、4200名にものぼったのである。


 続々と砦に集まる兵士。それを見つめるリヴォーテの横では、グランディアが驚きを隠せないでいた。


「まさか、これほどの兵を一気に集めるとは……」


「そうですか? これでも少ない方だと思いますが」


 バウンズの子飼いで、陛下に存続を許された貴族は14家。多少の差はあれど、有事の際に自領を守るための兵士はかき集めていると確信していた。


 一つの家あたり200人程度と考えれば、単純に2800。新たにこの地方に配された貴族の私兵も足せば、想定内の数である。


 しかしリヴォーテとしては、5000以上は集められると思っていた。なので少々期待外れだ。


 この後に及んで出し渋っている貴族がいるのか、それとも、このご時世で私兵も集めていない間抜けな貴族がいたか。


 リヴォーテが不満そうにしていたのを、ガフォルが気付いたのだろう、苦笑しながら肩を叩いてくる。


「お前がどれほどの数を見込んでいたかは知らんが、俺達の総兵は12000を超える。お前の考えの通り、こちらから攻めるのも無茶な話ではなくなったぞ」


「そうだな。あまりのんびりしては、ズイストの奴らがやってくる。その前に出陣したい。グランディア殿、諸将を集めていただけますか?」


「分かり申した。すぐに集めよう」


 急ぎ軍議の場に諸将が集う。また、その場には各貴族の名代も参加していた。


 冒頭でグランディアが貴族の名代たちに向かって協力の感謝を述べ、名代達は恭しく礼を返す。


「早速ではあるが、リヴォーテ殿の策を披露していただきたい。兵は集まった。どのように攻めるのか?」


 グランディアに促されて、リヴォーテが前に出た。


 事情を知らない名代から、「攻める?」と、疑問の声が上がる。さらに、リヴォーテのような若造が、説明を始めることに眉を顰める者もいた。


 リヴォーテは俺の認知度もまだまだだなと反省しつつ、現在の状況を踏まえた戦略を伝える。再び、貴族側からどよめきが上がった。


 一通りの説明を終えたリヴォーテは、質問の声が上る前に畳みかける。


「出陣の内訳だが、5000はこの砦に残し、7000の兵で攻め入る。砦に残す守備兵は貴族から協力いただいた私兵。人数に足りぬ分がグリードルの正規軍だ」


 リヴォーテの言葉に、名代達からあからさまにホッとした空気が流れるのが分かる。


 劣勢の中、他領に踏み込んで戦うのだ。どう考えても、攻め手に組み込まれる方が被害は大きい。守備に回された方が安全だろう。


 と、思わせた時点でリヴォーテの勝ちである。心の中で一人ほくそ笑む。


 この砦を守るのが楽なわけがない。ズイストの動き次第では、一番の激戦地になりかねない。


 だから、より危険性を伴うように見える任務を前面に出すことで、名代たちに、砦は安全なように見せかけたのだ。


「砦の守備は、グランディア殿、貴殿に任せたいのですが……」


 グランディアは大きく頷き、自分の胸を叩く。


「無論。もとより、陛下よりこの砦の守備を任されたのは私だ。私が責任を持って守ろう」


 リヴォーテは深く頭を下げる。本音を言えば、砦の守りの方が厳しい状況にある。


 兵数はともかく、5000の兵の大半が寄せ集めだ。相応の指揮官がまとめ上げねば内部から崩壊するだろう。


 グランディアの目からは、全て理解した上で責務を担うという覚悟が見て取れる。さすがはナステルでも名を馳せた人物だ。


 リヴォーテが感心していると、ガフォルが自らを指差しながら、「当然俺はお前の方に参加だな?」と確認してきた。


「ああ。お前の大剣をいやと言うほど振るってもらうつもりだ」


「ならいい。で、どう攻めるのだ? 以前ランビューレに仕掛けたように、迂回してズイスト軍にに奇襲するのか?」


 ガフォルがそのように問うてくるが、奇襲には数が多すぎる。7000の兵士が愚鈍に迂回したところで、早々にズイストに看破されるだけだ。


 リヴォーテは返答の代わりに、地図の一点を、とん、と指差した。


「俺たちが狙うのはここだ。ここを皮切りに、各地を荒らし回る」


「どこだそれは? いや、待て。……もしかしてロスターか?」


「ほう、ガフォルも知っていたか?」


「名前くらいはな」


 要塞都市、ロスター。


 かつてその地を治める領主は、非常に臆病な性格であった。領主は自分の住む地をとにかく強固にしようと、街を要塞化したのが始まりとされる。


 現在はズイスト王家の直轄地となっており、ズイスト南部の主要な守備拠点の一つに数えられていた。


「狙うのはいいが、要塞都市と呼ばれるほどだ。簡単には落とせんのではないか? モタモタしていると挟み撃ちになるぞ」


 ガフォルの疑念は、通常時であれば正論。だが、


「今はロスターの守備兵も、グリードル攻略に割いているはず。そうでなければ、あの国であれほどの兵士の動員は無理だからな。すなわち、俺たちが狙われている今こそが、ロスター攻略の最大の好機なのだ」


 連合に参加している以上、他国からの侵攻の心配はない。という先入観。そこが狙い目。


 無論、エニオスのようにルデクの大鷲がやってくる可能性は否定できない。が、ルデクとて、領地を切り取るでもない進軍を何度も重ねるとは考えにくい。それはズイスト側も考えている事。


 今、ズイスト側は“守る”という意識が極めて薄いのだ。


 軍議の場で熱弁を振るうリヴォーテの策は、無事に通った。


 こうして、リヴォーテを大将とする7000のグリードル軍が、ズイスト領内へ傾れ込むことになったのである。



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― 新着の感想 ―
[良い点] リヴォーテくん、君の名前が大陸中にしれ渡るのももうすぐだよ。誰も十代初めとは思わないだろうけど。 後の世では、十代の鋭見の二つ名より、グルメリポーターで有名になるなんて、この頃のリヴォー…
[一言] 遠征気分で弛んだ守備の穴を突く作戦ですか。 「鋭見」の名が伊達では無いことを存分に見せていただきましょう! …それにしても、10歳、11歳でこの仕上がりですか? コイツも生まれ変わりなんじ…
[一言] この状況はズイフト王が悪政を敷いていて、内応する貴族とかいたら普通に王位簒奪とか狙えそう。
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