【やり直し軍師SS-314】グリードル44 六ヶ月戦線⑧
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それは、突然の事であったらしい。
とっぷりとくれた闇世の中、月明かりと松明を頼りに、ザモスの率いるランビューレの部隊が砦へと攻めかかった。
と言っても、小勢での行動。目的は砦に籠っているグリードル軍を疲弊させる事だ。ヤジを飛ばし、火矢を射かける程度の話である。
それでもグリードル軍は対応しなければならないから、それなりの効果は見込めるはずであった。
異変が起きたのは深夜。突然、背後から大軍がザモスの部隊へと攻めかかったのである。
訳もわからず大混乱に陥ったザモス達。敵兵は適度にランビューレ軍を蹴散らすと、悠々と砦に入っていったという。
「敵は最低でも5000はいたのだ!」
深夜に急遽集められたジャスト達を前にして、ザモスが唾を飛ばして喚き散らす。それはまるで、自分の失態を取り繕うためのようにも見えた。
ジャストはまず、ザモスに落ち着くようにと伝え、お茶を入れて持って来させる。
手渡された茶を一口含んだザモスは、わずかに気持ちを持ち直したのか、ようやく少し静かになった。
「ザモス殿。これから聞くのは、貴殿を疑ってのことではなく、現状を正確に把握するための質問と思ってもらいたいが、良いか?」
「うむ。かまわぬ」
「まず、敵は砦の中からやってきたのではないのか? 例えば、攻め立てている逆の城門から密かに打って出て、貴殿らの背後に回り込んだという可能性は?」
「いや、それはありえぬ。なぜなら、我らは西側の門に陣取っていたが、東にも最低限の見張りは置いてあった。あれほどの大軍が砦から出れば流石に気づく」
ふむ。流石にランビューレで指揮官を任されるだけあって、その程度はきちんと手当てしていたか。ならば、ザモスのいう通り砦内からの出陣ではないのだろう。
「次にもう一つ。数についてだ。この闇夜の中の混戦。5000もの敵兵であったというのは事実か?」
こちらに関しては、ザモスが話を盛っているかもしれないと思った。自分たちが散々に打ち破られたのは、相手が大軍であったからと主張するために。
しかしその疑念も否定される。
「数に関してはあくまで敵兵がそう言った、という話だ。あ奴らが嘘を吐いたのであれば、分からん」
「向こうが? つまりグリードル軍が自己申告したと?」
「正確に言えば、我々にではない。砦の中の兵に対してだ。あやつらは我らが撤退するのを尻目に、砦に向かって『5000の兵をもって救援に来た開門せよ!!』と宣言したのよ。故に5000と申した。また、少なくとも1000や2000ではないとは断言できる。我が麾下の兵も聞いている。疑うなら確認すればよかろう」
なるほど、そういうことか。
「最初に断った通り、貴殿を疑っているわけではない。貴殿の話は十分に理解した。貴重な情報、感謝する」
「うむ」
ザモスが納得したので、次の話だ。ジャストは諸将を見渡しながら考える。
「さて、敵の援軍の言葉を信じるならば、5000もの追加兵が砦に入った。これは少々厄介だ」
正直、グリードルがそれほどまでの援軍を送って来れる余裕があるとは思わなかった。想定外の状況だ。
「砦の規模を考えれば、少なくとも5000から1万弱の兵が元から籠っていたと見て良い。そこに5000の援軍となれば……」
グリードルは野戦に打って出る事もできるようになった。ルガーの国益を考えれば、野戦での激突は一番避けたい。
いっそ、援軍を理由にこのまま遠巻きに様子を見るか。援軍が来たということは、どこかが手薄になった可能性がある。ならば、ここで敵を引きつけているだけでも、十分な援護になるのではないか。
ジャストは改めてザモスを見据える。
「さらなる援軍も考えられる。ザモス殿、ここは砦を囲み、しばし様子を見るべきと判ずるが、如何か?」
ザモスはかなり悩んだようだが、結局ジャストの考えを受け入れた。自軍がやられたことが大きな後押しになったようだ。
この決断により、ルガー軍は砦を囲んだまま沈黙する事になったのである。
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援軍として砦内に入場したのは、大将であるネッツその人。
「どうだ? うまくいったと思うか?」
ネッツがフォルクに問えば、ともに城外にいたフォルクは、手応えを口にする。
「十分に印象づけることはできたはずです」
これはフォルクが立てた策であった。フォルクは砦に入った7000のうち、実に5000の兵を外に隠した。
そうして機を待ち、さも援軍のように入場したのだ。
策を成功させるために、夜間に敵を叩きながら入城する必要があったが、ルガー軍は一向に夜戦を選択しなかったため、ネッツ達も神経をすり減らしながらその時を待っていた。
まさか、一月近くも砦を離れ、潜伏することになるとは思わなかったが。
それを可能にしたのは、グリードル領内であったからだ。各町村が密かに協力してくれたことで、どうにか策はなった。
結果的に、ドラクの善政が成功までの細い道のりを繋いだと言える。
「トレノもご苦労だった」
ネッツが労うと
「なんの」
と気安い返事が返ってくる。しかし、けして楽ではなかっただろう。砦内にはたった2000の兵しかなく、それを指揮し、過不足なく守るのは指揮官の手腕が問われる所だ。
「さて、これで、ルガーが慎重になってくれりゃあいいんだが」
架空の援軍を生み出し、こちらには多くの兵がいると思わせた。ルガーの兵数は2万ほど。兵糧の都合もあるだろう。仕切り直しでも、一度撤退してくれれば良い。
―――時間が勝てば経つほど、急造の連合は綻びが出る―――
ネッツとしてはエンダランド達の予測を信じて、時間を稼ぐだけだ。
かくして、ネッツ達の一か八かの策はルガー軍の動きを封じることに成功する。
こうして東部戦線は、両軍睨み合いのまま、ただ時が流れてゆくことになる。