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【やり直し軍師SS-312】グリードル42 六ヶ月戦線⑥


 ルガー軍がグリードルの砦を攻め始めて、12日が経過。


 砦内を通過する川は7日前に堰き止めた。もはや、内部には一滴の水も流れ込んではいない。


 現在は、各部隊が砦内の兵士の気を引き、その裏でジャストの切り札である石工集団(レブレア)が、地下坑道を掘り進めている最中である。


 坑道が塁壁の下まで到達したら、一部隊を砦内に侵入させる。もしくは掘った穴を利用して、地下から塁壁を崩す。


 どちらを選択しても、自軍の被害は小さく、効率的に敵の守備力を大きく削ぐことができる。そのために時間を使っていた。


 とはいえ地面を掘り進めるのは簡単な話ではない。石工の長の話では、早くて一月はかかるとの事だ。


 軍議の場で石工集団の進捗状況に耳を傾けたのち、ジャストはヴェヴェルに視線を定めた。


「止めた川からの侵入については如何か?」


 ヴェヴェルは腕を組んだまま、肩をすくめる。


「流石に対策しておりましたな。もとより水中に鉄柵がはめ込んであり、こちらが川の堰き止めを進めていると気づくと、敵はご丁寧に鉄板で蓋をしてしまいました。ま、流石にここが弱点になりうることは想定内だったのでしょう」


 報告しながらも悲壮感はない。ジャストもさほど期待していない突破口である。川の堰き止めはむしろ、水を断つことで砦内の飲み水を潰すことができるかの方が主要な目的だ。


 仮に砦内に井戸がなくとも、堰き止められる前にある程度は対策したはず。多少の蓄えはあろう。しかし、あの規模の砦であれば、最低でも5千は籠っている。


 此度の戦いを鑑みれば、グリードルも出し惜しみをしてはおるまい。現実的な所では、守備兵は1万に届かぬ程度か。


 一万の兵士が砦に籠っているとして、新たな流入のない水。どれだけ保てるか。まして水の貯めようによっては、すぐに飲めたものではなくなる。もしも井戸がなければ、そろそろ厳しくなってきていてもおかしくはない。


「城内の動きは探れぬか」


 ジャストの呟きを聞き逃さなかった、副官のテインが素早く応じる。


「少々難しいようです。あやつらは亀のように籠ったまま、出撃する気配もなく。さらに新たに作られた塁壁は、高さだけはございます。夜間であっても侵入するのは困難です」


「そうだな。やはり、レブレア衆が壁を打ち壊すのが最良か」


「ええ。良くも悪くも、グリードルが打って出てこないのであれば、どうあれ掘削作業は滞りなく進むでしょう」


 出撃すればこちらに侵入の隙を与え、かといって門を固く閉ざせば、好き勝手に工作される。援軍のない籠城はかくも厳しい。


 連合軍による4箇所からの大規模な同時侵攻だ。グリードル側に、大規模な援軍を送る余裕がない事は明白。


 連合軍に参加しなかったエニオスあたりがグリードルに助力しない限り、自由に動かせる部隊などいないと見ている。


 そして、エニオスがグリードルに助力するとは考えにくい。


 各国の軍に張り付いたランビューレの部隊より、それを裏付ける情報も届いていた。一応ランビューレの者どもも仕事はしているらしい。


 と、軍議の最中に陣幕の外より声がかかる。


「ザモス殿がおいでです。『まだか』と」


 ジャストをはじめ、諸将がやれやれと息を吐く。ルガーの手の内を見せないことは、出陣前に取り決められている。


 が、ランビューレ側は情報の共有は必要だと、可能な限り軍議に参加を希望していた。


 他の国について行ったランビューレの将はどうか知らぬが、このザモスはランビューレ司令部の命令を忠実に遂行したいようだ。とにかく軍議に参加したがる。


「まあいい。重要な部分はあらかた話し終えたであろう。あの者の相手をしてやろう」


 ここからは極めて無意なひとときが始まることを思い、ジャストは人目もはばからずに嘆息するのであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 グリードル軍の砦を囲み、さらに10日が経過した。


 この間、グリードル軍は大きな動きを見せずにひたすら守りに徹している。


「少なくとも、砦の中には井戸があるのは間違いなさそうだな」


 軍議の場でジャストはそう結論付ける。川を塞ぎ水の流入を止めたが、砦内の異変は感じられない。川は、たまたま砦を建てるに適した場所に流れていたのかもしれない。


「もしかすると、本来の塁壁は川よりも中にあったんかもしれませんな」


 ヴェヴェルが机上の地図を叩きながら言う。


 ルガー軍の攻勢を弾いている塁壁は、明らかに新しいものだ。来るべき戦いに向けて急遽作ったのは間違いない。


 では古い塁壁を壊して、わざわざ作り直したのか。否。壊すための手間や時間、費用を考えれば、古い塁壁の外側に新たにもう一つ作る方が効率が良い。


 つまりヴェヴェルは、新旧の塁壁の間に川が流れているのではないかと指摘したのだ。確かにそれならば理解できる。元々は砦の外を流れていた川を、新しい塁壁工事のために、砦の内側に取り込まなければならなくなったと。


 ヴェヴェルの考えは諸将も納得できるものであった。であれば、元の砦には通常通りの井戸があるのだろう。


 二重の塁壁は厄介だが、こちらには工作部隊がいる。報告では、そろそろ最初の塁壁を地下から越える穴が完成するはずだ。


 まずはそれを待ち、じっくりと攻めれば良い。


 そのように考えていたジャストは、すぐ後に大きく予定変更せざるを得なくなる。


 石工集団より、「掘っていた穴に大量の水が流入! 多くのものが坑道内に取り残されております!」と言う報告が届いたのである。




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― 新着の感想 ―
[一言] ありゃ、川床に当たってしまいましたかね? そんな凡ミスありますかね… 結構な軟弱地盤なのでしょうか… あるいはグリードルからの何か仕掛けがあった? いや、いくら何でも当てずっぽう過ぎる… …
[一言] 川をせき止めて乾き攻めをしようとしたら水攻めされてますがな。
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