【やり直し軍師SS-31】双子、北へ(遊びに)ゆく。⑦
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話の切り的に本日少し短めです。
「なんと、お姫様自らお越しいただけるとは……!!」
女王に跪き喜びを露わにする老人。それを見たサザビーは、村のまとめ役だと判断する。
「我が民達の苦境じゃ。妾が出ずに何とするか」
「ありがたきお言葉……」
「それで、早速じゃが、雪狼どもはどこじゃ?」
問われた老人は北を見ながら、「それが……しばらく村の近くにおりましたが、お姫様がおいでになる直前に風のように去ってしまいました」と困惑の表情を見せた。
「……ふむ。獣といえどあやつらは賢い。こちらの気配を察して退いたかの。それで、被害は?」
「はい。大きな怪我を負った者が5名ほど……幸い、死人は出ておりませぬ」
老人の話によれば、雪狼は昨日昼頃、突然集団で村に雪崩れ込んできたという。追い払おうとした若い衆が13名、怪我を負った以外に、農具が壊されたり畑が荒らされたりした。
群れが邑の近くを離れなかったため、連絡が遅れたと言う。
「……状況は分かった。怪我の程度が重い者達は都で治療をする。ジュベルノ、準備を」
指名されたジュベルノは「既に手配済みです」と返答。
「流石よの。それで畑を荒らしたということだが、食糧庫は?」
「幸い若い者達の奮闘で無事でございます」
「うむ。見事である。怪我をした者達を、賞賛する」
「は、ありがとうございます……」
老人との会話を終えた女王は、引き連れてきた兵達へ視線を移した。
「雪狼どもはまだ近くに潜んでおるやも知れぬ。我々は周辺を哨戒し、雪狼を発見した場合はそれを速やかに討伐する。良いな!」
凛々しい発言に異を唱えたのは双子。
「女王、それは良くない」
「雪狼と禍根を残すぞ」
双子の言葉に女王は不快感を示し、将官は敵意を込めた視線を向ける。その場は瞬く間に緊張に包まれた。
双子を除いて。
双子はいたって平常通りだ。
「雪狼は賢いのだろう」
「女王はそう言っただろう?」
「ああ、そのように申したの」
「狼は鼻が良いんだ」
「狼は目も良いんだ」
「だからどうした。どれだけ優れていようと、我が子らの勇敢さが上回っただけであろう」
「違うぞ?」
「雪狼はその気になれば、食糧を狙えたはずだ」
「無理ぞ」
「無理じゃない」
「無理じゃない」
「……何が言いたい?」
「どうして雪狼は昼に現れた?」
「明るい時間に現れた?」
「「夜、襲えばいいのに」」
双子の言葉に、サザビーも、その場にいた全員が虚をつかれた顔をする。その中で女王だけは表情を変えずに問答を続ける。
「偶々、時間が昼だっただけであろう?」
「それは矛盾する」
「雪狼は賢いのだろう?」
「所詮は獣よ」
「本気でそう言っているのか?」
「人が獣よりも賢いとでも思っているのか?」
「……一体、何が言いたいのじゃ?」
「分からないのか?」
「まだまだだな」
流石にこの言葉に我慢ならなかったランゲットが「おい! 無礼であろう!!」と噛みつこうとしたが、女王が制する。
「もう一度聞く。何が言いたい? 返答によっては切り捨てるぞ?」
サザビーは密かにニーズホックを見た。ニーズホックは小さく首を振る。この期に及んでは状況を見守るしかない。
この緊迫した状況の中で驚くべきことに、双子は馬を闊歩させながら踊り始めた。
「雪狼は賢い。鼻も効く、狼なら夜目も効く」
「でも食糧を襲わなかった」
「雪狼は昼に来た」
「どうして目立つ時間にやってきた?」
「雪狼は人を襲った」
「守り神が人を襲った」
「どうして山の守り神が人を襲った?」
「山に厄災を振り撒いたからだ」
「だから雪狼は人を襲った」
「これは”報復”と”警告”だ」
歌いながら踊りつつ、双子の視線は女王をしっかりと捉える。
そして、揃って呟いた。
「「多分、喧嘩を売ったのは”人”の方だぞ」」と。




