【やり直し軍師SS-306】開催! 競い馬大会⑥
今回の更新はここまで!
次回は7月7日の七夕を予定しております!
「始まった!」
ルファとルルリアが同時に叫ぶ!
女王サピア様とユイメイの決戦の場、最終レースがスタートした。大きな出遅れや暴走もない綺麗な滑り出しだ。
最後のレースは今までで一番長い距離を走らなければならず、馬の体力を温存したい。そのためより好位置でレースをするのが重要となる。
先行集団に入ったのはユイゼスト。他の馬を風除けにしているのか、姿勢を低くしながら3〜4番手を走っていた。
サピア様はそれより少し後方。中団で戦況を窺っているように見える。メイゼストはそんなサピア様のすぐ斜め後ろにピッタリと張り付いていた。サピア様を監視するような位置取りだ。
少しすると、俄にサピア様が動いた。馬を外に出して前を窺う。
前方にいたユイゼストが、すぐさまサピア様の動きに合わせて外側へ馬を振り、サピア様の行手を阻むような位置につけた。
ユイゼストの反応を確認したサピア様は、無理に前に出ることなく、すすっと元いた場所へ。すると今度は、メイゼストがサピア様の横に並ぶように少し前へ出て、サピア様に蓋をする。
メイゼストの封じ込めに対して、速度を緩め、メイゼストの後方へ回り込むサピア様。先ほどとは逆に、サピア様がメイゼストを睨むような位置関係に変わった。
サピア様が背後にいるのを嫌がったのか、メイゼストはやおら加速を始めるも、先ほどのサピア様と同じように、ユイゼストのブロックに阻まれる。
しかしメイゼストは強引にユイゼストを外側からかわして、先頭を窺ってゆく。
メイゼストがそれ以上無理に追わずに、元いた位置に戻ると、一瞬の隙をついて、サピア様がメイゼストの真横に。
素人の僕でも分かるくらい、刻一刻と目まぐるしく状況が変化してゆく。手に汗握る展開というやつだろう。
これには比較的穏やかに観戦していたゼウラシア王やシーベルト王も、前に出てきて声を上げるほど。
そうしていよいよ勝負は最後の直線へ。
最初に仕掛けたのはユイゼスト。すぐにメイゼスト、サピア様も反応し、3頭が横並びに。
そんな中ダービー卿が「いまだ!」と叫ぶ!
そして、勝利を手にしたのは……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「それでは、競い馬大会の結果を発表する!」
ゼランド王子がそのように宣言する後ろには、今回の各レースの勝者が誇らしげに並んでいた。その中にはフレインやホックさんの姿もある。
「国別団体戦の優勝は……ゴルベル王国代表である!!」
ゼランド王子の発表を受け、ある一角より、一際大きな声が上がった。ゴルベルの関係者が集まっている場所なのだろう。
「そして最優秀騎手の栄誉に輝いたのは、最終レースで見事に勝利を収めた、ゴルベルのシュナイターとする!!」
万雷の拍手の中、ゆっくりとゼランド王子の前に出てくるシュナイター。
本当に、一瞬の出来事だった。最後のレースはもはや双子と女王の三つ巴と誰もが思った瞬間、電光石火の如く凄まじい速度で3頭を一気に抜き去ったその人こそ、シュナイターだったのである。
ダービー卿曰く、
「ルデクのお二人、サピア様ともに相当な手だれでございましたが、道中、互いに競り合いすぎましたな。その分最後の直線で、ほんのわずかに馬の勢いが落ちました」と総括。
確かにダービー卿のいう通り、レース中3人はずっと駆け引きを繰り返していた。
他にも代表はいたのだから、自分たちしか見ていなかった双子と女王の落ち度だろう。端的に言えば他を舐めた結果、足元を掬われたのである。
3人ともそれはよく分かっているのだ。レース後は言葉少なに、本当に悔しそうにしていた。負けず嫌いの塊みたいな3人だからなぁ。
けれど、それを差し引いても、シュナイターという人の騎乗は見事だったように思う。僕は率直にダービー卿に感想を伝える。
「ええ。彼は我が国の競い馬において、“最強”の名を恣にしている人物ですから」
なるほど、シュナイターもまた、ゴルベルの意地を背負ってこの場にいたのか。
ともあれ、今後、ルデクの競技場では、『シュナイター』の名を冠したレースが行われる事となる。
というか、サピア女王が、「次の大会は我が国で行うぞ。最終レースの名は『シュナイター記念』とする」と宣言していたので、この大会の最終レースの呼び名として定着しそうな気もする。
こうして競い馬大会はどうにかこうにか無事に終わった。
まあ、帰国の日が来るまでシュナイターは大変だったけれど。
双子と女王に再戦しろと追われ続けるし、それを面白がった皇帝が、本気か冗談かシュナイターを引き抜こうとして本人を困惑させたり、皆やりたい放題である。
事態が多少収束したのは、後からやってきた皇帝の第一妃がやって来た頃だ。
第一妃は「こんな事だろうと思った」と言って、はしゃぎ過ぎた皇帝を連れてゆく。
後でツェツィーに聞いたところによると、結構しっかりと怒られたらしい。
同じ頃にはこちらも調子に乗りすぎた双子がホックさんに怒られて、めちゃくちゃこめかみをぐりぐりされて本気で涙を浮かべていた。
そんな風に何かと混沌とした時間を過ごしつつも、四カ国の会談はつつがなく完了したのであった。