【やり直し軍師SS-304】開催! 競い馬大会④
競い馬大会の記念すべき最初の競技は、芝コースの短距離。コースを3周して一番にゴールした馬の勝ち。ちなみに中距離は5周、長距離は8周する。
砂コースの方は短距離が2周、中距離が4周と芝よりも一周少ない。代わりに砂を積み上げた坂がいくつか用意されて、起伏に富んだコースになっていた。
芝コース短距離の、ルデク代表はフレイン。ルデクトラドでも人気の高いフレインの登場に、会場は早くも大きな盛り上がりを見せている。
出場選手たちに激励し、送り出した僕らは、観戦場所となる主賓席に移動した。
主賓席は会場の中央に設られた舞台で、高台からコースをぐるりと見渡せる特等席。甘味の祭典より、さらにしっかりとした造りの建物に進化している。
「おお、これは素晴らしいですな」
僕らと一緒に戻ってきたダービー卿が、観覧席を見回しながら感嘆の声を上げた。
それからゴルベル王シーベルトに向かって、「これは是非我が国の競技場にも採用したいですぞ」と目を輝かせる。
その隣で舞台のヘリから身を乗り出して、「フレイン勝つかな!」と跳ねているのはルファ。
ゼランド王子が「危ないぞ」と言いながら、隣に並んでスタートラインを眺めていた。
そんなルファの後ろ姿を見て、ふと、ゾディアの歌を初めて聞いた時の事を思い出す。
あの時も、こんなふうにルファが身を乗り出していたなぁ。もはや、少し懐かしい。
そうだ、ゾディアにこの舞台で歌を歌ってもらったら凄いだろうな。王都の市民も喜ぶかもしれない。今度ゾディアに会ったら提案してみようか。
「ロア、また、なにか余計なこと考えてない? そろそろ始まるわよ」
僕の隣にいたラピリアに注意されて我にかえれば、すでに各馬スタートラインに立ち、その時を今か今かと待っているところだ。
「ごめんごめん、ゾディアがこの舞台で歌ったら素敵だろうなって考えてた」
「ゾディアが? それは凄く良いかも。でも今はフレインの応援に集中しましょ」
「そうだね」
スタートラインに立った審判がゆっくりと手を上げた。スタート部分には跳ね上げ式の柵が用意されており、開始の合図がないと馬たちが飛び出すことができないようになっている。
人々の歓声に反応し、少し落ち着かない馬もいる中、落ち着いてしっかりと飛び出すことができるかは、馬上の者達の腕にかかってきている。
中には馬の性格を鑑みてか、他の馬よりも少し後方に位置をとり、タイミングを見計らっている騎手の姿もあった。
手を上げたまましばし動かぬ審判。観客もその様子を固唾を飲んで見守り始め、歓声は小さくなってゆく。
それを見計らったかのように、「始め!!」の声が響き、柵が取り払われた!
一気に飛び出したのはフレインだ。元々フレインは瞬発力のある馬を好んでいる。
グリエンの引退にともない、新たな相棒となっているグリットも素早い反応を見せて、他馬よりも頭一つ早く加速してゆく。
ルファやルルリアの無邪気な歓声が響く中、それにも負けない声をあげているのは、ダービー卿と皇帝、ドラク。
「いけー!! ベッカー!!」
「そこだ!! ラヴォルト!!」
それぞれの代表選手に声援をあげ、一度互いに視線を合わせると、「ぐぬぬ」と言い合って再び応援を始める。
仲が良さそうで何よりである。
快調に先頭を走るフレインとグリット。最初のコーナーも膨らむことなく順調に切り抜けて、徐々に後方との差を引き離そうとする。
そんな中で、フレインに食らいついているのは、帝国の代表、ベッカーさんだ。逆にゴルベルのラヴォルトさんは無理をせずに隙を探っている様に見える。
ツァナデフォルの代表は、ずっと後方から状況を窺ってた。この人はスタートでも一人少し後ろで馬を落ち着かせていたので、最初からそういう戦略なのだろう。
それぞれ、馬の特性や、駆け引きがあって面白い。
そうこうしているうちに、勝負は早くも3周目に差し掛かる。最後の一周だ。
観客からの歓声にもより熱が籠る。主賓席の人々も思わず大きな声をあげながら、それぞれの国の代表を応援。
ついに最後の直線。ここで、ずっと後方にいたはずのツァナデフォルの騎手が、するすると抜け出してくると、一気に先頭のフレインに襲いかかってきた!
逃げるフレイン、追うツァナデフォル。勝敗はこの2人に絞られる。
最後の最後、2人の馬は並んだように見えた。
その瞬間、ほんのわずかにフレインの馬がもうひとのび! ゴールを告げる旗が振られて、
「勝者! ルデク代表!!」
の宣言とともに、観客の喜びが爆発! ビリビリと震えるような声の波が僕らの元にまで届いて、僕は思わず身震いする。
熱狂の中、何度か愛馬の首筋を叩き、それから観客の声援に応えるように手をあげるフレイン。
こうして記念すべき最初の競技は、フレイン=デルタが見事にその歴史に名前を刻んだのであった。