【やり直し軍師SS-303】開催! 競い馬大会③
「よしよし、今日も良い毛並みだ。スタンリー2世」
朝から愛馬の手入れに余念がないリュゼル。その向こうでは、フレインも同じように愛馬に声をかけているのが見える。
ちなみに初代スタンリーは年齢により引退。今はハウワースの牧場で、悠々自適の余生を送っている。
どんな馬でも、軍馬としての活躍期間はそこまで長くない。まして、一軍を率いる将の馬なら尚更だ。フレインのお手馬であったグリエンも、2年ほど前に鞍を下ろした。
僕はといえば、相も変わらずアロウに乗っている。アロウはまだまだ元気だし。僕にはアロウ位のんびりした馬でちょうど良いのだ。
余談だけど、双子は少し変わっていて、特定のお手馬を持たない。その時々において、自分と相性の良さそうな馬を選んで乗っている。
以前不思議に思って理由を聞いてみたら、
「鎧が重いから、いつも乗るのは可哀想だ」
「できれば怪我はさせたくない」
と言う。確かに双子はルデクでも珍しい重装騎兵なので、相応に鎧も重い。
そのため、特定の馬に乗り続けると、どうしても馬への負担が大きくなる。それを避けるためなのだと。なるほどと思った。
ともかく、今回の競技は個人戦であると同時に、国別対抗の団体戦でもある。
参加人数の5人に対して、競技数は5種目。それぞれ、芝コースの短距離、中距離、長距離の3種目と、砂コースで、短距離と中距離だ。
距離はゴルベルのダービー卿が制定したものを採用。僕はあまり詳しくないけれど、馬の性格や特性、乗り方によって向き不向きがあるらしい。
ルデクの代表者は、芝コースの短距離はフレイン、中距離はホックさん、長距離はユイゼスト。砂コースの短距離はメイゼスト、残る砂コースの中距離がリュゼルとなっている。
着順によって得点がつき、合計点で競う仕組み。
また、得点にはならないけれど、各レースには代表者以外に、6名の騎手が参加することになった。
当初は4人での勝負を決める予定だったのだけど、ルールを聞いたダービー卿から待ったがかかったのだ。
曰く、『多くの馬の中で決着をつける方が、より駆け引きの差が出る』と。また、『4頭では観客の賭けが成立せず、儲けがない』と添えて。
ダービー卿の『儲かる』の一言に、ゼウラシア王が食いついた。僕らの国の王様は、この辺りに抜け目がない。
と言うわけで、前夜祭に参加した者たちの中から成績上位者を中心に、各国の人員がなるべく均等になるように参加者を選定。
この日のために、どの国も相応の人数がやってきていたので、組み合わせはそれほど大変ではなかった。
すでに競技場内は満員。最初の競技の掛札の販売も終え、多くの人々が開始の時間を今か今かと待ちかねている。
「ロア様」
背後から僕に声をかけてきたのはスメディア。スメディアは今回の来訪においても、折りを見ては僕へのアピールを忘れない。未だに仕官を諦めていないのだ。
だけど残念。僕はこれ以上側近を増やすつもりはない。
諸々の事情を知っているツェツィーやルルリアが上手くとりなしてくれていたけれど、それでもスメディアは挫けない。その根性は凄い。
僕がスメディアを適当にあしらっている視線の先では、双子とサピア様がばちばちとやり合っていた。
といってもつかみ合っているわけでもなく、口喧嘩なので放置。流石にお互い本気ではないだろうし。
さらにその先、馬房の影からこちらを見ている人物が視界に入った。本人はうまく隠れているつもりだろうが、よくも悪くも圧倒的な存在感が滲み出ている。
グリードル帝国皇帝、ドラク=デラッサその人である。
これはあれだな。スメディアの対応に僕が苦慮しているのを見て楽しんでいるな。あの人、僕が困る顔を見るためだけに、スメディアを連れてきたんじゃないだろうか?
そんな皇帝の後ろではリヴォーテが同じようにこちらを窺っている。リヴォーテの方は僕どうこうよりも、皇帝のそばにいるだけなのだろう。
皇帝にはどこかで必ず仕返しをするとして、なんとも混沌とした空間の中、「盛り上がっておりますな」とやってきたのはダービー卿だ。ゴルベル王やシャンダルも一緒。
ピンとさせた自らの髭を撫でながら、「ふむふむ」「これはこれは」などと言いながら、丁寧に出場を待つ馬たちを眺め始めたダービー卿。
薄々思って居たけれど、この場にいる人達、自由すぎる。
ダービー卿の登場が呼び水になったのか、出場予定の面々が続々とやってきた。それぞれ気合の入った表情をしている。
人々の熱気にあてられ、スタンリー2世が「ヒヒーン!!」と大きく鳴き、他の馬も呼応するように足を鳴らし始める。
そしてついに時は来た。
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「では、競技を始める!!」
主賓席から観客に向け宣言するのは、ゼウラシア王ではなく、ゼランド王子だ。
ルデクの競い馬競技場建築は、建前上、ゼランド王子が中心となっている。そのためゼランド王子が仕切り役を担うことになったのである。
ゼランド王子の声に反応して、会場から大きな歓声が上がった。
こうして史上初の四カ国対抗戦となる、競い馬大会が幕を上げたのだ。




