【やり直し軍師SS-302】開催! 競い馬大会②
「いよいよだな」
諸々の調整に追われながら、どうにかこうにか競い馬大会3日前までこぎつけた僕ら。
僕もラピリアも、ウィックハルトもレニーもぐったりしている中、非常に元気な人達が2人。
双子ではない。フレインとリュゼルだ。2人もそれなりに事務処理に忙殺されていたはずなのだけど、不思議と日を追うごとに元気になってゆく。
「いよいよだな」
フレインが同じことをもう一度言う。リュゼルが「ああ」と短く答える。
すでに今日だけで3回くらい似たようなやり取りをしている。というか、ここ数日何度も見たシーンだ。もはや呆れるを通り越して、見飽きた。
同じく元気いっぱいな双子は、ここの所あまり執務室には顔を出していない。正確には事務処理の邪魔になるので、外で遊んでなさいと伝えたのだ。
双子自身も事務処理は向いていないことはよくわかっている上、今回は競い馬のための手続きということで、割と素直に大人しくしていた。
なお、7日前にホックさんがやってきたので、今はそちらに預けている。
最近自由に磨きがかかりすぎているので、ホックさんにちょっと鍛え直してくださいとお願いした。なので今頃は、楽しく騎乗訓練をしているはず。
今回の競い馬、僕らルデクの代表として出場するのはユイメイとホックさん。そしてフレインとリュゼル。
他にも希望者はいたけれど、当事者のユイメイは確定だし、ホックさんはルデク一の騎乗技術の持ち主。
残る2枠には、競技場の創設者としての強権を発動し、フレインとリュゼルが半ば強引に収まった。
もちろん、2人の騎乗技術もルデク指折りなので、大きな不満は出ていない。
また、出場を希望した他の人たちは、前夜祭でその腕前を披露してもらうつもりでいる。多分、ルデク以外にも代表から漏れた腕自慢がいるはずだからね。
同盟国会議は競い馬が終わった翌日と決まった。僕としては先に済ませてしまいたかったのだけど、女王や皇帝は気もそぞろで話し合いにならないだろう。
ともかく、フレインとリュゼル以外はぐったりしている部屋の扉がノックされる。
「みんな、お疲れ様!」
これまた元気にやってきたのはルファである。
そしてさらに、
「あら、なんだか疲れた顔しているわね! せっかくのお祭りでしょ? 楽しまないと!」
と続いて騒がしく入ってきたのはルルリア。
どうやらグリードルの一団が到着したようだ。ルルリアの後ろからはツェツィーも顔を出し、「お疲れのところすみません」と申し訳なさそうにしている。
ツェツィーとルルリアと会うのも、少し久しぶりである。すぐにお茶の用意をすると、互いの近況報告に花を咲かせる。
「ところで、グリードルの代表って誰がするの? まさかドラク陛下が?」
「いえ。流石に父上は参加しないですよ。歳も歳ですし。父上は騒ぎの中心にいることができればそれで満足するので」
それはなかなか厄介な性だねぇ。
ツェツィーから聞いた帝国の代表の中に、一人よく知る名前が混ざっていた。スメディア、大陸十弓の一人である。
そういえばスメディアは元々、騎乗しての弓が巧みだったっけ。
「そうなんですよ。今回ルデクに出向くにあたって、並々ならぬ気合いで代表のひと枠を勝ち取りました」
「へえ〜」
正直少し苦手な相手なので、個人的にはあまり関わりたくないけど、その努力は認めたい。重ねて言うけれど、あまり関わりたくはない。
まあ、何かあったら双子に任せよう。スメディア相手なら特に止める必要もないし。
「あ、そういえば、競い馬の勝者には何か賞品があるのですか?」
不意にツェツィーが話題を変える。
「あれ? ツェツィーは聞いてないの? 一応先に知らせたけれど」
「聞いてないです。多分、父上が内緒にしているのかと」
「隠すほどのものでもないんだけどなぁ。最初は名馬を送るなんて案もあったのだけどね、ほら、みんなお手馬がいるから……」
フレインとリュゼルを引き合いに出すまでもない。彼らの乗り心地に関するこだわりは、僕ら凡人の想像の埒外だ。
かといって賞金というのも微妙。参加者の一人は女王である。これじゃない感が強い。
フレインとリュゼルの後押しもあり、最終的に落ち着いたのが、『競技場に名を刻む』という栄誉である。
これは単に名前が石碑に刻まれるだけではなく、優勝者の名前を冠した大会が、今後永続的に行われるのだという。
僕はそんなもので良いのかと思ったけれど、ホックさんも気に入っていたのでこれで問題ないらしい。
「ね、ところで屋台は出るの? お菓子の」
ルルリアは完全に競い馬よりも別の目的でやってきている。ルルリアの質問にはルファが答える。
「出店、いっぱいでるよ! 楽しみだよね! ラピリアも一緒に楽しもうね!」
「ええ。そうね」
まあ、楽しそうでなによりだ。
こうしていよいよ、競い馬当日を迎えるのであった。