【やり直し軍師SS-301】開催! 競い馬大会①
ツァナデフォルの女王、サピア様から僕宛に手紙が来た。
「競い馬大会をやれ」
という。
“しないか?”でも、“してほしい”でもなく、“やれ”だ。
いくら女王様とはいえ、他国の要人に対する手紙としては乱暴に過ぎるけれど、これには少々込み入った経緯がある。
元々、サピア様と手紙をやり取りしていたのは僕ではなく、ユイメイの双子なのだ。
双子が手紙、というのがそもそも珍しい話なのだけど、まあ、サピア様とは仲が良いので放っておいた。
ところが、どのような経緯でそうなったのか、手紙の中で『どちらが騎乗技術が優れているか』という話題になり、『私たちの方が上手い』『馬鹿を抜かせ、妾の方が上だ』という言い合い……この場合は書き合いか。ともかくしょうもない争いになったらしい。
人を煽ることにかけては一級品の技術を持つ双子と、戦闘民族の筆頭たる女王である。『ならば実際に戦って白黒つけよう』という結論に達するまでに、さしたる時間はかからなかった。
加えてサピア様は、新しい競い馬の競技場に興味も持っており、それらの総合的判断の元、僕へと件の手紙が届いたという経緯である。
今となっては、どちらが言い争いのきっかけを作ったのかは分からない。
けれど、どうあれ双子がサピア様を煽ったのは間違いないので、監督責任のある僕としては、非常に断りづらい状況となっていた。
手紙を置いて、小さくため息を吐いた僕。そんな様子を見た双子が、
「あんまり思い詰めるなよ」
「苦労が滲み出ているぞ」
などという。
その言葉で僕は、大会開催にあたり、ホックさんも呼び寄せることを決める。意地でも段取りを整えて来てもらおう。
「けれど、競い馬大会かぁ」
来るかどうかはともかく、こういうお祭り騒ぎは声をかけないとうるさい人物が、東の方にいる。
お菓子の祭典のあとは手紙で散々恨み言を言われたし。流石に放置はできないか。
そうするとゴルベルにも声をかけた方が良いな。何せ競技場の建設には、ダービー卿をはじめ、ゴルベルの多くの人に協力してもらっている。
となると、随分と大掛かりな話になってきた。
うーん。それならいっそ、同盟国会議、みたいにしてしまおうか。
しばらく四つの国が一堂に集うこともなかった。ここらで一度、何か齟齬が生じていないか確認するのも良いかもしれない。
競い馬はその余興として行ったらどうだろう。それなら、各国集まりやすいだろうし。
というか、文字通りどこかで手綱を握っておかないと、競い馬だけでは物凄い混沌を呼びそうな予感がする。
「ロア、あんたまた何か余計な事を考えていないかしら?」
僕の表情を見てすぐに察してくるラピリア。
「いやいや、余計なことじゃなくて、丸く収める方法を考えているんだって」
「どうせ、皇帝も呼ばないといけないし。それならいっそ大掛かりな会議でも開催しちゃおうか、とか考えてない?」
……奥様、僕の心を読みました?
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「サピア様。ロア殿より競い馬開催の知らせが届きました」
「来たか! 心待ちにしていたぞ!」
ジュベルノから手紙を受け取ったサピアは、ふむふむと目を通してうんうんと一人頷く。
「ロア殿はどのように?」
「帝国やゴルベルにも声をかけるようだ。ついでに会議を執り行いたいと。競い馬に関しては、各国5名の代表を選出せよとの事だな」
「なるほど。友好国会議ですか。ただでは転ばぬ御仁ですね」
「まあ確かに良い機会であろう。すぐに準備せよ」
「承りました」
ジュベルノが退出すると、サピアは愉しそうに両の拳を重ねるのだった。
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「競い馬大会だとぉ! 出るに決まってるじゃねえか!」
知らせを聞いて即断したドラクに対して、サリーシャがこほんと咳払いする。
「いや、ほら、今回は首長会議が主眼だから。な、仕事だから」
早口で言い訳をするドラク。そんな様子を見てくすりと笑ったサリーシャは、「仕方がないわね、行ってらっしゃい」と許可を出す。
「ようし! おい! ネッツ、ちょっとウチで騎乗の上手いやつ集めろや!」
と、皇帝陛下は元気いっぱいに宣言した。
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ゴルベル王、シーベルトはロアからの手紙に目を通すと、「誰か、ダービー卿を呼んでくれ」と配下に命じる。
一刻後、シーベルトの前にやってきたダービー卿に対し、
「競い馬は今や我が国の貴重な収入源の一つだ。今後のことを考えるとあまり無様な姿は見せられん。手練れを揃えてほしい」と命じる。
ダービー卿はぴょこんと跳ねた口髭をピンと撫でながら、「お任せください」と胸を張るのであった。