【やり直し軍師SS-299】グリードル38 六ヶ月戦線②
今回のグリードル編はここまで!
明日はSS300話記念です!
グリードルと連合軍の開戦の少し前。
第3妃レツウィーの実家である、シティバーグ家の面々が帝都にやって来た。祖国エニオスの所領を捨てての、一族の命運を賭けた選択である。
出迎えたドラクの前に膝をつくは、シティバーグ家の当主、ラガスター=シティバーグ。
おそらく毎朝整えているのだろう。丁寧に切り揃えられた髭と髪に、その性格が現れているように感じた。
無難な挨拶を終えると、ドラクの方からラガスターへ声をかける。
「まずはこのような決断をさせたこと、謝罪する。シティバーグ家の領地は用意している。安心して欲しい」
ドラクが謝ったのは、グリードルがエニオスに兵を出すことができなかった件だ。
レツウィーがドラクの元へ避難してきた後、ドラクとしてもなんとかシティバーグ家の支援をしようと試みた。
だがナステル攻略及び、待ち受けているであろうランビューレとの戦いへの対策に手一杯であり、効果的な手を打てないままずるずるときてしまっていたのだ。
無論この間も両者は、綿密に連絡を取り合っており、エニオスの状況も、グリードルの状況も互いによく分かっている。
エニオス王はレツウィーのいなくなったシティバーグ家には興味を失い、ルデクの侵攻に対する防衛に注力していたようだ。
しかし自らの妻にするために、その実家に兵を差し向けるような王である。いつ、どのように気が変わるか分からない。
加えて、レツウィーの懐妊が判明したことで、ラガスターはついに決断する。
かつてレツウィーが『王にも平気で文句を言う』と言っていたように、そうと決めたら躊躇しない人物だった。
領地に大半の資産を残したまま、先祖代々の土地を捨ててくるなど、そう簡単にできることではない。
ドラクの謝罪に対して、ラガスターが顔を上げた。
「お気になさるな。事情は十分に承知しております。むしろ、領土を捨てた、存在価値のない我らを受け入れ、尚且つ新たな土地を与える気前の良さ、どこぞの王にも格の違いを見せてやりたいものでございます」
「そう言ってもらえると助かる。では、早速……」
ドラクが新たな領地を伝えようとすると、「お待ちくだされ」と、ラガスターは言葉を押し留めた。
「陛下はこれより大きな戦いに臨む所でございましょう。微力ながら我らもお手伝いをさせていただきたく、お願い申し上げる」
その様に言いながら、目をぎらつかせるラガスター。
「気持ちはありがたいが……」
流石のドラクであっても、義父を戦場で連れ回すのは気が引ける。それにレツウィーは妊娠中だ。義父に何かあっては顔向できない。
「ご安心召され。このラガスター。これでもルデクへの出兵に度々参加しております。用兵には些か自信がございますゆえ」
こうと決めたら躊躇しない義父と、それを押し留めたいドラクの間でしばし駆け引きが続く。
落としどころを見つけたのは、2人の話を眺めていたバッファードであった。
「此度の戦い。帝都がどうしても手薄となります。一応私が取りまとめを任されておりますが、恥ずかしながら指揮官としては二流も良いところ。陛下、ラガスター様さえ良ければ、この帝都の守りにご助力いただければありがたいのですが」
バッファードの言う通り。主だった将兵は各地の重要拠点に配置する。そのため帝都の指揮は、内政や外交に手腕を発揮しているバッファードが請け負うことになっていた。
なお3人の妃は旧ウルテア王都へ避難済み。もしも帝都を守れぬほどの敵が現れた場合、打ち捨てて構わないという覚悟での差配。
バッファードは己を二流指揮官と言ったが、武将のような無駄な意地がなく、機を見るに敏な人物だ。危険と見たら、無理することなく兵を纏めて退くだろうという理由で抜擢された。
さらに言えば、最悪撤退となった場合は、時間稼ぎのために帝都を燃やすことも選択肢に入れてある。
しかしこれは本当に最後の手段。バッファードならば、その判断を誤らないとドラクは踏んだ。
ただし、現時点では帝都が危機に陥るほど状況は考えにくい。
帝都を囲むほどとなれば、相当数の兵士がいる。それほどの敵兵が帝都に到着するには、ドラク達が守る拠点のいずれかを突破しなければならない。
ドラク達の裏を掻き、拠点を無視して帝都を急襲する策もあるが、それは愚策の類だ。流石にスキットが採用しない。相手が愚将ではないからこそ、ある意味で信用できた。
ともかくラガスターは、バッファードの提案を受け入れて。帝都の守備に助力することと決まる。
話がまとまったところで、書記官が持ってきた配属先一覧に、ラガスターの名を書き加えたのであった。
一覧には他に、このように記されている。
ボーンウェル大砦
兵15000
大将:ドラク
参謀:エンダランド
副将:アイン
メルドー領国境線
兵10000
大将:ジベリアーノ
副将:ルアープ
副将:ヴェルガー
ズイスト国境線(ポルシアの砦)
兵8000
大将:グランディア
副将兼遊軍:リヴォーテ
副将兼遊軍:ガフォル
海岸線国境
7000
大将:ネッツ
副将:フォルク
副将:トレノ
この日の翌日より、各将は己の持ち場に向かって進軍を開始してゆく。