【やり直し軍師SS-30】双子、北へ(遊びに)ゆく。⑥
「サピア様……」
なおもあっけに取られた表情で座り込んでいるランゲットとキリーズは、女王を見ながら言葉を探す。
「良い。主らの突きも見事であった。あれらが規格外なだけよの」
視線の先には、レイピアの突き方を試しながら遊ぶ双子の姿。
「あれらは巫山戯てはおるが、ロアの側近ぞ。帝国に連れて行ったほどの、な。そして先の決戦では僅か3人で砦を一つ落とし、さらに敵を大混乱に陥れたという。わずかでも侮れば、勝機などない。……そういえば、残りの1人はそこのサザビーであったかの」
ニヤニヤしながらサザビーを見るサピア女王。そして好戦的な目つきでサザビーへと視線を移す、ランゲットとキリーズ。本当に勘弁して頂きたい。
サザビーはそっとニーズホックの背後へ身体を移動させる。そんなサザビーの姿を見て、女王は軽く笑って双子へと矛先を変えた。
「さて、次は妾達の番じゃの。休憩は必要か?」
「不要だな!」
「今、いい感じにコツが掴めたところだ!」
双子の返事を聞いて、女王は早々にレイピアを双子へ向けた。ジュベルノも女王の一歩後から、レイピアを構えた。
ーーー強いーーー
サザビーでも断言できるほどに、女王とジュベルノは強者の雰囲気を纏っていた。仮にサザビーが任務先でこの2人を見かけたら、逃走一択だ。
だがそんな相手に対しても双子は双子のまま。
「今度はもっと楽しそうだぞ! ユイ!」
「もしやられたら、今日の酒は奢りな! メイ!」
双子もレイピアを構え、場は再び急速に緊張感を増す。
だが、この2組の戦いは決着を見ることはなかった。
直後に女王の元へ伝令が飛び込んできたからである。
「サピア様!」
「何じゃ? 今面白い所である。急ぎでなければ、後にせよ」
「そういう訳には参りませぬ! 雪狼の集団が、レターの村を襲ったとの知らせが!」
「何じゃと!? 間違いではないのか!?」
「はっ。間違いございません!」
女王は厳しい顔でしばし考え込むと、すっとレイピアを下ろす。
「すまぬが今日はここまでぞ。聞いての通り急用ができた。妾はすぐに出かけねばならなくなった」
女王の言葉を聞いたサザビー。その視線の先で、双子が笑顔になったのを見逃さなかった。
「サピア女王」
「私たちも手伝うぞ」
「ぬ? いや、客人に我が国の問題を手伝わせる訳にはいかぬ」
正論で返す女王に、双子はさらに畳み掛けた。
「友好国の危機だ。見逃せんな」
「ああ、心がいたむ」
「雪狼は危険なのだろう?」
「腕のあるものは数いて困らんだろう?」
「ロアからツァナデフォルが困っていたら手伝ってやれと言われた」
「ここで力にならなくて、何のための使節団だ?」
……最後のは絶対に嘘だ。サザビーは確信する。しかしここでそれを声高に言ったところで、双子が大騒ぎするだけ。
「……そうまで言うなら。手伝ってもらおう。怪我をしても知らぬがな。実際問題、腕の立つ人手はあった方が良い。雪狼というのは手強い。しかし……本来は人里を襲うような獣ではないのだが……」
「細かいことは道中で聞く」
「急いでいるんだろう、さあ、行くぞ!」
「……うむ。そうだな」
もはや強引に同行を決めて早々に飛び出す双子を見送ってから、俺も強制だよなぁと、サザビーは遠い目をしながら覚悟を決めた。
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「元々、雪狼は人里に出てくるのも珍しいもの達であったのだ」
道中、馬を急がせながら女王が双子に説明する。
「それがなんで襲ってきたんだ?」
「……もしかして、飯か?」
「……それしか考えられんな。この凶作は人だけではない。獣達にも少なくない影響を与えておる。恐らくは雪狼も山に食い物がなくなって降りてきたのだと思う」
「なるほどな」
「で、どうするんだ?」
「本来、雪狼は山の守り神とされておる。我が国も相応の礼儀を持って対応しておったが……人を襲ってはもはや……討伐するしかあるまい」
サザビーも双子の後で聴きながら、女王の苦しそうな横顔を見た。雪狼というのは、ある種の崇敬の対象であるのだろう。
「狩か」
「なら弓だな」
「そういえばお主ら、弓は?」
「まあまあだ」
「そこそこだ」
サザビーから見ても、双子の弓の腕はそれなりだ。ウィックハルトをして「筋がいい」と言わしめる程度には。先ほどのレイピアといい、双子は武器の使い方が上手いのだ。
「見えたぞ、あの村だ」
都を出発し日が沈むより少し前、女王が指し示す先に鄙びた村が、見た目は穏やかに佇んでいた。




