【やり直し軍師SS-29】双子、北へ(遊びに)ゆく。⑤
サザビーが状況を理解しようとしている間にも、双子は無邪気に女王の持つ武器に近づいてゆく。
「レイピア?」
「知らん」
首を傾げながら、サピア女王の持つ武器を眺める双子と、その様子を楽しげに眺める女王。
「まあ、お主らの国では珍しいのかも知れぬの、なあ、ニーズホックよ」
話を振られたニーズホックは「はい」と頭を下げて、双子に説明を始めた。
「ルデクでは長いこと戦争を行っていたから、武器と言えば集団戦特化。個人戦専用の武器は確かに珍しいわね」
「あの、ロアは知っておろうか? 聞けば、随分と武器に見識が広いらしいではないか」
女王が重ねて問いかけると、ニーズホックは頷いた。
「……おそらく、ロアは知っているでしょう」
「何じゃ、残念よ。一度くらいあの者の鼻を明かしてやりたいものだがの」
「……まあ、珍しいだけでルデクでも一部の貴族は使っておりますから」
「……それもそうじゃの」
女王が納得したところで、双子が
「これは突き専用ってことか?」
「ちょっと使わせてくれ」
と女王におねだり。
「ふむ。余興じゃ、此度は全員レイピアを使うと言うのも面白いかも知れぬ。ランゲット、良いな」
名を呼ばれたのは、昨日双子に手合わせを打診した武官だ。
そんなやり取りを見ていたサザビーは、そもそも女王が手合わせに出ることについては、誰からも何もないのだろうかと思ったが、他国の事だ。早々に諦める。
「ははっ、では直ちに準備いたしますが……宜しいのですか?」
「何がじゃ?」
「お客人はレイピアを使ったことがないご様子。些か我らに有利すぎるのでは?」
「……さて、どうかの。まあ、やらせてみようではないか」
女王がそのように言う以上、ランゲットも追及はしない。すぐに人数分のレイピアが用意され、双子にも手渡された。
「おお、軽いな」
「こう? こうか?」
きゃっきゃとレイピアを弄ぶ双子を見ていると、ランゲットがサザビー達にもレイピアを持ってきた。
「あ、いえ、我々はあくまで観客でして」
サザビーが断ると、やり取りを見ていた女王が声を掛けてくる。
「何じゃ、やらんのか? お主もそれなりの腕に見えるが?」
「はは……双子に比べたら児戯のようなものです」
サザビーの返答に、女王はそうか、とだけ口にする。
「まあ良い。では、こちらからは妾とランゲット。それと、参加を希望したのはキリーズだったの……」
「サピア様、私も参加しても宜しいですか?」
もう一人名乗りあげた人物を見て、サザビーは見覚えがあるなと思った。昨日、最も女王の近くに立っていた人物だ。昨日の雰囲気からして、おそらくは女王の懐刀か何か。
「ほう、ジュベルノ。お主がこのような遊びに参加するのは珍しいの」
「サピア様がお出にならなければ、私も観客として楽しめたのですけどね」
猫のようなしなやかな動きの男だ。サザビーには、騎士というよりも、自分たちのような諜報の専門家に近い気配を感じる。
「ふむ、では参加は6名か。ならば2人1組で戦うとしよう。双子もその方がやり易かろう」
「かまわないが、後悔するぞ」
「私たちは2人なら無敵だからな!」
「ぬかしよるわ。では、その無敵ぶりを見せてもらおうか。妾はジュベルノと組む。ランゲットとキリーズ、まずはお主らで双子の相手をして見せよ」
「はっ。……刃先は守っているとはいえ、良いのが入って女王の順番は回らぬかも知れませぬが……」
自信を漲らせたランゲットの言葉に、女王は満足げに頷く。
「それでこそ我がツァナデフォルの戦士よ。だが、油断はするなよ」
「はっ」
こうして、双子対ランゲット・キリーズの手合わせが始まった。
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「なんか、変わった体勢だな」
「こうか?」
双子に対して体を斜めにして対峙するランゲットとキリーズ。それを見た双子は、楽しそうに真似をする。
「では、参る」
ランゲットの表情が変わり、同時に張り詰めた空気がその場を包んだ。
ジリジリと距離を詰めるランゲットとキリーズ。
「ふっ」
不意に目で追うのが困難なほどの速さの突きが、両名からほぼ同時に放たれる!
「おおっ」
「あぶねっ」
左右に回転しながら避ける双子。回りながら器用に元いた場所へと戻るも、立て続けに放たれる突き、突き、突き!
だが、繰り出されるレイピアは双子に触れることはない。
「速いな!」
「なるほど、これは面白いな!」
それどころか楽しげに繰り出される突きを観察する余裕さえみせる。ここに至り、ランゲットとキリーズもその異様さに気づき始めた。
「なんだこ奴らは……」
2人に焦りが出始める。突きが雑になったその瞬間、双子はそれを見逃さない。
「よっと!」
「こうだな!」
直後、胸を突かれ尻餅をついて呆然とするランゲットとキリーズ。
その眼前で無邪気に喜ぶ双子。
そんな中、
「だから油断するなというたであろう」
と、結果を予見していたようなサピア女王の言葉が静かに響いた。




