【やり直し軍師SS-284】グリードル26 西の強国
更新再開いたします!
今回は全部で10話です!
ガシャリガシャリと鎧を鳴らしながら、王宮を闊歩する大柄の将。その人物が向かったのは、王の執務室だ。
部屋の前にいた衛兵に来訪と目的を告げると、少しして扉が開く。
「失礼致します」
部屋に迎え入れられると、執事がすぐに椅子へと誘うが、将は「鎧なので結構」と断って王の前へと立つ。
「どうした?」
良くある事なのだろう。王は眉を顰めることもなく、淡々と問うた。
「東の一件につきまして」
「グリードルのことか? また何か騒ぎを起こしたか?」
「左様です。ナステルへ本格的に侵攻したようですな」
「ナステル? ランビューレに背を向けてか? 暴挙にしか思えぬが……」
王が首を傾げ、将も「然り」と言いながら続ける。
「しかしながら今のところ、ランビューレに動きはないとの事。或いはグリードルとなんらかの密約がなされたのかもしれませんな。だが、それよりも」
将がずい、と一歩前に出る。何か面白いことを思いつた時の癖であった。
「それよりも、なんだ?」
「ナステルはエニオスに援軍を求め、エニオスはそれに応じました」
「ほお。つまり、エニオスは今、手薄か」
ここに至り、王もニヤリと笑みを見せる。
「左様。少々“痛い目”に合わせてやっても良いかと」
「そうだな。エニオス領にはさして魅力を感じはせんが、いい加減あやつらの動きは腹に据えかねていたところだ。ここで一度、心胆寒からしめるのもよかろう」
「では、私にお任せいただけますかな?」
「くくっ。そのためにわざわざ鎧まで纏って、この部屋に来たのであろう? 良い。ビルザドルよ、お主を大将とし、全て任せる」
「はっ。ありがたく」
こうして王より言質を取ったビルザドル=ゾディアックは、機嫌よく執務室を退出したのだった。
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帝都へと戻るサリーシャ達を見送ったドラク。以降は第二皇妃ピスカの実家、ワールナート家の伝手を辿り、ナステル南部の貴族の切り崩しに着手していた。
ナステル有数の大貴族であるワールナート家がグリードルへ加わったことは、ナステル国内に大きな衝撃を与えている。
特に影響力の大きな南部ならば、グリードルへ靡く貴族も多いと踏んでの事だ。
しかし、ドラクの読みは今のところ、目に見えた成果には繋がってはいなかった。
「思ったよりも動きが鈍いな」
ドラクが思わずこぼした言葉。それを聞いたピスカの兄、レガヴィスが申し訳なさそうに頭を下げた。
「当家の影響が及ばす、恥じいるばかりです……」
「いや、ワールナート家のせいではないだろう。思ったよりも俺の人気がねえのかもな」
そんな会話をしていると、エンダランドが部屋に入って来た。入室早々、開口一番に、「南部の動きが鈍い理由がわかった」と言う。
「何が原因だ?」
ドラクが問うと、エンダランドは苦い顔をしながら事情を話し始める。
「ナステル王より各貴族に通達があったようだ。『グリードルとランビューレの休戦は1年。それまで時間を引き延ばせば、ランビューレは必ずグリードルへ攻め入ると約束した。1年程度ならエニオスと協力して守ることは容易い。間違っても反逆者ワールナートに与するな』とな」
エンダランドの言葉を聞いて、ドラクの脳裏をスキットの憎たらしい顔がよぎった。
「……あの野郎、いやらしい手を使いやがる」
しかし、有効な手立てだろう。実際にナステル南部の貴族達は、どちらにつくべきか迷っている。
「……どうする。このままでは埒が明かぬぞ。多少の犠牲を覚悟で、ナステルの王都へ攻め込むか?」
南部貴族の切り崩しが難航している今、無駄に時間を浪費するわけにはいかない。となれば、取れる選択肢は一つしかない、か。
スキットはここまで読んでいたはずだ。仮にナステルが負けたとしても、無理攻めではグリードルの被害は甚大となる。その後ランビューレが動けば……。
しかし、このままでは1年の休戦などあっという間。
「……それしかねえか」
いずれにせよナステル攻略を成せなければ、グリードルの未来は厳しい。ならば、犠牲を覚悟でナステルの王都へ攻め込むしかない。
「よし、兵をまとめろ。王都へ向けて出陣する。それとレガヴィス。貴殿はこのまま南部に残って、貴族達の翻意を促してほしい」
「いえ、私も共に参ります!」
「もちろんその先の戦いには、貴殿の力も借りよう。だが今、南部のことを任せられるのはレガヴィスだけだ。頼む」
「……かしこまりました」
こうして南部はレガヴィスに任せ、王都へと向かったドラク軍。
ドラク達が進軍を始め、ナステル王都まであと半分となった頃の事だ。
「エニオス軍、ナステルより撤退!」という、信じがたい一報が届いたのは。