【やり直し軍師SS-28】双子、北へ(遊びに)ゆく。④
到着初日の歓迎会。
ロアであれば「愉快なやりとり」と一言で済ますような、しかしながらサザビーのような一般人には、予断を許さぬとしか表現のしようがない宴であった。
女王サピアと双子は十年来の友のように盛り上がっていたため、大きな問題こそ起きなかったものの、一連のやり取りによって、憔悴しきった同行の外交官には、せめて夜はゆっくり眠れますようにと祈るばかりだ。
そして歓迎会後の夜。
「折角だから、街の酒場にも顔を出してみます」
周囲に断りを入れて、サザビーは用意された宿を出る。
食べ物の流通が少ないためか、夜の大通りは少々寂しげだ。が、流石に首都。ポツポツと酔客を呼び込む灯りが灯っていた。
「さあて」
夜の空気を吸い込んで、一度伸びをしたサザビーは独り、夜の街並みを冷やかし始める。そうして少し歩いたところで、わずかに感じる視線。
まず間違いなく、ツァナデフォルの諜報部だ。サザビーの行動を警戒し、尾行してきた。
ーーよしよし。しっかり見張っていてくれよーー
背後に視線を感じながら、サザビーは夜の散歩を続け、適当な店に滑り込む。
適当に目についた肴と酒を頼み、店内を見渡す。そこそこに繁盛しており、味も期待できそうなのは良い。
サザビーの今日の役割はこの店でダラダラと飲んで、頃合いで宿に帰る事だ。サザビーがこの場で相手の諜報の目を惹きつけている間に、本命の同僚が現地に潜む仲間と連絡を取る。つまり、サザビーは囮であった。
特にこの国に含むところはないが、諜報部として公に聞かれたくない話もある。今回のような機会は、細かな情報交換に丁度良い。
そして、良くも悪くも今のサザビーは些か有名人である。第10騎士団に日常的に出入りし、ロアとの交流も頻繁。まして、フェマスでは双子と共に勝利に大きな貢献をしている。
当然周辺国はサザビーのことも調べ、自分たちの”同業者”の可能性を高めている。そこで、ネルフィアが他国の裏を掻く方法として「エンダランド様を見習ってはどうですか?」と提案。それが囮役である。
ルデク滞在中のエンダランド翁が、自分が目立つことで他の帝国諜報部が動きやすくしていると言うことは、しばらく翁を観察した結果、判明している。
分かっていても翁は目の離せない存在なので、見事に振り回されている状況だ。流石は帝国の長耳と呼ばれる実力者。
今回はサザビーが翁の役割の真似事。今のところ、ネルフィアの目論見はうまくいっているようだ。
現にサザビーがこの店に入ってから、自分と同じ匂いのする客が別々に3名入ってきている。諜報としては有名になるのはいかがなものかと思うけれど、こればかりはままならないからなぁと酒を煽りながら独り、苦笑。
それからエンダランド翁もこんな気持ちで酒を飲んでいるのだろうかと、少しだけ愉快な気持ちになった。
それにしても、暇だなぁ。
流石に綺麗どころと遊ぶ気にはならないし、かといって何をするにも知らぬ街だ。肴はそれなりだが、先ほど晩餐を頂いたばかりである。
ネルフィアは今、何しているかなぁ。
そんなことをぼんやりと考えながら、サザビーの夜は更けて行く。
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翌朝、朝食のために食堂へ顔を出すと、双子が既に支度を整えて食事中であった。
「お、サザビー、遅いぞ」
「今日は朝から忙しいんだ!」
そんな風にいう双子は何やら楽しそうだ。
「おはようございます。昨日の約束ですよね。まだ約束までは時間がありますよ」
双子が交わした約束とは、晩餐の終わりの頃にツァナデフォルの将から誘われた力試しのこと。要はちょっと拳で語ろうぜってやつだ。
声を掛けてきたのは、女王に対する双子の態度に渋面を作っていた人物。見た目からして腕には自信があるのだろう。少し、無礼を窘めてやろう。そんな思惑が見え隠れしていた。
不穏な誘いではあるが、サピア女王も「面白そうじゃ。妾も立ち会おう」と言っていたので、あまり大袈裟なことにはならない。……と、思いたい。
元々サザビー達は他の使節団と違って、これといった用事はない。各所の話し合いが終わるまでは、適当に街をぶらついて時間を潰すつもりだった。双子としては新しいイベントが起きてご機嫌である。
一応こちらも何かあった時のために、サザビーとニーズホックが同席する。
双子が本気で暴れたらサザビーでも止めるのは難しいが、ニーズホック様と2人なら、一人くらいは何とかしたい。
と言うわけで、サザビー、双子、ニーズホックは訓練場へと足を運ぶと、指定された場所には既にサピア女王もいた。
それはともかく、女王が妙に動きやすい格好というか、具体的には軽鎧を纏っているのが大変気になる。
「女王! それなんだ!」
「ほっそい剣だな。すぐ折れるぞ」
双子の言葉に、女王は手に持った武器をスッと手前に突き出してみせる。
双子と同じくらい身長のある女王が一直線に細剣を突き出す様は非常に絵になっており、サザビーも思わず見惚れるほどだ。
だがすぐに、
「これはレイピアと言う武器だ。安心しろ、妾はちゃんと剣先を保護したものを使う」
と言う女王の言葉の意味を理解し対応を検討するために、朝から頭をフル回転させるハメになった。




