【やり直し軍師SS-274】グリードル 閑話① リヴォーテの日記(旧)
更新再開いたします!
前半後半それぞれが別の続き物なのもどうかと思いましたので、今回のドラク編は閑話がメインとなります!
お楽しみいただければ嬉しいです!
俺の名はリヴォーテ。
敬愛するドラク皇帝陛下の覇業をお助けするために、グリードル帝国へやってきた。
手土産に一軍を率いてきたとはいえ、端から見た俺は、ただのガキだ。連れてきた兵だけ取られて、子供扱いされる事を危惧していたが、陛下はやはり只者ではなかった。
驚くべきことに、陛下は俺の才能を買い、側に置いてくださったのだ。
このように書き記すのもなんだが、俺はグリードル陣営でもそれなりに活躍している方だと思う。
ナステルへの遠征にも連れてきて貰えたのは、陛下の信頼の証であるはずだ。
この遠征、予想外のことが様々に起きている。大きなところでは、陛下と第2妃様との対面の場であったはずが、第3妃様までやってきたのである。
第3妃の逃げてきた理由は、俺が横で聞いても噴飯物の話だ。全く、この平原にある国々には碌な王がいないとつくづく思う。陛下を除けば。
それにしても陛下はこのような想定外の状況にあっても、しっかりと第3妃を受け入れになられた。素晴らしい器である。
ところが騒動はこれだけではなかった。まさか、サリーシャ様までお越しになるとは。それもスキット=デグローザという、とんでもないおまけ付きで。
スキット=デグローザ。若くして強国の宰相にのし上がった人物だ。出自は弱小貴族の三男だったと聞くから、本当に才覚のみで駆け上がってきたのだろう。
俺にとって、尊敬するのはドラク陛下ただ一人だが、スキットは敵ながら俺の理想である。俺もいつかは、陛下の元で“若き宰相”などと呼ばれてみたい。
グリードルでは何よりも実力がものをいう。これからも戦場で活躍を続けることができれば、決して不可能な話ではないはず。
だから、今回、陛下から下された任務もきちんとこなして見せよう。
陛下は俺とガフォルに、サリーシャ様および、第2、第3妃様を帝都まで送り届ける事を命ぜられたのである。
一旦前線からは離れることになるが、陛下にとってサリーシャ様は非常に大切なお方であるのだから、その護衛を任せられるというのは大変に誇らしい。
出発まではまだ数日あるが、怠りなく準備を進めよう。
だがひとつだけ、ひとつだけ問題がある。
俺は普段、弱音を吐くことはない。だからこうして、日記に認めようと思う。
我ながら、これはなかなか良い思いつきだ。弱音や思ったことは日記の中に閉じ込め、普段は極めて冷静な男として出世街道を邁進するのだ。
話がそれた。初めての日記なので、書こうとしていることがまとまらない。思いのままに書き綴れば良いのだろうが、存外難しい物だ。
また話がそれてしまった。もしかすると本能的に弱音を吐く事を避けているのだろうか?
思い切って書こう。
俺はサリーシャ様が少し苦手だ。なぜなら―――
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「リヴォーテ、少し相談があるんだが」
部屋をノックしたのはガフォルだ。俺は慌てて日記をしまってから扉を開けた。
「なんだ?」
「妃様方をお連れする馬車のことなのだが……」
「ああ、それなら……」
「なるほど。では、そのようにサリーシャ様にも報告しよう。リヴォーテにも一緒にきて欲しいのだが、暇か?」
「あー……ま、構わん」
「何かしていたのか?」
「いや、大した事はしていない。ちょっと休んでいただけだ」
「それは悪かったな。では、行くか」
俺が返事を濁すも、ガフォルはさして気にせずに進み始める。こいつの細かい事を気にしない主義を、俺はそれなりに評価している。
サリーシャ様の部屋に着くと、俺達はすぐに招き入れられた。
「どうしたの?」
「実は馬車の手配の件で……」
「じゃあ、ちょっとお茶を入れましょうか。ふたりとも、座って」
と言いながら、侍女が止めるのも聞かずに自らお茶の用意を始める。その準備の間に、わざわざ俺の頭を2、3度撫でて、髪をくしゃくしゃにする。
「おやめください」
「あら、嫌だった?」
くすくすと笑いながら、立ち去るサリーシャ様。
お茶が用意され、お菓子も配られる。俺の皿だけお菓子が多い。
「サリーシャ様、私の分だけ多いようですが……」
「食べ盛りなんだから、たくさん食べなさい。好きでしょ、甘いもの」
「い、いえ……特に好きというわけでは……」
正直甘いものは好物だが、このような場所で喜ぶような子供ではない。
「残したら包んであげるから好きに食べなさい」
「……はい。それよりも馬車の件ですが……」
俺の説明を聞いて納得したサリーシャ様は、うんうんと頷きながら立ち上がると、再び俺の近くに来て頭を撫でる。
「サリーシャ様、おやめください! 私は子供ではありません!」
俺の強い抗議にも、サリーシャ様は笑うばかり。
「ようやく年相応に怒ったわね。リヴォーテ。良いじゃない」
「揶揄わないでください!」
「ごめんごめん」
笑いながら謝るサリーシャ様であるが、いつもこんな感じである。
俺はサリーシャ様がつくづく苦手だ。
まるで、年の離れた姉上と話しているような気分になるからだ。