【やり直し軍師SS-273】シューレット⑤
今回の更新はここまでです!
後半パートも続き物になってしまいすみません!
次回更新再開は5月18日を予定しております!
「私もザードとこの国に残る」
そう宣言したのはパリャである。
ゾディアがシューレット国内の情報収集を、ザードに依頼したやり取りを見ての発言だった。
「しかし、先ほど我々は捕まったばかりだ。あまり賛成はできかねるね」
パリャの言葉にベルーマンが難色を示すも、パリャは譲らない。
「やられっぱなしってのは性に合わないんだ。それに、あたしはシューレットの出身だから、自然に町に溶け込めると思う」
「けれどなぁ……」
基本的には団員の意思を尊重するベルーマンだが、流石に危険にすぎると判断したのだろう。なおも言葉を重ねようとするが、それをパリャが遮った。
「あたしは大丈夫だよ。それよりもザードだけじゃ不安だよ。シューレットで何が起きているか、自分で確認したい」
ザードに対してあんまりな物言いであるが、当の本人はヘラヘラしたままやり取りを眺めている。
依頼をしておいてなんだけれど、正直なところ、ゾディアにもザードがどこまで信用できるかわからない。どうにもつかみどころのない人物だ。
一応これは仕事としての依頼なので、ザードに賃金を払うと約束して、半金を先に手渡していた。
ザードがその金を持ち逃げしても、仕方ないと思っている。その場合は、先ほど助けてもらったお礼と考えれば良いと。
国内情勢云々を置けば、パリャが一緒なら安心できる。けれどベルーマンの言う通り、非常に危険な選択だと思う。
ゾディアがザードに視線を移すと、ザードもこちらの視線に気づいたようだ。表情はそのままに、パリャとベルーマンの会話に口を挟み始めた。
「ベルーマンの旦那のおっしゃることもよーく分かりますが、俺が生活している分には、特別シューレットが不穏てわけじゃありませんぜ」
「出会った時に兵士から追い立てられていたザードに言われてもな……」
ベルーマンの正論にザードは自らの額を大袈裟に叩いて見せて、
「たはー! それはなんともですが、ま、ちょっとしくじっただけでして。ですが、事実ですよ。少なくともこの辺りでおかしなことは起きてないと、俺が保証します」
自信満々に胸を叩いたザード。それを胡散臭げに見つめたベルーマンだったけれど、ようやく折れた。
「……全く、危険だと思ったらすぐにゴルベルに逃げるんだぞ」
そんな風にパリャの頭をポンと叩く。
「分かってるさ。任せておいて! で、あとからルデクトラドに向かえばいいのかい?」
パリャの質問に、ベルーマンは腕を組んで少し考える。
「……いや、ゴルベルの王都、ヴァジェッタに向かおう。あまりやりたくないけれど、ゴルベルに入ったらすぐに近くの砦で保護を願い出る。なら、王都ヴァジェッタでゴルベル王にも事情を説明する必要があるんじゃないかな。だからそのままパリャ達の帰りを待って、ルデクトラドに行こう」
「分かった。じゃあ、半月から一月を目処に情報を集めてからヴァジェッタに行くよ」
「くれぐれも気をつけてくれよ」
「大丈夫! それよりも早く行った方がいいよ。衛兵達が起きて追いかけてきたら大変だ」
出発を促すパリャをゾディアは軽く抱きしめてから、ザードに声をかけた。
「パリャを頼むわね」
「もちろんでさ! お任せください!」
本当に言葉が軽いなぁと内心苦笑しつつ、密かにザードの星を読んだ限りでは、多分大丈夫だろうと思いながら、ゾディアたちは2人を残してゴルベルへと急ぐのだった。
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ゴルベルへと脱出したル・プ・ゼアは、国境付近の砦で速やかに保護される。
これはロアが『念の為』と半ば強引に持たせてくれた、“ロアの認め状”の存在が大きい。
同じ物が他に存在しないため、便宜上、認め状などと呼んでいるけれど、要は『ル・プ・ゼアはロア=シュタインが後ろ盾だから、何かあったらロアまで』という内容の代物だ。
自由を愛する旅一座としては、こういった権力に頼むようなものを使うつもりは毛頭なかった。
しかしながら今回は、流石に頼らざるを得ない状況である。場合によってはロアが出る必要さえあるかもしれない。出し惜しみをしている場合ではない。
この認め状の効果は、ゾディア達が想定するよりも強力であった。
大袈裟に過ぎる一小隊の護衛の元、ゴルベルの王都まで送迎され、到着後も早々にゴルベル王シーベルトとの謁見が許される。
シーベルト王に事情を説明すると、王は直ちにロアの元へと早馬を走らせた。仲間を待つために、しばらく街へ滞在したい旨願い出ると、城の一角に部屋すらも用意された。
どれもこれも、なかなかに落ち着かない扱いだけど、今は甘えさせてもらう事とする。
それからパリャを待つこと、一月。
そろそろ戻ってきてもおかしくないのではないかと、団員が皆心配し始めた頃。
ゾディア達の前にやってきたのは、パリャではなく、ルデク宰相ロア=シュタインその人であった。