【やり直し軍師SS-27】双子、北へ(遊びに)ゆく。③
「まるで要塞みたいですね」
ツァナデフォルの首都、バーミングを見たサザビーの第一声。
装飾は少なく、色彩も地味な灰色。
規模は相応であるが、王都ルデクトラドや、帝都デンタロス、それよりも規模の小さいゴルベルの首都ヴァジェッタと比べても、地味な印象は拭えない。
色味といえば、城門にささやかに飾られている、青を基調としたツァナデフォルの紋章くらいなものだ。
城壁はそこまで高くはないのに、妙に威圧感を感じるのはこの色味のせいだろう。
「ツァナデフォルを良く表している気がするわよね」
質実剛健。ツァナデフォルを評する時によく使われる言葉だ。サザビーは改めて気持ちを引き締める。
「おお! なんかかっけえな!」
「早く入ろうぜ!」
サザビーは引き締めたばかりの気持ちが少し緩んだ気がして、密かに苦い顔をした。
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こちらを途中まで出迎えにきてくれていたツァナデフォルの将に従い、サザビー達はいよいよバーミングの街の中へ。
街の中は意外と普通だ。おそらく雪や寒さへの対策なのだろう。屋根の形や入り口の様式がルデクとは違って面白い。
全体的にやや活気が乏しい気がするが、これはツァナデフォルに限ったことではない。凶作の影響がまだ色濃く残る現在、北の大陸はどこもこんなものだ。
行き交う市民からの視線に棘はない。皆興味深そうにルデクの使節団を見送っていた。これはなかなか悪くない状況だなと、サザビーは客観的に判断する。
そんな人々の中から、双子の前に不意に子供が飛び出してきた。猫を追いかけて周りを見ていなかったようだ。
「うおっ」
「あぶねっ」
慌てて馬を止める双子。幸い接触はなかったが、驚いた子供はそこで泣き出す。慌てて子供を道端に動かそうとするツァナデフォルの将を、双子が制した。
「おいおい、それじゃもっと泣くだろ」
「それよりもちょっと代われ」
メイゼストが馬を降りて、将から子供を奪うと、そのまま持ち上げてユイゼストに渡す。どうするのかと思ったら、ユイゼストはそのまま子供を自分の前にちょこんと座らせた。きょとんとする子供。
「この子の親、いるか!」
「ちょっと道案内してもらうから、借りるぞ!」
そんな風に言いながら、双子は周りに手を振って笑う。麗しい見た目と言葉のギャップに戸惑う人々の中から、子供の親が飛び出してきた。
「申し訳ございません!」
「気にすんな! 後でちゃんと返す、サザビーが!」
「おい、お前、街を案内したら後でなんか美味いもの、奢ってやるぞ。サザビーが!」
子供に笑顔で話しかけると、何事もなかったようにそのまま進んでゆく。
破茶滅茶ではあるが、周囲の印象として良い演出になるかもしれない。サザビーは素早くニーズホックと目配せをして意思疎通を図り、早々に子供の母親のフォローに回る。
そうしている間にも、すでに笑い声さえ聞こえる子供と共に、双子は楽しそうに大通りを闊歩してゆくのだった。
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「遠路はるばる、ご苦労であった!」
女王サピア=ヴォリヴィアノ。帝国で一度実際に見ているが、サザビーは改めてその迫力に舌を巻く。皇帝ドラクともまた違った、氷刃のような鋭い威圧感を放つ御仁だ。
「お招き頂き、ありがたく存じます」
ニーズホックが代表して挨拶の文言を述べて頭を下げ、サザビー達もそれに倣う。サピアは一度大きく頷き、ニーズホックと形式的な言葉を二、三交わすと、改めて使節団全員に向かって声をかけた。
「楽にせよ。貴国のおかげでこの難局をどうにか乗り越えられそうなのだ。礼を言うのはこちらの方だ。使節団の者達の安全はこの私が保証しよう。数日間、快適に過ごすが良い」
ツァナデフォルにも当然ルデクの食料支援は及んでいる。サピアはその事を指しての礼である。
「お気遣いに感謝いたします」
改めて礼を述べたニーズホック。ここから数日間は様々な部門との話し合いの時間が取られる予定だ。
議題はいくつかあるが、大きなところでは街道整備に関すること、そしてトゥトゥの買い入れについて。あとは国境を接した事による、細かな折衝である。
今回は話し合いの第一歩という感じで、互いの主張を確認し合う場となる。
「ところで、妾の期待通り其方らも来たのだな」
サピアの視線が双子に移った。
「お目にかかれて光栄ですわ」
「ですわ。ほほほ」
双子がなんか変な挨拶をする。違和感がすごいが、一応気を使ったのか? ハラハラするサザビーをよそに、サピアが続けた。
「普段はそんな口調ではなかろう? いつもの通りで良い。先ほどはうちの子が世話になったな」
「そうか、それなら楽でいい」
「さっきの、女王の子なのか?」
良いと言われたからといって、あっさりといつもの調子に戻る双子に、使節団は青くなり、ツァナデフォルの臣下の中にははっきりと剣呑な顔をする者もいる。だが、当人達はいたって気にしていない様子だ。
「我が国の子らは、等しく我が子よ」
「なるほど」
「じゃあ、危ないから今度は馬の前には飛び出すなって言ってくれ。怪我してもつまらん」
「ははは、そうよの。注意しておこう!」
そうして楽しそうに笑う3人の声だけが、謁見の間に響くのであった。




