【やり直し軍師SS-264】グリードル21 ピスカ=ワールナート
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GWいかがお過ごしでしょうか。暇つぶしの一助となれば幸いでございます。
「ドラク=デラッサだ」
ドラクが名乗ると、初老の男は跪いて臣下の礼を取る。
「私めが、ワールナート家当主、レガヴィス=ワールナートにございます。愚息より話は聞きました。此度の戦いにおいて、命を救ってもらったと……」
「いや、義兄殿は十分によく戦っていた。我々はその力添えをしたに過ぎん」
「もったいなきお言葉にございます。先だっての戦の一件を見ても、陛下の元に降ったのは間違いではなかったと確信いたしました」
「少々慌ただしいが、良い機会だ。その話を進めてしまおう。改めて問おう。ナステルの大貴族、ワールナート家は我がグリードルへ降り、また、その娘を輿入れさせたいという意思に相違はないか?」
ドラクが改めて聞けば、レガヴィスは一度顔をあげて、「相違ございません。グリードルの末席に座ること、お許しいただけますでしょうか」と再び頭を下げる。
「許す。今後は我がグリードルのために励んでいただきたい」
「ありがとうございます。我が娘はもちろん、愚息も預かって頂きたく。まだ頼りないとはいえ、それなりに指揮官として働けると思います」
「しかし、義兄を戦場で連れ回すというのは考えものだが?」
「それは、当家の後継にご配慮いただいたお言葉と愚考します。しかしご安心召され。ザードバルには兄がおります故、次の当主はその者に。ファナシスよ、ご挨拶を」
レガヴィスに促され、レガヴィスの背後で同じように跪いていた人物が1人、立ち上がった。
「ファナシス=ワールナートにございます。陛下に拝謁の機会を得、光栄の極みにございます」
「ファナシス、貴殿も我が義兄となる。よくよく次代のワールナート家を率い。グリードルの助けとなってくれ」
「はっ!!」
こうしてひとしきり挨拶が終わり、一旦休憩となった。ドラク達は控えの間へと移動する。しばらく休んだら、いよいよレガヴィスの娘、ピスカ=ワールナートと対面となる。
控え室でどかりとソファに腰を下ろし、大きくため息を吐くドラク。そんな様子を見たエンダランドがニヤニヤとドラクを見てくる。
「なんだ? なんか言いてえことでもあるのか?」
「いや、なんというか皇帝らしい対応も、多少は板についてきたと思ってな」
「うるせえ」
ドラクは鼻白みながら悪態をついた。元はオリヴィアから『せめて公の場ではその乱暴な口調をどうにかせよ。阿呆と見るものもおるぞ』と注意され、皇帝らしい振る舞いというものを教えこまれた賜物である。
そんなドラクへ、フォルクが紅茶を入れて持ってきながら、「しかし陛下、いよいよ第二妃との対面ですね。楽しみです」と言う。
「楽しみなぁ……」
ドラクとしては複雑だ。サリーシャが良いと言うので一応納得はしたが、会ったこともない娘を娶ると言うのはやはりどこか気が進まない。
ワールナート家との関係を考えれば、どれだけそりが合わなくても粗略に扱うことはできないし、もしも、サリーシャと揉めでもしたらと思うと、できればこのまま先送りにしたいほどだ。
実際のところ、ここまできてそんな選択肢など存在しないのだが。
どうにも晴れぬ気持ちのまま、ドラクはその時を待つ。
「……ご準備が整いました。どうぞ」
ワールナート家の家人が呼びにきて、腹を決めて席を立った。
流石にナステルで1、2を争う名家の屋敷だ。ちょっとした宮殿ほどの規模に、広い迎賓の間が設けられている。
「おお、陛下、お待たせして申し訳ございませぬ」
ドラクを見つけて駆け寄ってくるレガヴィス。
「さ、こちらへ」
レガヴィスについて進んでゆくと、淡いピンクのドレスに身を包んだ、小柄な娘が下を向いて待っていた。
「ピスカ、陛下にご挨拶をなさい」
父親から促されて、ピスカはようやく顔を上げる。緊張からか、その顔は真っ赤だ。両手はドレスの裾を掴んだまま少し震えている。
「ご覧の通り、箱入り娘でしてな。不躾で恐縮でございます」
レガヴィスがとりなすように言うので、ドラクは「いや、初対面であれば緊張もしよう」と言いながら、ピスカの前に手を差し出す。
「ドラク=デラッサだ。ピスカ、貴方を我が妃に迎え入れたい」
ドラクの言葉を聞いたピスカは一度ぶるりと身震いをして、
「ピ、ピスカ=ワールナートです。陛下とこのようにお会いできて光栄です……」
最後は消え入るような声で言いながら、おずおずとドラクの手をとった。
思えば、昔からドラクの周りには活発な女が多かった。それはドラク自身が粗暴であったから、おとなしい性格の娘はドラクを避けていたという側面もある。
ドラクも気の強い性格の方が話が合ったし、サリーシャなどはまさしくそういう性格である。
また、最近ドラクの近くにいる女性といえばオリヴィアが浮かぶが、こちらは気が強いを通り越して、なにか別の領域にいる。
故にか、ピスカの反応は少し新鮮だった。ドラクはこの気弱そうな娘に興味が湧く。
「すぐに慣れろと言うつもりはない。徐々に時間をかけて互いを知るべきであろう。何、心配はするな。乱暴なことはしない。それに聞き及んでいると思うが、俺にはすでに1人妻がいる。その者が貴方の良い相談相手になってくれるはずだ」
「は、はい……。お気遣い、ありがたく存じます……」
先ほどまでも十分に赤いなと思っていたピスカは、頭から湯気をあげそうな勢いでさらに頬を染めるのだった。