【やり直し軍師SS-26】双子、北へ(遊びに)ゆく。②
「おいユイ! まだ山にあんなに雪がある!」
「メイ、行ってみるか!?」
ツァナデフォルの北に聳え立つミラジュ連峰を見て、はしゃいだ声をあげる双子。
ルデク領ではとうに雪など見当たらず、旧リフレア領の一部の山の頂上を僅かに化粧するような季節だ。
「焦らなくても山裾まで行くわよ」
ニーズホックの言葉の通り、ツァナデフォルの首都バーミングは、ミラジュ連峰の裾野にあった。
双子はニーズホックの声を聞いているのかいないのか。だが、2人だけで走ってはいかないのを確認すると、取り敢えず放っておかれる。
「全く、あの娘たちは本当に、いつまで経っても変わらないわねぇ……」
嘆息するニーズホック。そんな様子を見ながら、サザビーは声をかけた。
「そういえば、聞いてもいいですか?」
「何かしら?」
「ニーズホック様って、双子の師匠なのですよね? 双子は第二騎士団出身なのですか?」
「違うわよ?」
「え? 違うんですか?」
「ええ、あの子達はボルドラスが何処かから拾ってきたのよねぇ……で、第四騎士団に入れたの」
「拾ってきたって……犬猫じゃないんですから……」
サザビーはそのように答えながらも、その表現はしっくりくるなと、密かに思う。
「それじゃあどうして双子の師匠に?」
「ある日突然、第二騎士団に乗り込んできたのよね。「馬の乗り方、教えろ!」って」
「……よくまあ、それで受け入れましたね」
「一応ボルドラスの紹介状も持っていたし、追い返すのもなんだったから、試験したのよ。そうしたらほら、双子の実力はあの通りだから……結局預かる事になったの」
「そうなのですか……あれ? そのことって、王都の方には……」
「ボルドラスの手紙には、内緒でよろしくって認めてあったわ」
「……よく怒られませんでしたね」
「まあねぇ。ボルドラス、その少し後に別件でめちゃくちゃ怒られたから。双子のことはあやふやになったわねぇ」
「別件?」
「ええ。まあ、正確には別件じゃなかったのだけど。ボルドラスったら、騎士団の予算をかさ増しして申請してたのよね」
「え!? そんな話聞いたことないですよ? それにそれは流石に……」
「もちろん、極秘裏に処理されたもの。多分ネルフィアなら知っていると思うけど。単にボルドラスが私腹を肥やしてるのなら、話は早かったのだけどね……」
「そうではなかった、と」
まあ、今も第四騎士団がそのままである以上、少なくとも大きなお咎めはなかったと言うことは容易に想像できた。
「何せ、水増ししていた予算を使って、重装騎士団を創設するための備品を用意していたの。それを帳簿まで持ってきて説明されたら、王も文句は言いづらいわよね」
「へー。あ、だから騎士団の中で唯一、第四騎士団に重装騎士団があるんですか」
「そうよ。ボルドラスも最初は正規の手続きで創設を目指していたんだけど、ちょっと色々横槍があったみたいね」
「横槍、ですか?」
「主に貴族連中から。お金関係で。」
「ああ、なるほど」
装備品の利権で揉めたか、まあ、ありうる話だ。
「しかし、だからといって予算を水増しして装備を集めると言うのはいささか乱暴では?」
「そうねえ……でも、その欲のつっぱった貴族をちょっとやり込めちゃったから、提案自体が握りつぶされたのよ」
やり込めちゃった? 何をしたのだろうか。
「まあとにかく、水増しがバレて呼び出されたのだけど、元を正せば悪いのは全面的に相手の貴族だったし。結局ゴルベルとの戦いのためと王を説得して、希望通り重装騎士団を作り上げたのだから、流石はボルドラスよねぇ」
「フェマスでも思ったのですが、ボルドラス様ってそんなに無茶な方なのですか?」
「普段は大人しくて地味なのに、やると決めたらまず意見を曲げないタイプよ」
「……それはなんとも……」
「ボルドラスがどこまで考えていたかはわからないけど、結局、重装騎兵部隊は誕生して、突然うちにやってきた双子がその部隊を率いる事になったのよ」
「初めて聞きました……」
「それはそうよね。理由はともかく、騎士団長が予算の水増しなんて表に出たら、処刑ものですもの。多分、揉めた貴族がよっぽどだったんじゃないかしら?」
驚いているサザビーに、ニーズホックは続ける。
「でもまさか、そんな双子が第10騎士団に移籍したことも、それをボルドラスが許したことも驚いたわね。ま、分からなくはないけど」
「そこはなんとなく、俺も分からなくはないです」
突飛な主従だからこそ、あのロアに強く惹かれたのかも知れないな。
そんな会話をしながら、サザビーたちは首都バーミングへと行き道を急ぐのだった。




