【やり直し軍師SS-253】グリードル15 南部侵攻
更新再開いたします!
今回は全11話です!
グリードル軍、南部へ向けて大軍を起こす。
この一報はすぐに各地へ轟いた。周辺国でも特に大きな反応を見せたのは、今まさに攻め込まれんとするナステル。そして北のランビューレ。
ナステルはすぐに、西の隣国エニオスへ援軍依頼の使者を飛ばす。
ランビューレは先だって帝国に敗れたばかりではあるが、しかしこのままグリードルの動きを指をくわえて見ている必要はない。即座に出陣の準備が進められた。
その最中のことだ。グリードルからランビューレに外交の使者がやってきたのは。
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現在はグリードルの支配地域となっている、旧ナステル東部地方。
この東部の守の要となっているのが、ディガントの砦である。
ドラクはこの砦に1万5千の兵を率いて入城。砦に詰めていた南部守備兵も吸収し、2万3千に近い兵士を揃えてナステル領を睨んでいた。
「陛下」
砦の塁壁から西の空を見ていたドラクの元に、エンダランドがやってくる。
「おう、どうだ?」
エンダランドはナステル軍の動きを探るために、多くの密偵を放っていた。それらの情報がまとまったのだろう。
「ナステルも2万を超える兵を準備しているようだ。ナステルが動員できる、ほぼ全軍と見て良い」
「向こうも必死と言うわけだな。で、エニオスの動きは?」
「援軍は了解したようだが、動きは鈍い。様子を見つつ、そんな雰囲気だな」
「そうか、なら、あとは“例の旗印”か」
「確認済みだ」
例の旗印、内々にドラクに接触してきたワールナート家の件だ。エンダランドの手の者によって、戦場にその旗印があることが確認された。
「よし、軍議を開く。全員集めろ」
「承った」
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「ナステル軍は、ここから半日ほど行った先、クロアの砦を中心に展開している」
エンダランドが広げた地図に、全員の視線が集まる。
「クロアの砦に隣接するように流れる、この川が少々厄介ですな」
ジベリアーノが指差した場所。クロアの砦の手前には、やや大きな川が流れている。
「まず間違いなく、渡河するところを狙われるでしょうな。そうなれば、いたずらに被害が増える恐れが」
ジベリアーノに続いて、アインも懸念を示す。
「エンダランド殿の話では、この砦には水濠もあるとのことでしたな。川から水を引いているのでしょう。これも厄介です。しかし、2万もの兵を収容できるほどの規模の砦なのですか?」
その疑問に答えるのはエンダランドだ。
「いや、広さからすれば、籠もれるのは精々5千が良いところだ。これほどの兵数が一度に動くのは、想定しておらぬのだろう」
「ならばやはり、勝負を決するのは野戦」
「そうとも限らん。仮に野戦で勝てたとしても、砦にいる5千もの兵を放置して先に進むわけにはいかぬし、あまりぐずぐずしていると、エニオスの援軍が間に合ってしまう。それと、手当てをしてきたとはいえ、ランビューレの存在を考えれば長期戦は望ましくない」
エンダランドの反論を受けて、リヴォーテが「つまり、逆にいえばクロアの砦さえ落としてしまえば……」と呟くと、エンダランドは大きく頷く。
「ああ。ナステル軍は退くのではないかと思っている。砦を取った勢いに乗って、一気に追い立てることも可能だ」
そんなやりとりを見ていたガフォルが、首をひねりながら難しそうな顔をして、
「エンダランド様の意図は理解しましたが、肝心の砦を落とすのが難しい。いずれにせよ、野戦で事を優位に運ばねば、砦に取り付くこともままならなりません」
と正論を吐く。
そんな活発な議論を黙って見ていたドラクへ、エンダランドが視線を向けてきた。
「陛下はどのようにお考えか?」
「俺か?」
その一言で、一斉に皆の視線がドラクへ集まってゆく。
「俺はな―――」
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「どうあれ、川を挟んで対峙するしかありますまいな」
そのように断言するのは、ナステルの指揮官を任された将、グランディアだ。
「理由を聞こう」
ナステルの宰相であり、今回の戦いのお目付け役であるルドマンドの問いに、グランディアは続ける。
「私が逆の立場であれば、そうするしか手がないからです。クロアの砦は放置できない。だが、目の前にあるイーク川は、多少迂回したところで渡りやすくなるような場所はありませぬ」
「それならば、軍を大きく迂回させて渡河すれば良いのではないか?」
「むしろ、迂回してくれたらこちらとしては重畳でしょうな。手薄となったディガントの砦に、こちらから攻め込みましょう。互いに総力戦、砦の守備兵を手厚くできるとは思えませぬ。ディガントが落ちれば、ここら一帯は我らの物。そうなればいくら2万の大軍といえど、グリードル軍の動揺は避けられますまい」
「確かに、グランディアの言葉には一理ある」
「いずれにせよ、対岸に奴らが着陣すれば、予定通りに当たればよし。そうでなければ、奴らの居場所を確認して、申し上げたようにこちらから攻め入る。どちらに転んでもまずまずかと」
グランディアの説明に満足したルドマンドが、その場を締める。
「よし、基本方針はそれで良い。本日の軍議ははここまでとする」
ルドマンドの宣言によって、各将が立ち上がり、思い思いに部屋を出てゆく。
退出しようとする将の中から、数名がルドマンドに指名され、その場に残った。中にはグランディアの姿もある。
「何か?」
指名された者以外が完全にいなくなったところで、グランディアが代表して口を開く。すると、ルドマンドは全員を見渡し、一拍置いてから、
「ワールナート家が裏切っている可能性がある」
と言った。