【やり直し軍師SS-25】双子、北へ(遊びに)ゆく。①
旧リフレア領、現在は北部ルデクと呼ばれる地域の中でも北の辺り。ここを粛々と……いや、そこそこ騒がしく進む一団があった。
「サザビー! 喉が渇いた」
「酒が飲みたいぞ!」
「ダメに決まっているでしょう!?」
「なんだとぅ、私たちはゲストだぞ!」
「女王に呼ばれた大事なお客人だ!」
「ニーズホック様に言いつけますよ?」
「すん」
「すん」
双子とサザビーは現在、ツァナデフォルへの使者の一団に混ざって彼の国へと向かっていた。用件は親善である。
およそ親善大使には絶対に向かない双子が同行しているのはただ一点、ツァナデフォルの女王サピア=ヴォリヴィアノの希望であったためだ。
元々はニーズホックと第二騎士団が足を運ぶ予定であったが、サピアの方から「以前に帝国で見かけた獣のような2人の女騎士と話がしてみたい」と言い出したのである。
これには流石にルデク側が慌てた。主に外交を司る文官連中が。双子は自他共に認める自由人だ。そしてツァナデフォルは質実剛健を好むお国柄。有り体に言えば頭の固い者たちも多い。
帝国やゴルベルにも出向いたことのある双子だが、どこにあってもさして態度は変わらない。流石にツァナデフォルの気風を考えると拙いのではないか? という意見が出た。
さらにロアは政務の都合でどうしても同行できない点も不安視された。ロアは双子の取り扱いを知る数少ない人物だ。ただ、ここに関してはニーズホックがいるから大丈夫ではないかとの意見も上がる。ニーズホックはロアほどではないが、双子の扱いが上手い。
双子の預かり知らぬところで侃々諤々の議論が交わされたが、結局女王の意見を突っぱねるのも如何なものかという意見の方が若干優勢になり、双子の派遣が決まったのであった。
そしてニーズホックと共に、双子の手綱役に選ばれたのがサザビー。
フェマスの大戦において、たった3人で砦を奪取し、尚且つリフレア軍を翻弄した一件は語り草だ。結果的にサザビーは自然と、ルデク上層部に双子の監視役という印象を植え付けることとなった。
出立前、サザビーはネルフィアの元へゆき、「もし、俺が帰ってこなかったら、せめて悲しんでくださいね」と言い残してやってきている。
ちなみにネルフィアの返事は「はい」と一言。至極あっさりとしたものである。
「酒はともかく喉は渇いたぞ!」
「休憩しようぜ!」
「思ったことを取り敢えず口に出すのやめましょうよ」
そんなやりとりをしていると、前方からニーズホック達がやってくるのが見えた。ニーズホックは先行してツァナデフォルの国境で待っていたはずだ。サザビーは何かあったのかと警戒度合いを高める。
「あら、思ったよりも近い場所にいたわね」
「すん」
「すん」
大人しくなる双子。
「何かあったんですか?」
双子に代わってサザビーが聞くと、ニーズホックが軽く首を振った。
「そんなに大した話じゃないのだけど、予定していた順路で雪狼の群れの目撃情報があったらしいのよ」
「雪狼?」
「なんだそれは?」
「雪狼はツァナデフォル以外ではあまり見ない獣よ。大型で比較的気性が荒い狼ね。頭も良いから単体ならともかく、群れだと厄介。ツァナデフォルでは、群れに襲われたらまず逃げることを考えろと言われる相手よ」
「人も襲ってくるんですか?」
「そうねぇ。あまり聞かないけれど、そういう事もあるって感じね。で、ツァナデフォルとしても、ルデクの使者を危険に晒したくはない。それで急遽、道程が変更されたから、連絡のためにこうして戻ってきたの」
「なるほど。それは助かりますね」
「そうね。だからここからはアタシが先導するわ。着いてきて」
「了解だ!」
「サザビー、我儘言うなよ!」
そんな風に言った双子に、ニーズホックはニコリと笑いかける。
「結構遠くまで聞こえていたわよ? お酒が飲みたいのかしら?」
「すん」
「すん」
まだツァナデフォルまで到着していないのにこれじゃあ、先が思いやられるなぁ。
サザビーは空にネルフィアの顔を思い浮かべながら、遠い目をするのだった。




